571 / 1,559
第十部・ニセコ 編
なんでそんな酷い事を言うの!? ★
しおりを挟む
和也が小さく舌打ちをし、「うるせぇな」と呟いたのを耳にし、香澄は何とも言えない気持ちになった。
四つのエコバッグは、香澄と和也が二つずつ持って車まで運ぶ。
それでも重たい袋は彼が持ってくれるので、気遣いはできる人だと思った。
『じゃあねー! カスミ! あとでそっちのペンション行くから!』
駐車場でルカがブンブンと手を振り、香澄は思わず笑って『はい』と会釈をする。
車に乗り込み、和也と一緒にペンションへの帰路につく。
(ルカさんの事は双子のお二人で何となく慣れがあるからいいけど、こんな形で和也さんを不機嫌にさせるとは思わなかったなぁ……)
二人で車に乗っているのに、一人だけ後部座席に座る訳にはいかず、香澄は助手席だ。
これで後ろに乗ったなら、あからさまに「避けています」と言うようなものだ。
(これ以上何も言われないといいけど)
〝当たり障りのない話題〟を探していた時、和也が先に口を開いた。
「男の世話焼くの好きなんですか?」
「え? そ、そんな訳じゃないですけど……。慣れない土地で困っているなら、助けたいって思うでしょう?」
「ふぅん……。男なら誰彼かまわず愛想振りまいて、ついでに色気も振りまく人なのかと思いました」
さすがにその言い方にはカチンときた。
ついでに、一週間前にソファに押し倒された屈辱と嫌悪がこみ上げる。
「そんな言い方しなくたっていいじゃないですか。それに、色気なんて振りまいていません。ずっと不機嫌でいるより、なるべく笑顔でいたいと思うし、人に優しくしたいって思うのがそんなに悪い事ですか?」
ムキになって言い返してから、気まずくなって溜め息をつく。
不意に車が停まった。
周りは畑ばかりで、人通りも少ない。
(なんで……。買い忘れがあった?)
そう思った時、運転席から和也が助手席のヘッドレストに腕を預けた。
バックする時に後ろを確認するためだと思っても、香澄はドキッと胸を高鳴らせて警戒する。
その瞬間――。
「きゃ……っ」
和也が腕を伸ばして助手席のシートを倒し、ガクンッと体が仰向けになる。
「っ――――!!」
車の天井を見上げる体勢になり、香澄は全身に冷や汗を掻いて必死に起き上がろうとした。
これは、〝あの時〟と同じだ。
健二に海に連れて行かれ、浜辺でシートを倒されて無理矢理行為を求められた時の――。
(今は〝あの時〟じゃない、私はニセコにいて……)
グワッとせり上がった恐怖を必死に宥める間、和也が香澄にのし掛かって今度こそ彼女の胸を揉んできた。
「や……っ」
全身に悪寒が走り、香澄は必死に和也の手を払い、両腕でギュッと胸元を隠す。
しかしその腕の下に彼の手はすでに入り込んでいた。
「すげぇ、でかくて柔らかい」
「やめてください! 私、婚約者がいるって言いましたよね!? それに真奈美ちゃんとも裏で何かしているんでしょう!? そんな節操のない事していいんですか?」
黙っていた真奈美との事も出してやめさせようとしたが、和也はせせら笑うだけだ。
「悪いけどさ、香澄さんって綺麗だけど、しょせん一般人でしょ? 社長と秘書って魅力的なワードだけど、御劔佑も社員をつまみ食いするし芸能人とも関係あるんだろ? NOZOMIってモデルと一時騒がれたじゃん。あちこちでヤリまくってる、ヤリチンなんだよ」
佑をバカにされ、胸が痛むし悔しくて堪らない。
彼と一緒に札幌へ行った時、そのモデルを筆頭に、過去の女性関係についてすべて教えてもらった。
ひどい嫉妬をして、それでも一応解決して、前に進めた――はずだった。
自分が一般人なのは痛感しているし、秘書として、プライベートで彼と一緒にいる時、周りの女性から凄い目で睨まれるのも分かっている。
百合恵にはビンタされたし、エミリアにはひどい仕打ちを受けた。
その重圧を抱えながら、香澄だって必死に佑を愛しているのだ。
――何も知らないくせに!
あまりに悔しくて、涙が零れた。
「言われなくたって自分の身の丈ぐらい分かっています! それでも、好きなんです! 仕方がないでしょう!?」
泣いた香澄を見ても、和也か動揺せず冷たく吐き捨てる。
まるで出会ったばかりの彼女を憎んでいるようだ。
「予言してあげますよ。どうせあなたは捨てられます」
「なんでそんな酷い事を言うの!? 私、和也さんに何かしましたか!?」
四つのエコバッグは、香澄と和也が二つずつ持って車まで運ぶ。
それでも重たい袋は彼が持ってくれるので、気遣いはできる人だと思った。
『じゃあねー! カスミ! あとでそっちのペンション行くから!』
駐車場でルカがブンブンと手を振り、香澄は思わず笑って『はい』と会釈をする。
車に乗り込み、和也と一緒にペンションへの帰路につく。
(ルカさんの事は双子のお二人で何となく慣れがあるからいいけど、こんな形で和也さんを不機嫌にさせるとは思わなかったなぁ……)
二人で車に乗っているのに、一人だけ後部座席に座る訳にはいかず、香澄は助手席だ。
これで後ろに乗ったなら、あからさまに「避けています」と言うようなものだ。
(これ以上何も言われないといいけど)
〝当たり障りのない話題〟を探していた時、和也が先に口を開いた。
「男の世話焼くの好きなんですか?」
「え? そ、そんな訳じゃないですけど……。慣れない土地で困っているなら、助けたいって思うでしょう?」
「ふぅん……。男なら誰彼かまわず愛想振りまいて、ついでに色気も振りまく人なのかと思いました」
さすがにその言い方にはカチンときた。
ついでに、一週間前にソファに押し倒された屈辱と嫌悪がこみ上げる。
「そんな言い方しなくたっていいじゃないですか。それに、色気なんて振りまいていません。ずっと不機嫌でいるより、なるべく笑顔でいたいと思うし、人に優しくしたいって思うのがそんなに悪い事ですか?」
ムキになって言い返してから、気まずくなって溜め息をつく。
不意に車が停まった。
周りは畑ばかりで、人通りも少ない。
(なんで……。買い忘れがあった?)
そう思った時、運転席から和也が助手席のヘッドレストに腕を預けた。
バックする時に後ろを確認するためだと思っても、香澄はドキッと胸を高鳴らせて警戒する。
その瞬間――。
「きゃ……っ」
和也が腕を伸ばして助手席のシートを倒し、ガクンッと体が仰向けになる。
「っ――――!!」
車の天井を見上げる体勢になり、香澄は全身に冷や汗を掻いて必死に起き上がろうとした。
これは、〝あの時〟と同じだ。
健二に海に連れて行かれ、浜辺でシートを倒されて無理矢理行為を求められた時の――。
(今は〝あの時〟じゃない、私はニセコにいて……)
グワッとせり上がった恐怖を必死に宥める間、和也が香澄にのし掛かって今度こそ彼女の胸を揉んできた。
「や……っ」
全身に悪寒が走り、香澄は必死に和也の手を払い、両腕でギュッと胸元を隠す。
しかしその腕の下に彼の手はすでに入り込んでいた。
「すげぇ、でかくて柔らかい」
「やめてください! 私、婚約者がいるって言いましたよね!? それに真奈美ちゃんとも裏で何かしているんでしょう!? そんな節操のない事していいんですか?」
黙っていた真奈美との事も出してやめさせようとしたが、和也はせせら笑うだけだ。
「悪いけどさ、香澄さんって綺麗だけど、しょせん一般人でしょ? 社長と秘書って魅力的なワードだけど、御劔佑も社員をつまみ食いするし芸能人とも関係あるんだろ? NOZOMIってモデルと一時騒がれたじゃん。あちこちでヤリまくってる、ヤリチンなんだよ」
佑をバカにされ、胸が痛むし悔しくて堪らない。
彼と一緒に札幌へ行った時、そのモデルを筆頭に、過去の女性関係についてすべて教えてもらった。
ひどい嫉妬をして、それでも一応解決して、前に進めた――はずだった。
自分が一般人なのは痛感しているし、秘書として、プライベートで彼と一緒にいる時、周りの女性から凄い目で睨まれるのも分かっている。
百合恵にはビンタされたし、エミリアにはひどい仕打ちを受けた。
その重圧を抱えながら、香澄だって必死に佑を愛しているのだ。
――何も知らないくせに!
あまりに悔しくて、涙が零れた。
「言われなくたって自分の身の丈ぐらい分かっています! それでも、好きなんです! 仕方がないでしょう!?」
泣いた香澄を見ても、和也か動揺せず冷たく吐き捨てる。
まるで出会ったばかりの彼女を憎んでいるようだ。
「予言してあげますよ。どうせあなたは捨てられます」
「なんでそんな酷い事を言うの!? 私、和也さんに何かしましたか!?」
21
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる