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第十部・ニセコ 編

真奈美の案内

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「あなたがオーナーの言っていた姪御さんですか?」
「初めまして。赤松香澄です。短い間ですが、どうぞ宜しくお願い致します」

 きちっと頭を下げると、彼女は「やだぁ」と可愛らしい声で笑う。

「赤松さん……えーと、オーナーと同じ苗字だな。香澄さんの方が年上なんですから、そんな畏まらないでください。私は安野真奈美って言います」

 真奈美はショートボブの小柄な女性で、どこか小動物を思わせる雰囲気が愛らしい。

「でも私が何も知らない後輩なのは確かなので、どうぞ宜しくお願いします」

 もう一度ペコッと頭を下げると、奥から叔母の聡子が顔を出した。

「香澄ちゃん、久しぶり」
「あ、聡子おばさんお久しぶりです」

 聡子は父方の家が中小企業の社長をしているらしく、お嬢様っぽいおっとりとした性格をしている。

「色々分からない事もあるかと思うけど、田舎の叔父さんの家に来たと思って、ゆっくり羽を伸ばして」

「ゆっくりさせてもらいますが、ちゃんと働かせて頂きます。こう見えて料理は一通りできるつもりですし、各種お手伝いします。掃除も洗濯もなんだってします」

「ま、今日はペンションの雰囲気だけ感じておいて」

 そう言われるものの、香澄の中ではもうすでに研修期間は始まっている。
 皆が働いているのに、自分だけのんびりするのは落ち着かない。

「いまキッチンで何かしていますか? だったら手伝います」
「ああ、平気平気。洗い物してるだけだから」

「でも……」

 そう言っていると、香澄のパーカーを真奈美がちょんちょんと引っ張ってきた。

「はい?」

「じゃあ、私がペンションを案内するっていうのはどうですか?」
「宜しくお願いします!」

 ハキッと返事をした香澄に聡子と真奈美は笑い、それから彼女にペンションを案内してもらった。

 まず、まっすぐ向かってキッチンの右奥へ行くと手洗いと大浴場がある。

「お風呂は一階に大浴場があります。各部屋にもユニットバスがついていて、ちゃんと温泉です。大浴場は時間帯で男女に分かれているので、空いた時間にお風呂場の掃除をします」

 案内された大浴場は広々としていて、岩肌を利用した浴槽やダークカラーで統一した浴室内は落ち着きがある。
 大きな窓から羊蹄山が見え、手前の木が紅葉したらさぞ綺麗だろう。

「気持ちよさそう」
「でしょう? 結構評判いいんですよ。さっき私と和也さんがお風呂掃除をしたので、温泉を溜め直しています」

 言われたとおり、浴槽には温泉が溜まっている途中だった。
 洗い場は六人が並んで体を洗えるようになっていて、シャンプー類もこだわりの物が置かれてある。

「あっちはサウナ。海外の人ってサウナ大好きだから」

 真奈美がドアを開けると、中からモワッと蒸気が出てくる。

「脱衣所の横にあるのが洗濯室です。基本的に洗濯はお客様にワンコイン出してもらって、セルフサービスという事になっています。なのでちょっとラクですよ。掃除や忘れ物のチェックはありますけどね」

 脱衣所にはコインロッカーもあり、本格的だ。

 そこから出ると、真奈美が左手にある冷蔵庫を示した。

「あの冷蔵庫では、牛乳やコーヒー牛乳、フルーツ牛乳も売ってます。こっちも好評ですね」
「んふふ、嬉しいサービスですね」

 銭湯のような作りに香澄は思わず笑顔になる。

 それから二人は一階の一番へ行く。

「ここが食堂です」

 案内された食堂では、床から天井まである大きなガラスから、白樺の木立が見える美しい景色が見られるようになっている。

 食堂内にも薪ストーブがあり、天井にもシーリングファンがある。
 天井からは丸っこい木製の照明が下がり、周囲の雰囲気に合っている。
 テーブルと椅子は木製でテーブルクロスが掛かり、卓上花も飾られてあった。

 奥にはアルコールを含めた飲料の自動販売機があった。

「基本的に朝食は和食か洋食、ランチとディナーは一般のお客様も来るので、メニュー制です。ディナー時にはキャンドルも置きますよ」

 パブリックスペースの案内をしたあと、真奈美が上を指さした。

「今、スイートの客室が空いてるので、案内しますね」
「はい」

 以前麻衣と泊まりに来た時は普通のツインの客室だったので、そういう部屋があるのは聞くだけの情報で知っていた。
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