【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第十部・ニセコ 編

四億の別荘の持ち主

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 ――守らせてほしかった。

 なのに彼女は――、憎いほど愛しい彼女は、自らの足で立ち上がり、北の地へ行ってしまった。

 ――ただ、守りたかっただけなのに。
 ――愛したかっただけなのに。

 自分の何が悪いのかも、香澄は教えてくれない。

「……話し合わないと、……分からないじゃないか」

 涙を流しきった目は壁の木目をぼんやりと見つめ、唇から力を失った言葉が漏れる。

「……香澄。……君と会って、話したい。君が何を求めているのか、俺のどこが悪いのか、……君の口から聞きたい」

 あと――、二十三日。

 二十三日もこの地獄が続くのだと思うと、耐えられる自信がない。

「時間があるから駄目なんだ。……松井さんに仕事を入れてもらおう」

 呟いて、脱力して――、佑はそのまま香澄のベッドで眠る事にした。

 とりあえずジャケットだけ脱ぎ、あとはもう、目を閉じて香澄の匂いに集中し、彼女と幸せに睦み合っている姿を想像した。



**



 それからさらに一週間が経ち、香澄もニセコの生活に慣れ始めていた。

 初日以来、和也と二人きりになりそうな時は、何かしら仕事を見つけて彼から距離を取った。

 こういう時、八谷で働いていた時にアルバイトに向かって「積極的に仕事を見つけてみて」とアドバイスしていたのが役に立つ。

 サービス業は絶えず動く事が基本だ。

 ペンションでは掃除を基本にキッチンにいる聡子を手伝い、なるべく真奈美を和也と一緒にする事を気遣いつつ、母屋での仕事もちょこちょここなしてゆく。

 それでも買い出しの時は気を遣う。

 基本的に秋山か和也が車を運転し、真奈美と香澄が交互にアシスタントをする事になっている。
 真奈美が当番の時は「いい事あるといいね」と見送るのだが、自分が助手席に座る時は緊張して堪らない。

 秋山もできるだけ自分がペアになろうとしてくれるのだが、ずっと香澄につきっきりという訳にはいかない。

 なるべく〝そういう〟雰囲気にならないようにし、佑の話題も避けた。

 自分からニセコの事やペンションの事を質問し、和也から話題を振らせないように心がける。

 何とかそのように努力をして、一週間が経ち、日付は十月七日になっていた。





「あ、あの人です」

 週明けになって食料を買い足す事になり、香澄は和也と一緒にスーパーまで来ていた。
 カートにカゴを二つ置いてメモを開いていると、和也が小声でそう言う。

「え?」

 納豆を手にしていた香澄は顔を上げ、なんの事かと和也の視線を追う。

 すると前方には背の高い男性の後ろ姿があり、魚売り場で固まっている。

「あの人が推定四億する別荘の持ち主です」
「へぇ……」

 髪は茶髪のくせっ毛で、普通Tシャツとジーンズにダウンベストを着ている。
 真剣に魚を見ているようだが、見慣れない魚があるのか頻りに首を傾げていた。

(何を困っているんだろう?)

 香澄の少しお節介な部分がモゾモゾし、「よし」と決めるとメモを和也に渡した。

「ちょっと世間話してきますね」
「え?」

 ここで行動力を見せる香澄に、和也は呆気にとられる。
 その脇を香澄はスタスタと通り、彼のもとへ向かった。

『お困りですか?』

 隣からヒョッと顔を覗かせ、英語で話しかけると茶色い目が驚いたように瞬いた。

(顔立ちからして……ラテン系……のような)

 あまり欧米人の顔だちの区別がつく方ではないのだが、佑や双子と接するようになり、ざっくりと系統が分かる……ような気もしないでもない。

 目の前の男性はくっきりとした顔立ちで、髪は短髪なのだがウェーブがかかっている。
 目と髪も濃い目の茶色で、可能性としてはフランス、イタリア、もしくはスペイン、ポルトガルだ。

『可愛い子が話しかけて来てくれたな』

 男性は魅力的な笑みを浮かべ、スルッと浮ついた言葉を口にする。
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