599 / 1,559
第十部・ニセコ 編
再会、そして
しおりを挟む
「!?」
『嬉しいじゃないか! 数日も早く愛しい彼に会えるんだよ!? 喜ぶ以外にないだろ!』
『そ、そうですが……』
喜びを露わにするルカを前にして、焦っていた香澄の気持ちが少し落ち着く。
『今すぐBBQの準備をしよう! 彼をパーティーにもてなすんだ』
そう言うとまず彼の別荘に連れて行かれ、BBQの道具を外に出しパーティーの準備が始まる。
ルカは高級食材を置いている店に向かい、惜しげもなく材料を買っていく。
あっという間の出来事で、気がつけば香澄は材料を切っては外に運んでいた。
髪を二つ結びにしてニット帽を被った香澄は、パーカーの上に赤いダウンジャケットを着て、いそいそと別荘のキッチンと外を行き来する。
(これで……いいのかな? ルカさんが言う通りにしちゃったけど……、合ってる?)
心の中は疑問と不安で一杯で、働いていないとどこかに遁走してしまいそうだ。
自然と足も速まり、外の緩やかな傾斜で「おっとっと」とよろめいた時、ルカが「Va bene?」と肩を抱き支えてくれた。
『ありがとうございます』
『どういたしまして』
礼を言うとルカはにっこり笑い、ポンポンと香澄の頭を撫でてから目を合わせてくる。
『気持ちが焦るのは分かるけど、深呼吸して、ゆっくりゆったり構えて。いいね?』
茶色い目でパチンとウインクされ、気持ちが緩んだ時――。
バンッと車のドアが荒々しく閉まる音がした。
ハッとしてそちらを見ると、いつになくやつれた佑が怒りを隠そうともしないで、ズンズンとこちらにやって来る。
「え……っ、ちょ……っ」
――どうしよう。
一瞬で、心の中が焦りで一杯になる。
「あっ、あのっ、佑さんっ」
焦った香澄は、一か月ぶりの再会について何か言おうと口を喘がせる。
が、佑は香澄の横を通り過ぎて、ルカの目の前に立ちはだかった。
『君がカスミの恋人? 僕は――』
佑はルカが陽気に挨拶するのを無視し、次の瞬間思いきり彼を殴りつけた。
「佑さんっ!?」
驚いた香澄は悲鳴を上げ、「社長!?」と護衛たちも慌てて走ってくる。
だが何かが一本切れたような佑は、続けてルカを殴ろうとした。
「やめて!! やめて!! お願い!!」
何が何だか分からない香澄は泣き叫び、佑の右腕に縋り付く。
真っ青な顔でルカを殴っていた佑は、香澄に縋り付かれてやっと動きを止めた。
そして今まで人を殴っていたとは思えない優雅な手つきで、香澄の頬に手を添える。
(――――あ……)
彼の目を見て、ゾクリと鳥肌が立つ。
その目は、激しい怒りが限界を突き破り、恐ろしいまでに冷え切っていた。
彼の雰囲気に呑まれた香澄は、一歩後ずさる。
そのあと、全身を震わせながら本能的に逃げ出した。
(何で!? 何でこうなったの!?)
落ち葉を蹴散らして婚約者から逃げる香澄は、何が起こっているのかさっぱり分かっていない。
佑は笑顔で「会いたかった」と抱き締めてくれると思っていた。
ルカにも「自分がいない間、よく香澄を守ってくれた」と友情を示してくれると思っていた。
それなのに――。
香澄が走って逃げる途中、呉代たちが坂を駆け上がり、すれ違う。
『ミスター、大丈夫ですか!?』
彼らはルカを心配してくれた。
安堵したものの、香澄は追いかけて来る佑に怯えて必死に足を動かした。
(どうしよう!)
走るというより、坂を転がり落ちるという言葉が似合う勢いで逃げていたが、いきなりグンッと強い力で腕を引っ張られた。
「きゃっ」
そのまま、――足を払われ地面に押し倒される。
「あうっ」
転ぶ! と思って覚悟したが、痛みはまったく訪れなかった。
恐る恐る目を開くと、紅葉した木々が秋の晴天に向けてそびえ立つのを背景に、息を乱した佑がこちらを見つめている。
身じろぎすると、耳元でカサリと落ち葉の音がする。
「香澄……っ」
彼が熱の籠もった声で名前を呼んだかと思うと、香澄の唇はキスによって塞がれていた。
『嬉しいじゃないか! 数日も早く愛しい彼に会えるんだよ!? 喜ぶ以外にないだろ!』
『そ、そうですが……』
喜びを露わにするルカを前にして、焦っていた香澄の気持ちが少し落ち着く。
『今すぐBBQの準備をしよう! 彼をパーティーにもてなすんだ』
そう言うとまず彼の別荘に連れて行かれ、BBQの道具を外に出しパーティーの準備が始まる。
ルカは高級食材を置いている店に向かい、惜しげもなく材料を買っていく。
あっという間の出来事で、気がつけば香澄は材料を切っては外に運んでいた。
髪を二つ結びにしてニット帽を被った香澄は、パーカーの上に赤いダウンジャケットを着て、いそいそと別荘のキッチンと外を行き来する。
(これで……いいのかな? ルカさんが言う通りにしちゃったけど……、合ってる?)
心の中は疑問と不安で一杯で、働いていないとどこかに遁走してしまいそうだ。
自然と足も速まり、外の緩やかな傾斜で「おっとっと」とよろめいた時、ルカが「Va bene?」と肩を抱き支えてくれた。
『ありがとうございます』
『どういたしまして』
礼を言うとルカはにっこり笑い、ポンポンと香澄の頭を撫でてから目を合わせてくる。
『気持ちが焦るのは分かるけど、深呼吸して、ゆっくりゆったり構えて。いいね?』
茶色い目でパチンとウインクされ、気持ちが緩んだ時――。
バンッと車のドアが荒々しく閉まる音がした。
ハッとしてそちらを見ると、いつになくやつれた佑が怒りを隠そうともしないで、ズンズンとこちらにやって来る。
「え……っ、ちょ……っ」
――どうしよう。
一瞬で、心の中が焦りで一杯になる。
「あっ、あのっ、佑さんっ」
焦った香澄は、一か月ぶりの再会について何か言おうと口を喘がせる。
が、佑は香澄の横を通り過ぎて、ルカの目の前に立ちはだかった。
『君がカスミの恋人? 僕は――』
佑はルカが陽気に挨拶するのを無視し、次の瞬間思いきり彼を殴りつけた。
「佑さんっ!?」
驚いた香澄は悲鳴を上げ、「社長!?」と護衛たちも慌てて走ってくる。
だが何かが一本切れたような佑は、続けてルカを殴ろうとした。
「やめて!! やめて!! お願い!!」
何が何だか分からない香澄は泣き叫び、佑の右腕に縋り付く。
真っ青な顔でルカを殴っていた佑は、香澄に縋り付かれてやっと動きを止めた。
そして今まで人を殴っていたとは思えない優雅な手つきで、香澄の頬に手を添える。
(――――あ……)
彼の目を見て、ゾクリと鳥肌が立つ。
その目は、激しい怒りが限界を突き破り、恐ろしいまでに冷え切っていた。
彼の雰囲気に呑まれた香澄は、一歩後ずさる。
そのあと、全身を震わせながら本能的に逃げ出した。
(何で!? 何でこうなったの!?)
落ち葉を蹴散らして婚約者から逃げる香澄は、何が起こっているのかさっぱり分かっていない。
佑は笑顔で「会いたかった」と抱き締めてくれると思っていた。
ルカにも「自分がいない間、よく香澄を守ってくれた」と友情を示してくれると思っていた。
それなのに――。
香澄が走って逃げる途中、呉代たちが坂を駆け上がり、すれ違う。
『ミスター、大丈夫ですか!?』
彼らはルカを心配してくれた。
安堵したものの、香澄は追いかけて来る佑に怯えて必死に足を動かした。
(どうしよう!)
走るというより、坂を転がり落ちるという言葉が似合う勢いで逃げていたが、いきなりグンッと強い力で腕を引っ張られた。
「きゃっ」
そのまま、――足を払われ地面に押し倒される。
「あうっ」
転ぶ! と思って覚悟したが、痛みはまったく訪れなかった。
恐る恐る目を開くと、紅葉した木々が秋の晴天に向けてそびえ立つのを背景に、息を乱した佑がこちらを見つめている。
身じろぎすると、耳元でカサリと落ち葉の音がする。
「香澄……っ」
彼が熱の籠もった声で名前を呼んだかと思うと、香澄の唇はキスによって塞がれていた。
22
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」
三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。
一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。
「忘れたとは言わせねぇぞ?」
偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。
「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」
その溺愛からは、もう逃れられない。
*第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる