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第十部・ニセコ 編
佑、北海道の地を踏む
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『自分の気持ちがどうこうより、側にいられないほうがつらいです。北海道に帰省して忙しくして、寂しさに気付かないふりをしていました。でもやっぱり、好きで堪らないです。声が聞きたいし、抱きつきたい。甘やかしてほしいし、愛し合いたい』
切なく微笑み、香澄は佑を想って目の奥を熱くする。
『事件があって彼と一緒に居づらいとか、優しくされるのがつらいとかより、側にいられないほうがつらいです。……知らない内に、彼はすっかり私の一部になっていました』
そういった彼女の肩を、ルカはポンポンと叩いてくる。
『カスミの恋人も、きっと同じ事を思っているよ。早く会いに行ってあげないと』
『そうですね。あと三、四日、心の準備ができたら、連絡をとってみます』
ゆっくりじんわりと、覚悟を決めていく。
窓の外を見ると、ライトアップされた庭にはすっかり紅葉した白樺の木がある。
十月の二十日頃はニセコの紅葉のピークとなり、ダケカンバも葉を黄色くしていた。
『どうして今すぐ連絡を取らないの?』
『ちょっと照れ臭いんです。毎日一緒だった人と私から距離を取りたいって言って、どういう切り口から仲直りっていうか……元に戻っていこうかな? って』
『〝愛してる!〟からでいいんじゃないかな?』
『んふふ、日本人はそうストレートにいかないんですよ』
『面倒だね? 日本人は』
ルカはヒョイと肩をすくめ、ケラケラと笑う。
『ルカさんはマリアさんに会いに行かないんですか?』
『会いたいんだけどね。マリアはいま大事な時期なんだ。独り立ちした職人として認められて、店のブランド力も少しずつ上がろうとしている。そこに僕が入り浸って、彼女の時間を奪うのは良くない。本当は四六時中一緒にいたいんだけど。……だからプロポーズしたんだ』
『なるほど……』
ルカにも色んな事情があるようだ。
『仲直りしたら、恋人と一緒にイタリアにおいでよ。連絡くれたら迎えに行くからさ』
『はい』
佑と一緒にイタリア旅行をする事を考えると、急にワクワクしてきた。
『ローマと言わずイタリア中ガイドするし、美味しい物も紹介するよ!』
『んふふ、楽しみにしています』
大自然に抱かれて気持ちが楽になったのもあるし、ペンションでの人間関係はともかく、ルカに出会えたのは財産だ。
こうなれたのも、佑が英語を仕込んでくれたからだ。
(佑さんに感謝しなきゃ。会えたらきちんとお礼を言おう。札幌まで迎えに来るって行ってたけど、ニセコのお土産、何を買おうかな。佑さんが喜んでくれそうな物を見つけておこう)
北海道独自のコンビニといえば、ユーメイマートがあり全国区のテレビでもたまに紹介されている。ちなみに、埼玉の一部にも店舗がある。
ニセコのユーメイマートには、どぶろくが置いてあった。
スルスル飲めるそれを香澄は気に入っていて、以前に麻衣と来た時はお土産に買った。
(意外と気に入ってくれるかもしれない)
香澄は一人ほくそ笑み、そんな彼女をルカも温かな眼差しで見ているのだった。
**
数日後にスペインへの出張を控えた佑は、その前の数日を仕事を前倒しにして、スケジュールを調整していた。
ずっと無気力だったのが嘘のようで、「あと少しで香澄に会える」という気持ちですっかり元気になっている。
いつもなら少しでも時間ができれば、松井が仕事を入れてくる。
だが今回ばかりは、北海道に滞在する時間を見逃してくれるようだった。
香澄と会える日の直後にスペイン行きがあるので、北海道に迎えに行った飛行機で、そのまま香澄をスペインに連れて行くつもりだ。
香澄から「この引き出しに貴重品を入れているから、万が一何かあった時は勝手に開けていいからね」と言われている引き出しがある。
許可があるとはいえ、少し申し訳なく思いながらパスポートを出して荷物に詰めた。
プライベートジェットで新千歳空港まで向かい、あとは札幌まで車で走るだけだ。
高速道路を走りながら、佑はスマホのマップで新千歳空港から札幌までの道のりを何となく眺めていた。
「北海道の十月下旬は、随分ひんやりしているな。というか寒い」
天気予報で大体の気温を見ているので、佑はチェスターコートを着ている。
「東京と同じようにはいかないでしょうね」
今回同行しているのは河野だ。
pixivに河野や護衛たちの顔をらくがきしたイラストを置きました。良ければ。
切なく微笑み、香澄は佑を想って目の奥を熱くする。
『事件があって彼と一緒に居づらいとか、優しくされるのがつらいとかより、側にいられないほうがつらいです。……知らない内に、彼はすっかり私の一部になっていました』
そういった彼女の肩を、ルカはポンポンと叩いてくる。
『カスミの恋人も、きっと同じ事を思っているよ。早く会いに行ってあげないと』
『そうですね。あと三、四日、心の準備ができたら、連絡をとってみます』
ゆっくりじんわりと、覚悟を決めていく。
窓の外を見ると、ライトアップされた庭にはすっかり紅葉した白樺の木がある。
十月の二十日頃はニセコの紅葉のピークとなり、ダケカンバも葉を黄色くしていた。
『どうして今すぐ連絡を取らないの?』
『ちょっと照れ臭いんです。毎日一緒だった人と私から距離を取りたいって言って、どういう切り口から仲直りっていうか……元に戻っていこうかな? って』
『〝愛してる!〟からでいいんじゃないかな?』
『んふふ、日本人はそうストレートにいかないんですよ』
『面倒だね? 日本人は』
ルカはヒョイと肩をすくめ、ケラケラと笑う。
『ルカさんはマリアさんに会いに行かないんですか?』
『会いたいんだけどね。マリアはいま大事な時期なんだ。独り立ちした職人として認められて、店のブランド力も少しずつ上がろうとしている。そこに僕が入り浸って、彼女の時間を奪うのは良くない。本当は四六時中一緒にいたいんだけど。……だからプロポーズしたんだ』
『なるほど……』
ルカにも色んな事情があるようだ。
『仲直りしたら、恋人と一緒にイタリアにおいでよ。連絡くれたら迎えに行くからさ』
『はい』
佑と一緒にイタリア旅行をする事を考えると、急にワクワクしてきた。
『ローマと言わずイタリア中ガイドするし、美味しい物も紹介するよ!』
『んふふ、楽しみにしています』
大自然に抱かれて気持ちが楽になったのもあるし、ペンションでの人間関係はともかく、ルカに出会えたのは財産だ。
こうなれたのも、佑が英語を仕込んでくれたからだ。
(佑さんに感謝しなきゃ。会えたらきちんとお礼を言おう。札幌まで迎えに来るって行ってたけど、ニセコのお土産、何を買おうかな。佑さんが喜んでくれそうな物を見つけておこう)
北海道独自のコンビニといえば、ユーメイマートがあり全国区のテレビでもたまに紹介されている。ちなみに、埼玉の一部にも店舗がある。
ニセコのユーメイマートには、どぶろくが置いてあった。
スルスル飲めるそれを香澄は気に入っていて、以前に麻衣と来た時はお土産に買った。
(意外と気に入ってくれるかもしれない)
香澄は一人ほくそ笑み、そんな彼女をルカも温かな眼差しで見ているのだった。
**
数日後にスペインへの出張を控えた佑は、その前の数日を仕事を前倒しにして、スケジュールを調整していた。
ずっと無気力だったのが嘘のようで、「あと少しで香澄に会える」という気持ちですっかり元気になっている。
いつもなら少しでも時間ができれば、松井が仕事を入れてくる。
だが今回ばかりは、北海道に滞在する時間を見逃してくれるようだった。
香澄と会える日の直後にスペイン行きがあるので、北海道に迎えに行った飛行機で、そのまま香澄をスペインに連れて行くつもりだ。
香澄から「この引き出しに貴重品を入れているから、万が一何かあった時は勝手に開けていいからね」と言われている引き出しがある。
許可があるとはいえ、少し申し訳なく思いながらパスポートを出して荷物に詰めた。
プライベートジェットで新千歳空港まで向かい、あとは札幌まで車で走るだけだ。
高速道路を走りながら、佑はスマホのマップで新千歳空港から札幌までの道のりを何となく眺めていた。
「北海道の十月下旬は、随分ひんやりしているな。というか寒い」
天気予報で大体の気温を見ているので、佑はチェスターコートを着ている。
「東京と同じようにはいかないでしょうね」
今回同行しているのは河野だ。
pixivに河野や護衛たちの顔をらくがきしたイラストを置きました。良ければ。
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