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第十部・ニセコ 編
歓迎会
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「ありがとうございます」
巻き込まれる面倒くささなら、嫌というほど知っている。
佑の側にいれば、常に誰かに嫉妬される。
勿論、成瀬たちのように応援してくれる人もいて、全員が敵ではないのは分かっている。
けれど人というものは、周囲から羨望される輝くような人が、心を割く相手を妬むようにできている。
香澄は和也に何の感情も抱いていない。
むしろ午後の事があって「近づかないでほしいな」と思っているほどだが、真奈美はそれを知らない。
何もない状態で「とらないでね」と牽制をかけてきたほどだから、こじれた時が厄介だ。
(そうならないようにしないと)
秋山の忠告をありがたく胸に刻み、香澄は深くお辞儀をした。
「俺も目を光らせておく。俺は赤松さんが何者であっても構わない。大自然に癒される目的で来ているお客様を、煩わせなければ何でもいい」
優先順位がハッキリしている秋山の言葉に、香澄は思わず笑顔になる。
自分の軸がしっかりしている人は、周囲に流されにくいので信頼できると佑が言っていたし、香澄もそう感じていた。
「一か月、騒ぎを起こさないよう努力します」
「そう畏まらなくていい。俺も少し脅しすぎた。赤松さんはせっかく休暇で来ているんだから、のんびり羽を伸ばせればいいな」
最後に少し笑ってから、秋山は「じゃあ」と駐車場に向かって歩いて行った。
「お疲れ様です!」
香澄が声を掛けると、彼は軽く手を挙げる。
(いい人だな。とにかく、味方ができた。和也くんの事をおじさん達に言おうか迷ってたけど、もうちょっと様子を見ようか。同じ職場の人なのに、一か月しかいない私が原因でギスギスしたら申し訳ないし)
気持ちを切り替えて、香澄はペンションへ秋成たちを呼びに行った。
母屋ではすでにダイニングテーブルに手巻き寿司の用意ができている。
先ほど秋成と聡子を呼んで叔父はすぐ来たのだが、聡子はまだ来ない。
「おばさんは?」
「お客様の事もあるし、まだ向こうにいるって言っている。俺が先に食べてしまってから、途中で入れ替わる予定だ」
「はい」
そんな形で、香澄の歓迎パーティーが始まった。
「じゃあ、香澄ちゃん、三週間よろしく」
「はいっ、こちらこそどうぞ宜しくお願い致します!」
グラスにビールを注がれたので、苦手ではあるが飲めなくはないので受け入れる。
真奈美も飲酒ができる年齢なので、全員手にビールだ。
「それじゃあ、乾杯!」
「乾杯!」
カチンとグラスが合わさる音がしたあと、それぞれビールを喉に流し込む。
「手巻き寿司久しぶりです!」
御劔邸では斎藤が作った美味しい料理が食べられるが、自分でも好きな物を作れる。
だが食べるのは佑と香澄の二人なので、こうやってネタを用意して大勢で食べる手巻き寿司は、本当に久しぶりだった。
言えば佑の事だから、豪勢な手巻き寿司を用意してくれるだろうが、申し訳ないので言わなくていいと思っていた。
四つ切りにした海苔に酢飯をのせ、何を食べようか少し迷ってからサーモンの刺身を箸で取った。
わさび醤油にちょんちょんとつけて手巻きにし、パクッと一口囓ると表情を綻ばせる。
「んんふぃ」
「美味いか? よーし」
秋成が嬉しそうに笑い、そのあとも談笑しながら食事が進んでいく。
「そうだ、オーナー。秋山さんがまたスーパーで、あの海外イケメン見たって言っていました」
「ああ、どんな様子だった?」
従業員たちの間で共通の話題の人物がいるらしく、香澄は口を動かしながら話を聞く。
「食材を見ていたみたいですが、何の魚、肉なのか分からずに、結局カップ麺とかを籠に入れてましたね」
「その人がどうかしたんですか?」
少し気になったので、質問してみる。
すると、秋成が答えてくれた。
「近くに数億はする別荘があるんだよ。ずっと空いていたけど、最近になって所有者らしい欧米系の男性があそこに出入りしだした。まだ若い人で、俺たちも頻繁に見かけている。まぁ、様子を窺っている感じかな。困った事があれば助けに入りたいが……、こちらも仕事があるし、という感じで」
「なるほど……」
欧米系と言っても幅広いので、どこの国の人かな? と香澄はぼんやり考える。
巻き込まれる面倒くささなら、嫌というほど知っている。
佑の側にいれば、常に誰かに嫉妬される。
勿論、成瀬たちのように応援してくれる人もいて、全員が敵ではないのは分かっている。
けれど人というものは、周囲から羨望される輝くような人が、心を割く相手を妬むようにできている。
香澄は和也に何の感情も抱いていない。
むしろ午後の事があって「近づかないでほしいな」と思っているほどだが、真奈美はそれを知らない。
何もない状態で「とらないでね」と牽制をかけてきたほどだから、こじれた時が厄介だ。
(そうならないようにしないと)
秋山の忠告をありがたく胸に刻み、香澄は深くお辞儀をした。
「俺も目を光らせておく。俺は赤松さんが何者であっても構わない。大自然に癒される目的で来ているお客様を、煩わせなければ何でもいい」
優先順位がハッキリしている秋山の言葉に、香澄は思わず笑顔になる。
自分の軸がしっかりしている人は、周囲に流されにくいので信頼できると佑が言っていたし、香澄もそう感じていた。
「一か月、騒ぎを起こさないよう努力します」
「そう畏まらなくていい。俺も少し脅しすぎた。赤松さんはせっかく休暇で来ているんだから、のんびり羽を伸ばせればいいな」
最後に少し笑ってから、秋山は「じゃあ」と駐車場に向かって歩いて行った。
「お疲れ様です!」
香澄が声を掛けると、彼は軽く手を挙げる。
(いい人だな。とにかく、味方ができた。和也くんの事をおじさん達に言おうか迷ってたけど、もうちょっと様子を見ようか。同じ職場の人なのに、一か月しかいない私が原因でギスギスしたら申し訳ないし)
気持ちを切り替えて、香澄はペンションへ秋成たちを呼びに行った。
母屋ではすでにダイニングテーブルに手巻き寿司の用意ができている。
先ほど秋成と聡子を呼んで叔父はすぐ来たのだが、聡子はまだ来ない。
「おばさんは?」
「お客様の事もあるし、まだ向こうにいるって言っている。俺が先に食べてしまってから、途中で入れ替わる予定だ」
「はい」
そんな形で、香澄の歓迎パーティーが始まった。
「じゃあ、香澄ちゃん、三週間よろしく」
「はいっ、こちらこそどうぞ宜しくお願い致します!」
グラスにビールを注がれたので、苦手ではあるが飲めなくはないので受け入れる。
真奈美も飲酒ができる年齢なので、全員手にビールだ。
「それじゃあ、乾杯!」
「乾杯!」
カチンとグラスが合わさる音がしたあと、それぞれビールを喉に流し込む。
「手巻き寿司久しぶりです!」
御劔邸では斎藤が作った美味しい料理が食べられるが、自分でも好きな物を作れる。
だが食べるのは佑と香澄の二人なので、こうやってネタを用意して大勢で食べる手巻き寿司は、本当に久しぶりだった。
言えば佑の事だから、豪勢な手巻き寿司を用意してくれるだろうが、申し訳ないので言わなくていいと思っていた。
四つ切りにした海苔に酢飯をのせ、何を食べようか少し迷ってからサーモンの刺身を箸で取った。
わさび醤油にちょんちょんとつけて手巻きにし、パクッと一口囓ると表情を綻ばせる。
「んんふぃ」
「美味いか? よーし」
秋成が嬉しそうに笑い、そのあとも談笑しながら食事が進んでいく。
「そうだ、オーナー。秋山さんがまたスーパーで、あの海外イケメン見たって言っていました」
「ああ、どんな様子だった?」
従業員たちの間で共通の話題の人物がいるらしく、香澄は口を動かしながら話を聞く。
「食材を見ていたみたいですが、何の魚、肉なのか分からずに、結局カップ麺とかを籠に入れてましたね」
「その人がどうかしたんですか?」
少し気になったので、質問してみる。
すると、秋成が答えてくれた。
「近くに数億はする別荘があるんだよ。ずっと空いていたけど、最近になって所有者らしい欧米系の男性があそこに出入りしだした。まだ若い人で、俺たちも頻繁に見かけている。まぁ、様子を窺っている感じかな。困った事があれば助けに入りたいが……、こちらも仕事があるし、という感じで」
「なるほど……」
欧米系と言っても幅広いので、どこの国の人かな? と香澄はぼんやり考える。
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