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第十部・ニセコ 編
和也との休憩
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御劔邸にもバイオエタノール暖炉はあるが、あれは周辺の家に煙などで迷惑をかけないようにしているので、薪ストーブや薪を使う暖炉とは異なる。
「オーナーに教わりますね。分からない時は教えてください」
「やってみた方が分かりやすいと思います。これ、片付けたら、母屋に行って休みましょうか。俺、今日は母屋の食事当番なんです」
「あ、そうですよね。母屋の食事も用意しなきゃ」
ペンションに行って聡子の手伝いをしようと思っていたが、言われてみればその通りだ。
「今日は香澄さんの歓迎会みたいですね。食材、何があるのかな」
和也が木くずの入った大きな麻袋を持ってきたので、香澄は箒とちりとりで木くずを袋に入れる。
その作業が終わると、「少し休みましょう」と言われて母屋に戻った。
(お水が、美味しい)
香澄は台所でコップを持ち、水道水を出して汲んでは無限に飲んでいる。
よく東京の人に「北海道はお水美味しいよね」と言われるが、札幌に住んでいた時は行っている意味が分からなかった。
御劔邸では常にウォーターサーバーの水を飲んでいたので、結局のところ違いが分からないままだった。
それとは別に、労働の後に冷たい水を飲むと、体の中が清涼なもので満たされていく気がする。
「香澄さん、何杯目ですか? 水っ腹になりますよ」
「ふぁい……」
ごくん……とコップに残った一口を飲み、香澄は「この辺りにしておこう」とコップを洗う。
「どうやら今日は手巻き寿司みたいですね。準備も楽だ。刺身のサクを切って、シーチキンと玉子焼きを作って……。キュウリも切るか」
冷蔵庫を覗いてブツブツと言っている和也を見て、香澄は感心した声を出す。
「和也さん、料理できるんですね。すごい」
「香澄さんの方が年上なんだし、タメ語でいいですよ。お客様の前では丁寧な感じでお願いしたいですが」
「あ……と、わ、分かった……。……です」
慣れずに最後に「です」をつけ加えると、ダイニングの椅子に座った和也がおかしそうに笑う。
「香澄さん、あの御劔佑の婚約者に見えませんね。いい意味で」
「えっ? あ、あの、すっぴんだし地味な格好だし、すみません! 何か夢を崩しましたよね!? お洒落してもそんなに変わらないんですが……。その、佑さんはとってもいい人で優しくて、最高の人なので! 釣り合うように日々努力しています」
「また口調……」
「あ」
注意され、「しまった」という顔をすると和也が笑う。
「俺、ああいう有名人が付き合う女性って、ツンと澄ましたものすっごい美女なのかと思ってました。や、香澄さんが美女じゃないとかじゃなくて」
「いえいえ。そう思うの分かります。……分かる」
言い直した時、和也が台所にあったバナナを一本くれた。
皮を剥いて剥いてかぶりつくと、和也がおかしそうな顔で笑う。
「いやぁ、本当になんつーか、普通なんですね」
「ん?」
もぐもぐとバナナを食べつつ目を瞬かせる香澄を見る和也は、ずいぶん打ち解けた表情になっている。
「オーナーの話じゃ、もともと札幌にいて御劔佑にプロポーズされて東京行って……。そんな人がうちにバイトに来るっていうから、正直ちょっと身構えていたんですよ。プライド高そうなキツい女だったらどうしようって思って」
「あ、すみません。いや、本当に……その、一般人です」
繰り返すたび、「どうして自分はもっと美人で、佑に釣り合う人間じゃないんだろう」と落ち込んでしまう。
「や、こっちこそすみません。本当に〝いい意味で〟なんです。香澄さんって気軽に話せる雰囲気があって、馴染みやすいですよ。自然体っていうか。だから選ばれたんじゃないですか?」
バナナを食べ終わった和也は皮を台所のゴミ箱に入れ、ニカッと笑う。
「そう……ならいいんですが……」
香澄も最後の一口を口に入れ、同じようにバナナの皮をゴミ箱に捨てた。
「そうだ、香澄さんって吸い物作れますか?」
「え? あ、はい」
唐突に話題が変わり、香澄は仕事をもらえるのかと背筋を伸ばす。
「オーナーに教わりますね。分からない時は教えてください」
「やってみた方が分かりやすいと思います。これ、片付けたら、母屋に行って休みましょうか。俺、今日は母屋の食事当番なんです」
「あ、そうですよね。母屋の食事も用意しなきゃ」
ペンションに行って聡子の手伝いをしようと思っていたが、言われてみればその通りだ。
「今日は香澄さんの歓迎会みたいですね。食材、何があるのかな」
和也が木くずの入った大きな麻袋を持ってきたので、香澄は箒とちりとりで木くずを袋に入れる。
その作業が終わると、「少し休みましょう」と言われて母屋に戻った。
(お水が、美味しい)
香澄は台所でコップを持ち、水道水を出して汲んでは無限に飲んでいる。
よく東京の人に「北海道はお水美味しいよね」と言われるが、札幌に住んでいた時は行っている意味が分からなかった。
御劔邸では常にウォーターサーバーの水を飲んでいたので、結局のところ違いが分からないままだった。
それとは別に、労働の後に冷たい水を飲むと、体の中が清涼なもので満たされていく気がする。
「香澄さん、何杯目ですか? 水っ腹になりますよ」
「ふぁい……」
ごくん……とコップに残った一口を飲み、香澄は「この辺りにしておこう」とコップを洗う。
「どうやら今日は手巻き寿司みたいですね。準備も楽だ。刺身のサクを切って、シーチキンと玉子焼きを作って……。キュウリも切るか」
冷蔵庫を覗いてブツブツと言っている和也を見て、香澄は感心した声を出す。
「和也さん、料理できるんですね。すごい」
「香澄さんの方が年上なんだし、タメ語でいいですよ。お客様の前では丁寧な感じでお願いしたいですが」
「あ……と、わ、分かった……。……です」
慣れずに最後に「です」をつけ加えると、ダイニングの椅子に座った和也がおかしそうに笑う。
「香澄さん、あの御劔佑の婚約者に見えませんね。いい意味で」
「えっ? あ、あの、すっぴんだし地味な格好だし、すみません! 何か夢を崩しましたよね!? お洒落してもそんなに変わらないんですが……。その、佑さんはとってもいい人で優しくて、最高の人なので! 釣り合うように日々努力しています」
「また口調……」
「あ」
注意され、「しまった」という顔をすると和也が笑う。
「俺、ああいう有名人が付き合う女性って、ツンと澄ましたものすっごい美女なのかと思ってました。や、香澄さんが美女じゃないとかじゃなくて」
「いえいえ。そう思うの分かります。……分かる」
言い直した時、和也が台所にあったバナナを一本くれた。
皮を剥いて剥いてかぶりつくと、和也がおかしそうな顔で笑う。
「いやぁ、本当になんつーか、普通なんですね」
「ん?」
もぐもぐとバナナを食べつつ目を瞬かせる香澄を見る和也は、ずいぶん打ち解けた表情になっている。
「オーナーの話じゃ、もともと札幌にいて御劔佑にプロポーズされて東京行って……。そんな人がうちにバイトに来るっていうから、正直ちょっと身構えていたんですよ。プライド高そうなキツい女だったらどうしようって思って」
「あ、すみません。いや、本当に……その、一般人です」
繰り返すたび、「どうして自分はもっと美人で、佑に釣り合う人間じゃないんだろう」と落ち込んでしまう。
「や、こっちこそすみません。本当に〝いい意味で〟なんです。香澄さんって気軽に話せる雰囲気があって、馴染みやすいですよ。自然体っていうか。だから選ばれたんじゃないですか?」
バナナを食べ終わった和也は皮を台所のゴミ箱に入れ、ニカッと笑う。
「そう……ならいいんですが……」
香澄も最後の一口を口に入れ、同じようにバナナの皮をゴミ箱に捨てた。
「そうだ、香澄さんって吸い物作れますか?」
「え? あ、はい」
唐突に話題が変わり、香澄は仕事をもらえるのかと背筋を伸ばす。
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