【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第十部・ニセコ 編

意識された瞬間

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「俺、切る、焼くはできるんですけど、その他はまだ修行中なんですよね。手巻き寿司のシーチキンを作るのも、味付けが難しくて」

「ふふ、分かりました。お吸い物の具の指示や、出汁に使う物の場所を教えてくだされば、やります」

 やる気を見せたからか、和也は制してくる。

「あ、まだもう少し休めますから、今すぐじゃなくていいですよ」
「はい」

 和也がリビングのソファに座ったので、香澄もなんとなくそちらに向かった。

「香澄さんってここに来たっていう事は、英語話せるんですか?」
「はい、一応……。英語とドイツ語はある程度、あとはフランス語を少し」

「へぇ、凄いな。俺はオーストラリアに留学に行ってたので、身についたのはオージーイングリッシュなんです」
「あ……。確かトゥデイをトゥダイって発音する……」

「そう! それ。通じるからいいんですけどね。オーストラリア人も多いので、彼らとは盛り上がります」
「なるほど」

「香澄さんは何系の英語なんですか? アメリカ英語?」
「習ったのは、クィーンズイングリッシュの発音ですね。先生がその方がいいと言っていて……」

「へぇ、凄いな」

「あ、でもアメリカ英語より巻き舌が少ないらしいので、そういう意味では習得が簡単だったのかもしれません。私、舌が短めなので巻き舌とか苦手で……」

 自分でそう言いつつ、佑とキスをする時に「香澄は舌が短めで可愛いな」と言われた事を思い出し、ブワッと赤くなる。

 つられて佑との濃厚なキスを思い出し、ソワソワして明後日の方向を見た。

(こんな事で佑さんを思い出すなんて……。欲求不満なのかな。やだな、もー)

「香澄さん? なんか顔赤いですよ? 暑いです?」

 和也が言って「そんなに暑いかな?」と外を気にする。
 秋晴れで先ほども沢山体を動かしたので、その言葉に便乗する事にした。

「そ、そうですね! さっき汗掻いたし……」

 あはは、とから笑いをしてパーカーのファスナーを開き、手で顔をパタパタと扇いでみせる。

 ライトグレーのパーカーの下から、赤いTシャツに包まれた胸がどんっと出たのだが、香澄は何も気にしていない。

 東京では特に誰にも何も言われないので、自分が人目を引くほどの巨乳だと香澄は自覚していない。
 そんな不埒な視線があれば、佑がギロリと睨むし社員ならばクビ覚悟になるだろう。

 知らないところで意識せず守られていた弊害が、ここで出てしまった。

 普段、華奢な真奈美と一緒にいる和也は、ギョッとして香澄の胸元を見る。
 それから目を逸らし、また二度見する。

 ツンとしていながらまるく膨らんでいる胸元は、Tシャツの布地が左右に引っ張られ横の皺ができている。
 それに対し平らな腹部から腰にかけて、クシャクシャと無防備な皺が刻まれ、香澄のプロポーションの良さが窺い知れる。

 一度意識すると和也は他の部分も気になったようで、スキニーデニムにピチッと包まれた脚や、首元から覗いた鎖骨、フェイスラインや柔らかそうな唇を見て――思いきり顔を横に逸らした。

 彼が返事をしないので沈黙が生まれ、香澄は「変な事いったかな?」と思いながら会話のネタを探す。

(何の話してたっけ……。あ、英語だ)

 英語について何か話せる事があったかな……と思った時、和也が変な質問をしてきた。

「御劔佑とはどれぐらいの付き合いなんですか?」
「はぁ……」

 佑の事をフルネーム呼び捨てで呼ばれるのは、妙な気分だ。

 けれど一般人にとって有名人というものは、そういう存在なのだろうと思い、特に何の感情も抱かないようにした。

「去年の十一月頃ですね。佑さんがお仕事で札幌に来ていて、私が当時エリアマネージャーをしていた飲食店に来て……」

 そのとき自分がバニーガールの格好をしていた事は、何がなんでも伏せておく。

「一目惚れとかだったんですか?」
「や、えぇと……。話すと長いんですが……」

 佑に褒められた事を話すのも、まるで自分の自慢をしているようで憚られる。
 佑が香澄に「普通なところが好きだ」と言ったのも、先ほど和也が指摘してくれた事ではあるが、自分で強調するのも変な話だ。

 うんうんと考えてうなっていると、また和也が質問してくる。

「御劔佑って幾つでしたっけ?」
「今年の六月で三十二歳になりました」

「ふぅん……」

 彼が内心で「オヤジじゃん」と呟いたのを、香澄は知らない。
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