【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

文字の大きさ
上 下
572 / 1,559
第十部・ニセコ 編

揺らぐ現実 ★

しおりを挟む
 確かに佑を悪く言われてカチンとし、強く言い返しすぎたかもしれない。

 だがこんな風に、二人ののプライベートを何も知らないのに、ただの想像で呪いのような言葉をかけないでほしい。

 涙で濡れた目で和也を睨む香澄の顎を、和也はギュッと掴んできた。

「……腹立つんですよ。香澄さんはぶっちゃけドストライクだし、彼女にしてやってもいいなって思ってます。でも香澄さんって自分があの御劔佑の婚約者だと思ってる、ただのイタい女ですよ。百歩譲ってChief Everyの秘書をしてるとしても、あの御劔佑の婚約者になれる訳ないでしょう」

「な……っ」

 まさか自分が佑の婚約者だという事を、ハナから信じられていなかった事に、香澄は青ざめる。

「御劔佑に抱かれたのかもしれません。でもああいう人間にとって、香澄さんみたいなのはただのつまみ食いなんですよ。そのうち、モデルとか女優とかと付き合って結婚するに決まってます」

 和也が言う言葉は、香澄が自分の心の奥底で怯えていた言葉そのものだった。

 いつも彼の隣にいる時は恐れを抱いていた。

 ――似合わないって思われていたらどうしよう。
 ――私のせいで佑さんの価値が下がったらどうしよう。

 それでも必死に努力をして、つらい出来事があっても歯を食いしばって頑張ってきたのに――。

 自分で自分を疑っていながらも、他人にあっさりと「釣り合わない」と言われ、香澄はボロボロに傷付いていた。

「ち――、違うっ! 本当だもの! 私、佑さんに愛されてて……っ」

 肩と顎を押さえられたまま、香澄は懸命に首を振る。

「じゃあ、どうしてこんな場所にいるんです? 俺なら惚れた女が会社を休んでニセコにいるなんて、絶対に許しませんけど。惚れた女なら、側に置いて当然でしょう?」

 和也の言葉が、香澄の心のやわい部分をグサリと刺す。

「違う……、違うっ! どうして分かってくれないの!? 私、本当に――」

「札幌で就職してた会社だって、やる気がなかったから東京に行ったんでしょう? 『東京に行けば何かいい事があるかも』って浅はかに行動する人が多すぎるんですよ。あなたの仕事の熱意も、御劔佑を好きだっていう気持ちも、何もかも中途半端なんですよ。だから見ていて腹が立つんだ」

「っ――――」

 核心を突かれ、香澄は身を強張らせた。

 八谷を中途半端な状態で辞めたのを、ずっと気に掛けていた。
 あの会社を辞めたからこそ、Chief Everyで一生懸命働こうと思っていた。

 佑が同棲させてくれると言ったから厚意に甘え、彼が求めれば恥ずかしいながらもモデルをして、秘書を務めて、慣れないながら一生懸命仕事を覚えたのに――。

「……ちがう……」

 力なく呟いた香澄を、また和也がせせら笑う。

「図星でしょう? 札幌の企業で最後まで働けなくて、転職先で有名人の社長に入れ込んで、婚約したっていう妄想をした。――あんたはイタい女ですよ。香澄さんは可哀想な人だ」

「――――」

 憎悪すら浮かべた和也の目の奥に、虚ろな闇がある。
 その闇に吸い込まれそうになった香澄は、「彼の言う通りなのかもしれない」と一瞬思ってしまった。

「私は……っ」

 不意に、北海道に帰省して、親友に会い、大自然に囲まれて忘れていた心の不安定さが蘇った。

 叫び出したいほどの恐怖がこみ上げ、香澄は必死に両手で口を押さえて涙を零す。

 足元にポッカリと暗い穴が開き、底の見えないそれにどこまでも落ちていく幻覚を味わう。
 真っ暗で冷たいその穴に落ち続けながら、香澄は耐えがたい孤独を覚えながら叫ぶ。

 グニャリと目の前の光景が歪み、現実と妄想が交じり合う。

 自分が御劔佑という人と愛し合っていたのは、本当だったのだろうか。
 彼の秘書をして、紆余曲折あって北海道で気持ちを整理したいと言ったのは妄想なのか。

 東京に行ったら、あの豪邸に入れてもらえるのだろうか?
 双子やマティアスと過ごした思い出は、本物だっただろうか?
 あんな格好いいマティアスに襲われたと思ったのも、妄想だったのでは……?

 今の自分はどうしてここにいる――?

 固まった香澄の脳内で様々な思いが交錯し、佑と出会ってからの思い出がぼやけていく。

「私……」

 いつの間にか、香澄はガタガタと体を震わせ涙を浮かべていた。

 そんな彼女の胸中など知らず、和也は香澄にのし掛かってパーカーの裾を捲り上げた。

 こんもりとTシャツの布地を押し上げた胸元に彼が興奮した息をつき、Tシャツの裾から手を入れようとした時――。
しおりを挟む
感想 560

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜

青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」 三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。 一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。 「忘れたとは言わせねぇぞ?」 偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。 「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」 その溺愛からは、もう逃れられない。 *第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

処理中です...