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第十部・ニセコ 編
なんでそんな酷い事を言うの!? ★
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和也が小さく舌打ちをし、「うるせぇな」と呟いたのを耳にし、香澄は何とも言えない気持ちになった。
四つのエコバッグは、香澄と和也が二つずつ持って車まで運ぶ。
それでも重たい袋は彼が持ってくれるので、気遣いはできる人だと思った。
『じゃあねー! カスミ! あとでそっちのペンション行くから!』
駐車場でルカがブンブンと手を振り、香澄は思わず笑って『はい』と会釈をする。
車に乗り込み、和也と一緒にペンションへの帰路につく。
(ルカさんの事は双子のお二人で何となく慣れがあるからいいけど、こんな形で和也さんを不機嫌にさせるとは思わなかったなぁ……)
二人で車に乗っているのに、一人だけ後部座席に座る訳にはいかず、香澄は助手席だ。
これで後ろに乗ったなら、あからさまに「避けています」と言うようなものだ。
(これ以上何も言われないといいけど)
〝当たり障りのない話題〟を探していた時、和也が先に口を開いた。
「男の世話焼くの好きなんですか?」
「え? そ、そんな訳じゃないですけど……。慣れない土地で困っているなら、助けたいって思うでしょう?」
「ふぅん……。男なら誰彼かまわず愛想振りまいて、ついでに色気も振りまく人なのかと思いました」
さすがにその言い方にはカチンときた。
ついでに、一週間前にソファに押し倒された屈辱と嫌悪がこみ上げる。
「そんな言い方しなくたっていいじゃないですか。それに、色気なんて振りまいていません。ずっと不機嫌でいるより、なるべく笑顔でいたいと思うし、人に優しくしたいって思うのがそんなに悪い事ですか?」
ムキになって言い返してから、気まずくなって溜め息をつく。
不意に車が停まった。
周りは畑ばかりで、人通りも少ない。
(なんで……。買い忘れがあった?)
そう思った時、運転席から和也が助手席のヘッドレストに腕を預けた。
バックする時に後ろを確認するためだと思っても、香澄はドキッと胸を高鳴らせて警戒する。
その瞬間――。
「きゃ……っ」
和也が腕を伸ばして助手席のシートを倒し、ガクンッと体が仰向けになる。
「っ――――!!」
車の天井を見上げる体勢になり、香澄は全身に冷や汗を掻いて必死に起き上がろうとした。
これは、〝あの時〟と同じだ。
健二に海に連れて行かれ、浜辺でシートを倒されて無理矢理行為を求められた時の――。
(今は〝あの時〟じゃない、私はニセコにいて……)
グワッとせり上がった恐怖を必死に宥める間、和也が香澄にのし掛かって今度こそ彼女の胸を揉んできた。
「や……っ」
全身に悪寒が走り、香澄は必死に和也の手を払い、両腕でギュッと胸元を隠す。
しかしその腕の下に彼の手はすでに入り込んでいた。
「すげぇ、でかくて柔らかい」
「やめてください! 私、婚約者がいるって言いましたよね!? それに真奈美ちゃんとも裏で何かしているんでしょう!? そんな節操のない事していいんですか?」
黙っていた真奈美との事も出してやめさせようとしたが、和也はせせら笑うだけだ。
「悪いけどさ、香澄さんって綺麗だけど、しょせん一般人でしょ? 社長と秘書って魅力的なワードだけど、御劔佑も社員をつまみ食いするし芸能人とも関係あるんだろ? NOZOMIってモデルと一時騒がれたじゃん。あちこちでヤリまくってる、ヤリチンなんだよ」
佑をバカにされ、胸が痛むし悔しくて堪らない。
彼と一緒に札幌へ行った時、そのモデルを筆頭に、過去の女性関係についてすべて教えてもらった。
ひどい嫉妬をして、それでも一応解決して、前に進めた――はずだった。
自分が一般人なのは痛感しているし、秘書として、プライベートで彼と一緒にいる時、周りの女性から凄い目で睨まれるのも分かっている。
百合恵にはビンタされたし、エミリアにはひどい仕打ちを受けた。
その重圧を抱えながら、香澄だって必死に佑を愛しているのだ。
――何も知らないくせに!
あまりに悔しくて、涙が零れた。
「言われなくたって自分の身の丈ぐらい分かっています! それでも、好きなんです! 仕方がないでしょう!?」
泣いた香澄を見ても、和也か動揺せず冷たく吐き捨てる。
まるで出会ったばかりの彼女を憎んでいるようだ。
「予言してあげますよ。どうせあなたは捨てられます」
「なんでそんな酷い事を言うの!? 私、和也さんに何かしましたか!?」
四つのエコバッグは、香澄と和也が二つずつ持って車まで運ぶ。
それでも重たい袋は彼が持ってくれるので、気遣いはできる人だと思った。
『じゃあねー! カスミ! あとでそっちのペンション行くから!』
駐車場でルカがブンブンと手を振り、香澄は思わず笑って『はい』と会釈をする。
車に乗り込み、和也と一緒にペンションへの帰路につく。
(ルカさんの事は双子のお二人で何となく慣れがあるからいいけど、こんな形で和也さんを不機嫌にさせるとは思わなかったなぁ……)
二人で車に乗っているのに、一人だけ後部座席に座る訳にはいかず、香澄は助手席だ。
これで後ろに乗ったなら、あからさまに「避けています」と言うようなものだ。
(これ以上何も言われないといいけど)
〝当たり障りのない話題〟を探していた時、和也が先に口を開いた。
「男の世話焼くの好きなんですか?」
「え? そ、そんな訳じゃないですけど……。慣れない土地で困っているなら、助けたいって思うでしょう?」
「ふぅん……。男なら誰彼かまわず愛想振りまいて、ついでに色気も振りまく人なのかと思いました」
さすがにその言い方にはカチンときた。
ついでに、一週間前にソファに押し倒された屈辱と嫌悪がこみ上げる。
「そんな言い方しなくたっていいじゃないですか。それに、色気なんて振りまいていません。ずっと不機嫌でいるより、なるべく笑顔でいたいと思うし、人に優しくしたいって思うのがそんなに悪い事ですか?」
ムキになって言い返してから、気まずくなって溜め息をつく。
不意に車が停まった。
周りは畑ばかりで、人通りも少ない。
(なんで……。買い忘れがあった?)
そう思った時、運転席から和也が助手席のヘッドレストに腕を預けた。
バックする時に後ろを確認するためだと思っても、香澄はドキッと胸を高鳴らせて警戒する。
その瞬間――。
「きゃ……っ」
和也が腕を伸ばして助手席のシートを倒し、ガクンッと体が仰向けになる。
「っ――――!!」
車の天井を見上げる体勢になり、香澄は全身に冷や汗を掻いて必死に起き上がろうとした。
これは、〝あの時〟と同じだ。
健二に海に連れて行かれ、浜辺でシートを倒されて無理矢理行為を求められた時の――。
(今は〝あの時〟じゃない、私はニセコにいて……)
グワッとせり上がった恐怖を必死に宥める間、和也が香澄にのし掛かって今度こそ彼女の胸を揉んできた。
「や……っ」
全身に悪寒が走り、香澄は必死に和也の手を払い、両腕でギュッと胸元を隠す。
しかしその腕の下に彼の手はすでに入り込んでいた。
「すげぇ、でかくて柔らかい」
「やめてください! 私、婚約者がいるって言いましたよね!? それに真奈美ちゃんとも裏で何かしているんでしょう!? そんな節操のない事していいんですか?」
黙っていた真奈美との事も出してやめさせようとしたが、和也はせせら笑うだけだ。
「悪いけどさ、香澄さんって綺麗だけど、しょせん一般人でしょ? 社長と秘書って魅力的なワードだけど、御劔佑も社員をつまみ食いするし芸能人とも関係あるんだろ? NOZOMIってモデルと一時騒がれたじゃん。あちこちでヤリまくってる、ヤリチンなんだよ」
佑をバカにされ、胸が痛むし悔しくて堪らない。
彼と一緒に札幌へ行った時、そのモデルを筆頭に、過去の女性関係についてすべて教えてもらった。
ひどい嫉妬をして、それでも一応解決して、前に進めた――はずだった。
自分が一般人なのは痛感しているし、秘書として、プライベートで彼と一緒にいる時、周りの女性から凄い目で睨まれるのも分かっている。
百合恵にはビンタされたし、エミリアにはひどい仕打ちを受けた。
その重圧を抱えながら、香澄だって必死に佑を愛しているのだ。
――何も知らないくせに!
あまりに悔しくて、涙が零れた。
「言われなくたって自分の身の丈ぐらい分かっています! それでも、好きなんです! 仕方がないでしょう!?」
泣いた香澄を見ても、和也か動揺せず冷たく吐き捨てる。
まるで出会ったばかりの彼女を憎んでいるようだ。
「予言してあげますよ。どうせあなたは捨てられます」
「なんでそんな酷い事を言うの!? 私、和也さんに何かしましたか!?」
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