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第十部・ニセコ 編
責めてほしかったんだと思います
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『僕も! マリアと一緒に寝てて、彼女がおならをしても可愛いなって思うよ』
『んふふ』
ルカが明るく言うので、香澄も思わず笑ってしまう。
『マリアはね、靴職人なんだ。僕がオーダーメイドで彼女に靴を作ってもらった時に出会った』
『素敵ですね』
ルカの恋人というので、香澄は思わずファッションモデルや女優のような華々しい女性を想像していた。
『そばかすがチャーミングな子だよ。プロ意識もとても高いから、弟子入りした若い男の子を怒鳴るんだ。そりゃあ怖いったら! でも僕はそういうマリアが全部好きだ。ちょっと不器用な性格も好きだし、デートの時にお洒落をして恥ずかしそうにしている姿も好きだ。僕はマリアが大好きだから、甘やかして大事にしたくなる』
ルカはうっとりと恋をする目をし、少し目を閉じてマリアを想ってから香澄を見る。
『だから僕は、カスミの恋人の気持ちがちょっとは分かるんだ。マリアも最初はよく〝私たちは釣り合わない〟って言ってたんだ』
「あ……」
彼が言わんとする事を察し、香澄の心に何かがコトンと落ちる。
『カスミ、僕らみたいな男はね、女運があるように見えてまったくないパターンが多いんだ。恵まれているからこそ女の子が寄ってくるけど、あまりにも母数が多くて、その中にある〝選ぶべき本物〟が分からない。だから僕は自分から恋をしたマリアを、絶対に離したくないと思っている。恋ができた事を奇跡だと思っている』
こくん、と香澄は頷く。
佑のファンが大勢いるのは分かっているし、彼が顧客としてファンを大事にしているのも理解している。
だが佑はファンに顧客以上の事を求めないし、ファンを自分のプライベートに入れる事もしない。
そんな佑が香澄だけを見て「好きだ」と言い、結婚しようとしてくれている。
時に彼の気持ちを勿体なく思い、大切にされすぎて気が引けてしまう事も多々ある。
『僕はマリアにもカスミにも、〝諦めて〟って言いたいな』
『諦める?』
目を瞬かせた香澄に、ルカは明るい笑顔でとんでもない事を言う。
『僕らみたいな男が全力で一人の女性を愛したら、多分一生離す事なんてできない。マリアもカスミも、多分どれだけ逃げてもあっという間に捕まって、ドロドロに愛されると思うよ。泳がされている間は、まだ男の側に余裕があるからなんだ。それか、よほど女性側を神聖視していて、嫌われたくないと恐れているか……ね』
佑は、どちらだろう。
そう考えて、きっと前者の余裕がある方なのだろうと思った。
佑はいつも大人の余裕があり、落ち着いている。だから一か月の約束を信じて送り出してくれた。
――本当は真逆なのだが、彼女は気付いていない。
(私は……、その気持ちにちゃんと報いないと)
タイムリミットはあと十七日。
その間に香澄は〝答え〟を見つけなければいけない。
『ルカさんは、もしマリアさんがトラウマを負って、ルカさんを避けたらどうしますか?』
佑相手だと冷静にこんな質問はできない。
佑と似た立場だと言っているルカなら、同じ男性として何かヒントを教えてくれるかもしれないと思い、質問した。
『うーん……。まずマリアにトラウマを負わせた相手をぶっ潰すけど』
『そ、それは置いておいて。マリアさんに対する態度とか……距離の取り方とか』
ルカは答える前に、二杯目のカプチーノを香澄に『どうぞ』と差し出した。
そのあと新たに自分の分をマキネッタにセットし、エスプレッソを淹れ始める。
『基本的にマリアのやりたいようにさせるよ。でも何があろうとも、絶対手放そうなんて思わない』
予想していた、けれどどうしても理解できない返事が返ってくる。
『どうして……』
『逆にカスミに聞きたいけど、カスミは恋人に諦めてほしいの? 〝そんな事があったなら、別れよう〟って言ってほしいの?』
まっすぐ見つめられ、香澄は動揺する。
『そうじゃないんです。別れたくなんてありません。でも……』
――あぁ。
ぽつん、と心の中に答えが降ってきた。
『私、彼に責めてほしかったんだと思います』
香澄の言葉にルカは瞠目し、続きを促すように「Si?(そうなの?)」と相槌を打つ。
『私は、彼を悲しませる事件を起こした自分を許せないんです。なのに彼はとても優しくて、一言も私を責めません。その優しさが逆につらくて……』
ようやく自分の気持ちの正体を理解した香澄は、苦い痛みと共に納得する。
『んふふ』
ルカが明るく言うので、香澄も思わず笑ってしまう。
『マリアはね、靴職人なんだ。僕がオーダーメイドで彼女に靴を作ってもらった時に出会った』
『素敵ですね』
ルカの恋人というので、香澄は思わずファッションモデルや女優のような華々しい女性を想像していた。
『そばかすがチャーミングな子だよ。プロ意識もとても高いから、弟子入りした若い男の子を怒鳴るんだ。そりゃあ怖いったら! でも僕はそういうマリアが全部好きだ。ちょっと不器用な性格も好きだし、デートの時にお洒落をして恥ずかしそうにしている姿も好きだ。僕はマリアが大好きだから、甘やかして大事にしたくなる』
ルカはうっとりと恋をする目をし、少し目を閉じてマリアを想ってから香澄を見る。
『だから僕は、カスミの恋人の気持ちがちょっとは分かるんだ。マリアも最初はよく〝私たちは釣り合わない〟って言ってたんだ』
「あ……」
彼が言わんとする事を察し、香澄の心に何かがコトンと落ちる。
『カスミ、僕らみたいな男はね、女運があるように見えてまったくないパターンが多いんだ。恵まれているからこそ女の子が寄ってくるけど、あまりにも母数が多くて、その中にある〝選ぶべき本物〟が分からない。だから僕は自分から恋をしたマリアを、絶対に離したくないと思っている。恋ができた事を奇跡だと思っている』
こくん、と香澄は頷く。
佑のファンが大勢いるのは分かっているし、彼が顧客としてファンを大事にしているのも理解している。
だが佑はファンに顧客以上の事を求めないし、ファンを自分のプライベートに入れる事もしない。
そんな佑が香澄だけを見て「好きだ」と言い、結婚しようとしてくれている。
時に彼の気持ちを勿体なく思い、大切にされすぎて気が引けてしまう事も多々ある。
『僕はマリアにもカスミにも、〝諦めて〟って言いたいな』
『諦める?』
目を瞬かせた香澄に、ルカは明るい笑顔でとんでもない事を言う。
『僕らみたいな男が全力で一人の女性を愛したら、多分一生離す事なんてできない。マリアもカスミも、多分どれだけ逃げてもあっという間に捕まって、ドロドロに愛されると思うよ。泳がされている間は、まだ男の側に余裕があるからなんだ。それか、よほど女性側を神聖視していて、嫌われたくないと恐れているか……ね』
佑は、どちらだろう。
そう考えて、きっと前者の余裕がある方なのだろうと思った。
佑はいつも大人の余裕があり、落ち着いている。だから一か月の約束を信じて送り出してくれた。
――本当は真逆なのだが、彼女は気付いていない。
(私は……、その気持ちにちゃんと報いないと)
タイムリミットはあと十七日。
その間に香澄は〝答え〟を見つけなければいけない。
『ルカさんは、もしマリアさんがトラウマを負って、ルカさんを避けたらどうしますか?』
佑相手だと冷静にこんな質問はできない。
佑と似た立場だと言っているルカなら、同じ男性として何かヒントを教えてくれるかもしれないと思い、質問した。
『うーん……。まずマリアにトラウマを負わせた相手をぶっ潰すけど』
『そ、それは置いておいて。マリアさんに対する態度とか……距離の取り方とか』
ルカは答える前に、二杯目のカプチーノを香澄に『どうぞ』と差し出した。
そのあと新たに自分の分をマキネッタにセットし、エスプレッソを淹れ始める。
『基本的にマリアのやりたいようにさせるよ。でも何があろうとも、絶対手放そうなんて思わない』
予想していた、けれどどうしても理解できない返事が返ってくる。
『どうして……』
『逆にカスミに聞きたいけど、カスミは恋人に諦めてほしいの? 〝そんな事があったなら、別れよう〟って言ってほしいの?』
まっすぐ見つめられ、香澄は動揺する。
『そうじゃないんです。別れたくなんてありません。でも……』
――あぁ。
ぽつん、と心の中に答えが降ってきた。
『私、彼に責めてほしかったんだと思います』
香澄の言葉にルカは瞠目し、続きを促すように「Si?(そうなの?)」と相槌を打つ。
『私は、彼を悲しませる事件を起こした自分を許せないんです。なのに彼はとても優しくて、一言も私を責めません。その優しさが逆につらくて……』
ようやく自分の気持ちの正体を理解した香澄は、苦い痛みと共に納得する。
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