596 / 1,559
第十部・ニセコ 編
真奈美の怒り
しおりを挟む
秋成は用事を済ませるために、慌てて走っていく。
佑は真奈美に案内され、立派なペンションに感心しながら階段を上がっていく。
「奥さん、香澄さんのお客様がいらしたので、コーヒーをお願いします」
真奈美がキッチンの奥に声をかけると、向こう側から「はーい!」と女性の声が聞こえた。
**
怒りのあまり体を震わせる。
言葉としてはよく言われるが、自分が味わうとは思っていなかった。
真奈美は札幌の近くにある、岩見沢市に生まれた。
高校生までは目立たない存在で、背が小さく痩せているのもあり、いじめられていた時期もあった。
大学進学と共に札幌に移り住み、新しい環境で楽しいキャンパスライフを送るようになった。
三年目には留学もして、すっかり自分に自信がついた。
今は復学までの間、ニセコで語学力を生かし、コミュニケーション能力をさらに高めたいと思っている。
人のいいオーナー夫妻に、口数は少ないが頼れる兄貴分の秋山、爽やかイケメンの和也に出会い、ここの生活が大好きになった。
だが香澄がひょっこり現れ、幸せな生活が壊れていく。
香澄は芸能人のような華やかさこそないが、透明感と清純さを兼ね揃え、人を魅了する雰囲気を持っている。
真奈美と同じくパーカーにジーンズとカジュアルな格好をしているのに、立っているだけで存在そのものが〝違う〟ように感じる。
肌の滑らかさ、光沢はモデルのようだし、側にいるとほんのりといい香りがする。
行動するにも仕草や歩き方が洗練されていて、ドタドタと騒がしくない。
そんな彼女に憧れを抱いたが、同時に女としてライバル心を抱いた。
それだけでなく、生まれた時から札幌出身で、今は東京の大企業で秘書をしている、完全勝ち組の彼女に嫉妬した。
Chief Everyといえば、あの名物のイケメン社長がいる会社で有名だし、女性誌をめくれば必ずアイテムが旬のマストバイアイテムとして紹介されている。
香澄は憧れの大企業でイケメン社長の秘書をしているのに、ニセコまできて〝休暇〟を取るという。
正月でも盆でもないこんな中途半端な時期に、何のつもりなのか。
大企業は休みも自由なのか。
そう思いながらも、ペンションの仕事を手伝うというので色々教えてやった。
最初こそ、彼女は健気とも言える態度で働いていた。
「魅力がある」と思ったので、和也に手を出さないよう釘を刺しておいた。
和也とはここで会い、一緒に生活するようになってすぐ好きになって告白した。
付き合う意味でのOKはもらわず曖昧な関係だが、仕事の合間にキスをする関係になった。
時間がある時はこっそり母屋のベッドでいちゃつき、彼にフェラチオをし、自分も指で達かせてもらい、セックスする仲になった。
すっかり自分の男になったと思っていたのに、和也は香澄が現れてから、彼女ばかり目で追うようになった。
――ずるい。
このペンションで働く若い女性は自分だけで、確固たるアイドル的地位を築いていたと思っていたのに。
それなのに和也は肉がついただけの年増を気にしている。
和也は気付かれないようにしているつもりだろうが、恋をしている真奈美は彼が何をしているかすべて知っている。
香澄の部屋に近付き、彼女が風呂に入っている間はバスルームを気にしていた。
おまけに秋山に向かって「香澄さんって胸がでかいし肌が綺麗ですよね」と何度も言っているのを聞き、気がおかしくなりそうだった。
「婚約者がいるくせに和也さんを誘惑したんだ。信じられない!」
気が付けば、そんな怒りと嫉妬が胸の奥で渦巻いていた。
和也と香澄が二人で買い出しに行き、別々に戻って来た時は「何かあった」と直感が働いた。
もしかしたら、香澄とも関係を持ったのかもしれない。
確認できないまま、真奈美の中で疑惑が膨らんでいく。
気がつけば香澄が憎くて堪らなくなっていた。
気晴らしに彼女の部屋に入り、気にくわない下着――大人っぽい高級そうな総レースのパンティ――を薪ストーブで燃やした。
洗濯物は部屋に入らなければ見えない。
だが覗き込めば、いやらしい下着が干されているのが分かる。
それだけで香澄が和也を誘っているように思えて、とても嫌な気持ちになったからだ。
おまけに婚約者がいると言っているのに、ルカと仲良くなって彼の別荘に入り浸っている。
佑は真奈美に案内され、立派なペンションに感心しながら階段を上がっていく。
「奥さん、香澄さんのお客様がいらしたので、コーヒーをお願いします」
真奈美がキッチンの奥に声をかけると、向こう側から「はーい!」と女性の声が聞こえた。
**
怒りのあまり体を震わせる。
言葉としてはよく言われるが、自分が味わうとは思っていなかった。
真奈美は札幌の近くにある、岩見沢市に生まれた。
高校生までは目立たない存在で、背が小さく痩せているのもあり、いじめられていた時期もあった。
大学進学と共に札幌に移り住み、新しい環境で楽しいキャンパスライフを送るようになった。
三年目には留学もして、すっかり自分に自信がついた。
今は復学までの間、ニセコで語学力を生かし、コミュニケーション能力をさらに高めたいと思っている。
人のいいオーナー夫妻に、口数は少ないが頼れる兄貴分の秋山、爽やかイケメンの和也に出会い、ここの生活が大好きになった。
だが香澄がひょっこり現れ、幸せな生活が壊れていく。
香澄は芸能人のような華やかさこそないが、透明感と清純さを兼ね揃え、人を魅了する雰囲気を持っている。
真奈美と同じくパーカーにジーンズとカジュアルな格好をしているのに、立っているだけで存在そのものが〝違う〟ように感じる。
肌の滑らかさ、光沢はモデルのようだし、側にいるとほんのりといい香りがする。
行動するにも仕草や歩き方が洗練されていて、ドタドタと騒がしくない。
そんな彼女に憧れを抱いたが、同時に女としてライバル心を抱いた。
それだけでなく、生まれた時から札幌出身で、今は東京の大企業で秘書をしている、完全勝ち組の彼女に嫉妬した。
Chief Everyといえば、あの名物のイケメン社長がいる会社で有名だし、女性誌をめくれば必ずアイテムが旬のマストバイアイテムとして紹介されている。
香澄は憧れの大企業でイケメン社長の秘書をしているのに、ニセコまできて〝休暇〟を取るという。
正月でも盆でもないこんな中途半端な時期に、何のつもりなのか。
大企業は休みも自由なのか。
そう思いながらも、ペンションの仕事を手伝うというので色々教えてやった。
最初こそ、彼女は健気とも言える態度で働いていた。
「魅力がある」と思ったので、和也に手を出さないよう釘を刺しておいた。
和也とはここで会い、一緒に生活するようになってすぐ好きになって告白した。
付き合う意味でのOKはもらわず曖昧な関係だが、仕事の合間にキスをする関係になった。
時間がある時はこっそり母屋のベッドでいちゃつき、彼にフェラチオをし、自分も指で達かせてもらい、セックスする仲になった。
すっかり自分の男になったと思っていたのに、和也は香澄が現れてから、彼女ばかり目で追うようになった。
――ずるい。
このペンションで働く若い女性は自分だけで、確固たるアイドル的地位を築いていたと思っていたのに。
それなのに和也は肉がついただけの年増を気にしている。
和也は気付かれないようにしているつもりだろうが、恋をしている真奈美は彼が何をしているかすべて知っている。
香澄の部屋に近付き、彼女が風呂に入っている間はバスルームを気にしていた。
おまけに秋山に向かって「香澄さんって胸がでかいし肌が綺麗ですよね」と何度も言っているのを聞き、気がおかしくなりそうだった。
「婚約者がいるくせに和也さんを誘惑したんだ。信じられない!」
気が付けば、そんな怒りと嫉妬が胸の奥で渦巻いていた。
和也と香澄が二人で買い出しに行き、別々に戻って来た時は「何かあった」と直感が働いた。
もしかしたら、香澄とも関係を持ったのかもしれない。
確認できないまま、真奈美の中で疑惑が膨らんでいく。
気がつけば香澄が憎くて堪らなくなっていた。
気晴らしに彼女の部屋に入り、気にくわない下着――大人っぽい高級そうな総レースのパンティ――を薪ストーブで燃やした。
洗濯物は部屋に入らなければ見えない。
だが覗き込めば、いやらしい下着が干されているのが分かる。
それだけで香澄が和也を誘っているように思えて、とても嫌な気持ちになったからだ。
おまけに婚約者がいると言っているのに、ルカと仲良くなって彼の別荘に入り浸っている。
23
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」
三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。
一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。
「忘れたとは言わせねぇぞ?」
偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。
「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」
その溺愛からは、もう逃れられない。
*第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる