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第十部・ニセコ 編
ルカの悩み
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『僕に出させて?』
『でも……』
『カスミの仕事は、ジェラートを食べて〝ボーノ〟(美味しい)と言う事!』
『分かりました。ごちそうさまです』
ルカは千円札を出し、会計をするとおつりの小銭を珍しそうに眺めてから、コイン入れにしまった。
外に出るとルカが「Cin cin(乾杯)!」とジェラートのカップをくっつけ、立ったままジェラートを食べ始める。
「いただきます。……ン、美味しい……」
涼しい季節だが、ジェラートはどの季節に食べても美味しい。
『おいし? カスミ』
ふと先ほどの会話を思い出し、香澄は人差し指を頬に当て、「Buono!」と言ってクリクリと手を動かす。
『良かった!』
それからジェラートを食べ終わるまでほぼ無言だったが、不思議とルカといると緊張せずに済んだ。
何となく雰囲気的に、ルカは双子と似ている。
双子よりずっと空気が読めて紳士的なのだが、思った事はそのまま口にし、〝裏〟がないという意味で似ている。
なのでお互い黙っても「何か話さないと」という気まずさにならない。
もし彼が何か考えていたなら、心の中に留め置かないで直接質問してくるだろうと分かっているからだ。
(今はもう関わりがないけど、飯山さんたちみたいに表向きニコニコして近づいてくるのに、裏では探ろうとしていた人より、ルカさんやドイツ組の方々みたいにハッキリ言ってくれる人の方が付き合いやすいな)
人によってはストレートな言葉は傷付くので嫌だ、という者がいるだろう。
香澄もあまり相手の気持ちを考えない言葉は苦手だが、大切なのは信頼できるかどうかだと思っている。
(ストレートに言われたとしても、その言葉が本当に自分のためになるなら、受け止めようって思えるもんね。それを無礼な言葉と思って『傷付いた』と周りに吹聴する人は、精神的に幼いって佑さんも言っていた。……きっとプライドが高いんだろうなぁ。要らないタイプのプライドだと思うけど)
まさに、飯山たちがそうだった。
それならば、馴れ合いや無駄な褒め合い、女性特有のグループ行動はなくてもいい。
過去の事を思い返しながら口を動かしていると、あっという間に食べ終わってしまった。
カップを捨てたあとは、また車に乗って今度こそルカの別荘に向かう。
そこでようやく、ルカは音楽を消して話し始めた。
だが香澄が襲われていた事についてではなく、自分についてだった。
『僕、本当は恋人と一緒にニセコに来る予定だったんだ』
『そうなんですか?』
そういえば彼の事を何も知らなかったので、話してくれて助かる。
加えて、こう言うと自意識過剰かもしれないが、彼に決まった相手がいてホッとした。
災難続きだったのもあるし、佑と離れていても、フリーの男性と親しくしていると悪いと思ったからだ。
『結婚を約束した恋人だったんだけど、ちょっとうまくいかなくなっちゃったんだ。お互い気持ちを整理しようって言ったのが、七月の終わりだったかな。バカンスを楽しく過ごす予定だったんだけど、あーあ、って感じだよ』
『ルカさんの気持ちはどうなんですか?』
香澄は彼に質問する。
今は和也に襲われたあのどうにもならない気持ちを考えるより、彼の身の上について話していた方が楽だった。
『好きだよ。今すぐ結婚したい。……でも恋人が僕や家族に遠慮してるんだ』
ルカの家の事は分からないが、相手の実家事情を気にして……というのは少し分かる。
香澄だって佑が普通の会社員なら、ここまで悩んでいないだろう。
結婚は二人の問題だけれど、駆け落ちでもない限り、相手の両親や家族を気にする必要は多少ある。
共感するからこそ、香澄は彼を励ました。
『嫌われていないなら望みがありますよ。遠慮しているっていう事は、その方はルカさんを思いやって心配しているんです。好きでなければ心配しません』
『そうかな?』
ルカはぽつんと呟く。
他人事なのもあるが、香澄は明るい彼に本来の自分に戻ってほしく、さらにエールを送る。
『そうですよ! 恋人さんはルカさんを大切に思っているから慎重になっているんです。もう一度、話し合ってみたらどうですか?』
言った後、ルカは車を停めると、『ごめんね』と言ってスマホを手に取った。
そしてどこかに電話を掛けると、イタリア語で話し出す。
言葉は分からないが、ルカが恋人に電話を掛けたのは明白だ。
うまくいくといいな、と見守っていると、ルカの表情はコロコロと変わる。
彼の目はまるで目の前に婚約者を見つめているかのようだ。
『でも……』
『カスミの仕事は、ジェラートを食べて〝ボーノ〟(美味しい)と言う事!』
『分かりました。ごちそうさまです』
ルカは千円札を出し、会計をするとおつりの小銭を珍しそうに眺めてから、コイン入れにしまった。
外に出るとルカが「Cin cin(乾杯)!」とジェラートのカップをくっつけ、立ったままジェラートを食べ始める。
「いただきます。……ン、美味しい……」
涼しい季節だが、ジェラートはどの季節に食べても美味しい。
『おいし? カスミ』
ふと先ほどの会話を思い出し、香澄は人差し指を頬に当て、「Buono!」と言ってクリクリと手を動かす。
『良かった!』
それからジェラートを食べ終わるまでほぼ無言だったが、不思議とルカといると緊張せずに済んだ。
何となく雰囲気的に、ルカは双子と似ている。
双子よりずっと空気が読めて紳士的なのだが、思った事はそのまま口にし、〝裏〟がないという意味で似ている。
なのでお互い黙っても「何か話さないと」という気まずさにならない。
もし彼が何か考えていたなら、心の中に留め置かないで直接質問してくるだろうと分かっているからだ。
(今はもう関わりがないけど、飯山さんたちみたいに表向きニコニコして近づいてくるのに、裏では探ろうとしていた人より、ルカさんやドイツ組の方々みたいにハッキリ言ってくれる人の方が付き合いやすいな)
人によってはストレートな言葉は傷付くので嫌だ、という者がいるだろう。
香澄もあまり相手の気持ちを考えない言葉は苦手だが、大切なのは信頼できるかどうかだと思っている。
(ストレートに言われたとしても、その言葉が本当に自分のためになるなら、受け止めようって思えるもんね。それを無礼な言葉と思って『傷付いた』と周りに吹聴する人は、精神的に幼いって佑さんも言っていた。……きっとプライドが高いんだろうなぁ。要らないタイプのプライドだと思うけど)
まさに、飯山たちがそうだった。
それならば、馴れ合いや無駄な褒め合い、女性特有のグループ行動はなくてもいい。
過去の事を思い返しながら口を動かしていると、あっという間に食べ終わってしまった。
カップを捨てたあとは、また車に乗って今度こそルカの別荘に向かう。
そこでようやく、ルカは音楽を消して話し始めた。
だが香澄が襲われていた事についてではなく、自分についてだった。
『僕、本当は恋人と一緒にニセコに来る予定だったんだ』
『そうなんですか?』
そういえば彼の事を何も知らなかったので、話してくれて助かる。
加えて、こう言うと自意識過剰かもしれないが、彼に決まった相手がいてホッとした。
災難続きだったのもあるし、佑と離れていても、フリーの男性と親しくしていると悪いと思ったからだ。
『結婚を約束した恋人だったんだけど、ちょっとうまくいかなくなっちゃったんだ。お互い気持ちを整理しようって言ったのが、七月の終わりだったかな。バカンスを楽しく過ごす予定だったんだけど、あーあ、って感じだよ』
『ルカさんの気持ちはどうなんですか?』
香澄は彼に質問する。
今は和也に襲われたあのどうにもならない気持ちを考えるより、彼の身の上について話していた方が楽だった。
『好きだよ。今すぐ結婚したい。……でも恋人が僕や家族に遠慮してるんだ』
ルカの家の事は分からないが、相手の実家事情を気にして……というのは少し分かる。
香澄だって佑が普通の会社員なら、ここまで悩んでいないだろう。
結婚は二人の問題だけれど、駆け落ちでもない限り、相手の両親や家族を気にする必要は多少ある。
共感するからこそ、香澄は彼を励ました。
『嫌われていないなら望みがありますよ。遠慮しているっていう事は、その方はルカさんを思いやって心配しているんです。好きでなければ心配しません』
『そうかな?』
ルカはぽつんと呟く。
他人事なのもあるが、香澄は明るい彼に本来の自分に戻ってほしく、さらにエールを送る。
『そうですよ! 恋人さんはルカさんを大切に思っているから慎重になっているんです。もう一度、話し合ってみたらどうですか?』
言った後、ルカは車を停めると、『ごめんね』と言ってスマホを手に取った。
そしてどこかに電話を掛けると、イタリア語で話し出す。
言葉は分からないが、ルカが恋人に電話を掛けたのは明白だ。
うまくいくといいな、と見守っていると、ルカの表情はコロコロと変わる。
彼の目はまるで目の前に婚約者を見つめているかのようだ。
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