上 下
556 / 1,548
第十部・ニセコ 編

もっと気さくに話してくださいね

しおりを挟む
 真奈美は二階の一番奥へ進み、看板に『Lily of the valley(鈴蘭)』と書かれた部屋に入る。

 ちなみにもう一部屋のスイートはラベンダーだ。

 入ってすぐ靴を脱ぎ、障子を開くと広々とした客室があった。

「わぁ……広い」
「でしょう?」

 メインの部屋は十畳の居間と八畳の寝室が繋がっている造りだ。

 客層は日本人よりも海外の人が多い想定をしているのか、座椅子ではなく、ソファとテーブルのセットになっている。
 壁際にはお湯のポットやパウダーのコーヒー、紅茶、緑茶が完備され、ミニバーもある。
 大きな液晶テレビは、有料でケーブルテレビも見られるようになっていた。
 窓際には景色を見ながら談話を楽しめるよう、椅子が二脚に丸テーブルがある。

 寝室にはチョコレート色のベッドカバーと光沢のあるフットスローが掛けられた、セミダブルのベッドが二つ置かれてあった。
 寝室の壁にあるライトは花を思わせる形で、真奈美がパチッと照明をつけてみせると、温かなオレンジ色の光が点いた。

「こっちがトイレと浴室」

 言われて入り口近くにある引き戸の奥を見ると、ゆったりとしたスペースの独立したトイレがあり、洗面所も大きな鏡と明るく暖かな雰囲気で開放的だ。
 ガラス戸の向こうは窓から外の景色が楽しめる浴槽があり、洗い場も広い。

「豪華な部屋ですねぇ……」

 呟いてから、思わず「この部屋に佑さんと泊まれたら……」と考え、ゆるりと首を左右に振る。

「でしょう? 素敵ですよね。奥さんがセンスのいい人なので、業者さんと話し合って徹底的にこだわったみたいです」

 言われて、確かに昔からセンスが良かったと思い出す。

 いいところのお嬢さんなのもあって、着ている物も素敵だったし、プレゼントや料理なども一ひねりされていた。
 子供の頃から良い物に触れているので、成長と共にその感覚も研ぎ澄まされていったのだろう。

 ぼんやりと客室に見とれていると、真奈美がクスクス笑った。

「なんだか香澄さんって年上っていう感じしませんね。綺麗だし、偉ぶったところがないし。あの、失礼ですけどおいくつですか? どう見ても二十三、四歳ぐらいにしか見えないんですが」

 若く見られていると知り、香澄は赤面する。

「いや、いやいや。そんな……。私、二十七歳なんです。十一月で二十八歳になるんです。せっかく若く見てもらったのに、何かすみません……」

「ええーっ!?」

 真奈美は一歩ズイッと香澄に近寄り、息がかかるほど顔を寄せてくる。

「お肌すべっすべ。触っていいです? わっ、ツルツル! 赤ちゃんみたいな肌してる。無駄毛もなくないです? わぁぁ……」

 真奈美に顔をプニプニと押されたかと思うと、掌ですべすべと感触を確かめられる。

「ちょっと腕見せてください!」

 なぜかやたらはりきった真奈美が、香澄の腕をとってパーカーの袖を捲り上げた。

「わっ」
「すっごぉ……。これって永久脱毛したんですか? 本当にすべっすべ……。それにいい匂いする……」

 褒められれば褒められるほど、恥ずかしい。
 こんな体になったのも、佑と暮らすようになってからなので、自分一人の意識改善ではない。

「香澄さん、婚約者さんがいるってオーナーが言ってたんですが、結婚はいつぐらいにするんですか?」
「あ……と」

 どうやら真奈美は相手について聞かされていないようだ。
 釘を刺す必要がある異性にだけ、ひっそりと伝えたのだろう。

「来年のジューンブライドを目標にしているんです」

「ジューンブライドかぁ。素敵~! あ、そうだ。香澄さんの方が年上なんだし、もっと気さくに話してくださいね」

「いやいや、そこはちゃんと線引きさせてもらいま……、するね?」

 真奈美のつぶらな目に見つめられて圧を感じ、香澄は笑いながら口調を変える。
 すると真奈美はニカッと笑う。

 と、外から車の音が聞こえ、真奈美は窓から外を見て「秋山さんが戻ってきた!」と言う。

「秋山さんにも紹介しますね。秋山さんは三十七歳で既婚者なんです。パッと見怖いかもですが、黙々と仕事するタイプで、頼りになりますよ。怖い人のように見えて、何を言っても怒りません」

「オーナーからも以前、チラッと噂を聞きました。『頼りになる』って」

 そう言うと、真奈美は身内を褒められたように嬉しそうに微笑む。
しおりを挟む
感想 555

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

処理中です...