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第十部・ニセコ 編
ニアミス
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『ルカさん、香澄ちゃんをありがとうございます』
秋成がルカに挨拶をする。
どうやら、秋山はすでに帰宅したあとのようだ。
オーナーの挨拶に、ルカは明るく返事をする。
『どういたしまして! 彼女がここに滞在しているあいだ、カスミをお借りしてもいいですか? レッドパインで働くはずだった分のお金は、僕が払います』
ルカの言葉を秋成に訳すと、「お金を払うなんてとんでもない!」と彼は手を振った。
「香澄ちゃんはルカさんと過ごして楽しかった?」
「はい。それで……」
そこまで言いかけ、香澄はチラッとペンション内を見回し、和也と真奈美の姿がないのを確認する。
こういう事を言うのは嫌だな、と思いながらも素直に伝えた。
「気付いているかもしれませんが、和也くんと真奈美ちゃんとは、あまりうまくくいっていません。入ってきてしまったのは私の方なので、これ以上ペンションの空気を悪くしないために、ルカさんのお手伝いをしたいです。最初は手伝うって言ったのに、ごめんなさい」
言ってから頭を下げると、秋成が小さく溜め息ををついた。
「やっぱりか。ぎこちないなとは思っていたけど……。二人とも年頃だから、若くて綺麗な香澄ちゃんが現れて、意識しちゃってるのかな。今まで若い男女二人だったから、婚約者がいるっていっても、異性として意識したり、ライバル心も燃やしてしまうのかもしれない」
「すみません……」
自分がペンションの平和を崩した気持ちになり、本当に申し訳ない。
「いや、気にしないでくれ。香澄ちゃんはここへ気持ちを癒やしに来た。まずは第一の目的を大切にしよう。さすがに夜に寝る場所まで世話になる訳にはいかないから、うちで寝泊まりしてもらうけど。ルカさんを疑っている訳じゃないが、一応兄貴に『預かる』と約束したしね。……でも、悪いね。鍵があるとはいえ、共同生活になった上にこんな……」
最初の日はうっかりして鍵をかけ忘れたものの、そのあとはしっかり施錠して寝ているので、夜については心配していない。
「いいえ! 私こそすみません。問題を起こしてしまって……」
二人して謝っていると、ルカが咳払いをした。
「No! Sumimasen.」
スミマセンと言ったら駄目だと言われ、香澄は秋成と顔を見合わせ笑い出した。
表に出てルカと『また明日』と言って別れると、香澄は少し気合いを入れて母屋に向かった。
「ただいまです」
玄関で声を出すと、中から聡子が出てくる。
「お帰りなさい。豪邸はどうだった?」
「素敵でしたよ」
リビングに入ると和也と真奈美もいて、香澄は努めて微笑み会釈をする。
「二人ともお風呂済んじゃったから、香澄ちゃんも入っちゃって」
「分かりました」
二階の部屋に上がって少しスマホを見たあと、風呂の準備をするとまた一階に下りる。
ホワイトボードのマグネットを動かしカーテンを引く。
脱衣所で服を脱いでいると玄関からドアベルが鳴って、誰かが母屋を出ていった。
なるべく何も考えずに髪と体を洗い、温泉に浸かってゆっくり気持ちと体を癒やす。
バスタイムを終えて体を拭き、脱衣所でボディクリームを塗っていると、何となくカーテンの向こうに人の気配がする気がした。
(……まさかね……)
薄布一枚へだてた場所に和也が立っていたらどうしよう、と悩むが、ただの被害妄想かもしれない。
だが一度不安になると気持ち悪さがつきまとう。
下着とルームウェアを着ると、ホ……と安堵の息をついた。
美容室で買ったヘアクリームをつけ、ドライヤーで髪を乾かし歯磨きをする。
「よし」
ピカピカになった自分の顔を見て頷くと、香澄はシャッとカーテンを開いた。
「わっ!!」
いた。
目の前に和也が立っていて、風呂上がりの香澄の匂いをスゥッと嗅いだ。
「ど! ……ど、どうしたの?」
香澄はうわずった声で尋ねる。
まるでホラー映画だ。
「……歯、磨こうと思って」
バックバックと心臓が鳴り、呼吸まで乱れてくるが、香澄は懸命に平静を装った。
「ごめんなさい。次どうぞ」
驚きすぎてそれしか言えず、香澄は脱いだ服とバスセットが入ったカゴを持ち、足早に脱衣所を去った。
秋成がルカに挨拶をする。
どうやら、秋山はすでに帰宅したあとのようだ。
オーナーの挨拶に、ルカは明るく返事をする。
『どういたしまして! 彼女がここに滞在しているあいだ、カスミをお借りしてもいいですか? レッドパインで働くはずだった分のお金は、僕が払います』
ルカの言葉を秋成に訳すと、「お金を払うなんてとんでもない!」と彼は手を振った。
「香澄ちゃんはルカさんと過ごして楽しかった?」
「はい。それで……」
そこまで言いかけ、香澄はチラッとペンション内を見回し、和也と真奈美の姿がないのを確認する。
こういう事を言うのは嫌だな、と思いながらも素直に伝えた。
「気付いているかもしれませんが、和也くんと真奈美ちゃんとは、あまりうまくくいっていません。入ってきてしまったのは私の方なので、これ以上ペンションの空気を悪くしないために、ルカさんのお手伝いをしたいです。最初は手伝うって言ったのに、ごめんなさい」
言ってから頭を下げると、秋成が小さく溜め息ををついた。
「やっぱりか。ぎこちないなとは思っていたけど……。二人とも年頃だから、若くて綺麗な香澄ちゃんが現れて、意識しちゃってるのかな。今まで若い男女二人だったから、婚約者がいるっていっても、異性として意識したり、ライバル心も燃やしてしまうのかもしれない」
「すみません……」
自分がペンションの平和を崩した気持ちになり、本当に申し訳ない。
「いや、気にしないでくれ。香澄ちゃんはここへ気持ちを癒やしに来た。まずは第一の目的を大切にしよう。さすがに夜に寝る場所まで世話になる訳にはいかないから、うちで寝泊まりしてもらうけど。ルカさんを疑っている訳じゃないが、一応兄貴に『預かる』と約束したしね。……でも、悪いね。鍵があるとはいえ、共同生活になった上にこんな……」
最初の日はうっかりして鍵をかけ忘れたものの、そのあとはしっかり施錠して寝ているので、夜については心配していない。
「いいえ! 私こそすみません。問題を起こしてしまって……」
二人して謝っていると、ルカが咳払いをした。
「No! Sumimasen.」
スミマセンと言ったら駄目だと言われ、香澄は秋成と顔を見合わせ笑い出した。
表に出てルカと『また明日』と言って別れると、香澄は少し気合いを入れて母屋に向かった。
「ただいまです」
玄関で声を出すと、中から聡子が出てくる。
「お帰りなさい。豪邸はどうだった?」
「素敵でしたよ」
リビングに入ると和也と真奈美もいて、香澄は努めて微笑み会釈をする。
「二人ともお風呂済んじゃったから、香澄ちゃんも入っちゃって」
「分かりました」
二階の部屋に上がって少しスマホを見たあと、風呂の準備をするとまた一階に下りる。
ホワイトボードのマグネットを動かしカーテンを引く。
脱衣所で服を脱いでいると玄関からドアベルが鳴って、誰かが母屋を出ていった。
なるべく何も考えずに髪と体を洗い、温泉に浸かってゆっくり気持ちと体を癒やす。
バスタイムを終えて体を拭き、脱衣所でボディクリームを塗っていると、何となくカーテンの向こうに人の気配がする気がした。
(……まさかね……)
薄布一枚へだてた場所に和也が立っていたらどうしよう、と悩むが、ただの被害妄想かもしれない。
だが一度不安になると気持ち悪さがつきまとう。
下着とルームウェアを着ると、ホ……と安堵の息をついた。
美容室で買ったヘアクリームをつけ、ドライヤーで髪を乾かし歯磨きをする。
「よし」
ピカピカになった自分の顔を見て頷くと、香澄はシャッとカーテンを開いた。
「わっ!!」
いた。
目の前に和也が立っていて、風呂上がりの香澄の匂いをスゥッと嗅いだ。
「ど! ……ど、どうしたの?」
香澄はうわずった声で尋ねる。
まるでホラー映画だ。
「……歯、磨こうと思って」
バックバックと心臓が鳴り、呼吸まで乱れてくるが、香澄は懸命に平静を装った。
「ごめんなさい。次どうぞ」
驚きすぎてそれしか言えず、香澄は脱いだ服とバスセットが入ったカゴを持ち、足早に脱衣所を去った。
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