上 下
591 / 1,548
第十部・ニセコ 編

佑、北海道の地を踏む

しおりを挟む
『自分の気持ちがどうこうより、側にいられないほうがつらいです。北海道に帰省して忙しくして、寂しさに気付かないふりをしていました。でもやっぱり、好きで堪らないです。声が聞きたいし、抱きつきたい。甘やかしてほしいし、愛し合いたい』

 切なく微笑み、香澄は佑を想って目の奥を熱くする。

『事件があって彼と一緒に居づらいとか、優しくされるのがつらいとかより、側にいられないほうがつらいです。……知らない内に、彼はすっかり私の一部になっていました』

 そういった彼女の肩を、ルカはポンポンと叩いてくる。

『カスミの恋人も、きっと同じ事を思っているよ。早く会いに行ってあげないと』

『そうですね。あと三、四日、心の準備ができたら、連絡をとってみます』

 ゆっくりじんわりと、覚悟を決めていく。

 窓の外を見ると、ライトアップされた庭にはすっかり紅葉した白樺の木がある。
 十月の二十日頃はニセコの紅葉のピークとなり、ダケカンバも葉を黄色くしていた。

『どうして今すぐ連絡を取らないの?』

『ちょっと照れ臭いんです。毎日一緒だった人と私から距離を取りたいって言って、どういう切り口から仲直りっていうか……元に戻っていこうかな? って』

『〝愛してる!〟からでいいんじゃないかな?』

『んふふ、日本人はそうストレートにいかないんですよ』

『面倒だね? 日本人は』

 ルカはヒョイと肩をすくめ、ケラケラと笑う。

『ルカさんはマリアさんに会いに行かないんですか?』

『会いたいんだけどね。マリアはいま大事な時期なんだ。独り立ちした職人として認められて、店のブランド力も少しずつ上がろうとしている。そこに僕が入り浸って、彼女の時間を奪うのは良くない。本当は四六時中一緒にいたいんだけど。……だからプロポーズしたんだ』

『なるほど……』

 ルカにも色んな事情があるようだ。

『仲直りしたら、恋人と一緒にイタリアにおいでよ。連絡くれたら迎えに行くからさ』

『はい』

 佑と一緒にイタリア旅行をする事を考えると、急にワクワクしてきた。

『ローマと言わずイタリア中ガイドするし、美味しい物も紹介するよ!』

『んふふ、楽しみにしています』

 大自然に抱かれて気持ちが楽になったのもあるし、ペンションでの人間関係はともかく、ルカに出会えたのは財産だ。

 こうなれたのも、佑が英語を仕込んでくれたからだ。

(佑さんに感謝しなきゃ。会えたらきちんとお礼を言おう。札幌まで迎えに来るって行ってたけど、ニセコのお土産、何を買おうかな。佑さんが喜んでくれそうな物を見つけておこう)

 北海道独自のコンビニといえば、ユーメイマートがあり全国区のテレビでもたまに紹介されている。ちなみに、埼玉の一部にも店舗がある。
 ニセコのユーメイマートには、どぶろくが置いてあった。

 スルスル飲めるそれを香澄は気に入っていて、以前に麻衣と来た時はお土産に買った。

(意外と気に入ってくれるかもしれない)

 香澄は一人ほくそ笑み、そんな彼女をルカも温かな眼差しで見ているのだった。



**



 数日後にスペインへの出張を控えた佑は、その前の数日を仕事を前倒しにして、スケジュールを調整していた。

 ずっと無気力だったのが嘘のようで、「あと少しで香澄に会える」という気持ちですっかり元気になっている。

 いつもなら少しでも時間ができれば、松井が仕事を入れてくる。
 だが今回ばかりは、北海道に滞在する時間を見逃してくれるようだった。

 香澄と会える日の直後にスペイン行きがあるので、北海道に迎えに行った飛行機で、そのまま香澄をスペインに連れて行くつもりだ。

 香澄から「この引き出しに貴重品を入れているから、万が一何かあった時は勝手に開けていいからね」と言われている引き出しがある。
 許可があるとはいえ、少し申し訳なく思いながらパスポートを出して荷物に詰めた。

 プライベートジェットで新千歳空港まで向かい、あとは札幌まで車で走るだけだ。
 高速道路を走りながら、佑はスマホのマップで新千歳空港から札幌までの道のりを何となく眺めていた。

「北海道の十月下旬は、随分ひんやりしているな。というか寒い」

 天気予報で大体の気温を見ているので、佑はチェスターコートを着ている。

「東京と同じようにはいかないでしょうね」

 今回同行しているのは河野だ。











 pixivに河野や護衛たちの顔をらくがきしたイラストを置きました。良ければ。 
しおりを挟む
感想 555

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

処理中です...