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第十部・ニセコ 編
暗い話
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それから香澄は大好きなジョン・アルクールについて少し語る。
「今度私も店舗に行ってみようかな? 大角に入ってるんだって?」
「うん! ぜひぜひ! 麻衣ともお揃いになりたい」
大好きな物はシェアしたいタチの香澄が頷くと、麻衣はくすぐったそうな顔でこちらを見る。
「ん? なぁに?」
カニスプーンでほじった身をぱくっと食べて目を瞬かせると、ビール飲んだ麻衣が破顔する。
「香澄のこの無邪気な感じ、懐かしいなぁって」
「え? 無邪気? いやいや。私けっこうゲスな事も考えるし」
香澄は手にカニスプーンを持ったまま、顔の前で手をパタパタ振る。
「いやいや、私の職場の同僚と比べると、本当にきよらかーな感じがするよ。うちの同僚は泥水みたいな感じだわ」
ケタケタと笑う麻衣につられて笑いながらも、香澄は照れくさそうに首を横に振る。
「私の同僚だったら、女子力上げるためのアイテムとかの情報、まず共有しないね。他にもセンスのいい人を、真似しまくって嫌がられる人もいるな」
「あー……、真似っ子ね……」
不意に高校時代に、友人から「真似されている」と相談をされた事があったのを思いだした。
友人が可愛いと思ってアクセサリーなどを買うと、「どこで買ったの?」と聞いたあと同じ物を買うのだと言う。
おまけに先に買った友人をさしおいて、自分がさもファッションリーダーのように振る舞うらしい。
さらに最悪なのは、真似てきたほうが可愛いので、始末に負えないのだとか。
「香澄は昔から周りが色々悩んでいても、我関せずっていう感じだったもんね。香澄の事が好きだっていう男子がいても、香澄は浮き足だったりしないでマイペースを貫いてた印象がある」
「んふふ、男子って言い方懐かしい」
「それ! 懐かしいよね。男子、女子ぃ~って」
二人してケラケラ笑ったあと、香澄は高校時代に一応付き合った事になっている男の子を思い出す。
「高橋くん、懐かしいなぁ。告白されて、麻衣と斎藤くんと四人で遊園地行ったり、図書館デートしたよね。その節は付き合わせてしまってすみませんでした」
「いやいや、私も楽しかったから別にいいんだよ。香澄と高橋が付き合っている以上、私と斎藤がペアっていう感じになるけど、二人して食べ物と部活の話ばっかりしてたわ」
「あはは、二人ともバレー部だったもんね」
「そうそう。顧問の悪口言ったりして。高橋はいま大阪だっけ。結婚してるってね」
「ふーん、幸せそうでなにより」
ようやくタラバガニを片付けたあとは、石焼きステーキが運ばれてきて、二人でテンションを上げた。
しばしジュージューと肉を焼きながら、香澄はついでのノリで健二の事を打ち明けた。
「そうだ。私、東京で健二くんに会っちゃったんだよね」
「え? 原西? 大学時代に香澄と付き合ってた?」
「そうそう」
頷いてから、香澄は皿の上にのせておいた焼けた肉をタレにつけて食べる。
「ちょっと暗い話をしていい?」
「いいよ」
麻衣はしっかりと頷く。
「なんか、食事中にごめんね。しかもクライマックスのお肉の時に……」
「気にしないで。東京に行った香澄が休み期間でもないのに戻って来て、しばらくこっちにいるって言った時点で、何かあったんだなって分かってた。この温泉旅行でしっかりじっくり聞くつもりでいたから、いつ話してもいいんだよ」
「うん……」
熱された石の上に野菜を置き、香澄は少し間を置く。
それからカシスオレンジを一口飲んで話し始めた。
「私、健二くんと付き合っていたけど、初体験はほぼレイプだった」
ある程度の覚悟はしていただろうが、麻衣の表情が僅かに変わる。
香澄がずっと忘れていた事を思いだした出来事を語る間、麻衣は肉と野菜を食べ、ビールを飲む。
「……結局、佑さんはこんな思い女を受け入れてくれて、感謝しかないよ」
無理矢理笑い、香澄は「冷めちゃった」と焼いた肉を頬張る。
麻衣はしばしビールを飲んでいたが、溜め息をついてから口を開いた。
「私、おかしいとは思っていたんだよね。大学二年生の秋から、香澄はあきらかにおかしくなった。何かを必死に隠そうとして、凄く無理をしていた。無理している自分すらも認めたくないように、一生懸命〝普通〟の振る舞いをしていた。今だから言っちゃうけど、当時は結構痛々しかったよ」
「ん……」
モグモグと口を動かしながら、香澄は頷く。
「今度私も店舗に行ってみようかな? 大角に入ってるんだって?」
「うん! ぜひぜひ! 麻衣ともお揃いになりたい」
大好きな物はシェアしたいタチの香澄が頷くと、麻衣はくすぐったそうな顔でこちらを見る。
「ん? なぁに?」
カニスプーンでほじった身をぱくっと食べて目を瞬かせると、ビール飲んだ麻衣が破顔する。
「香澄のこの無邪気な感じ、懐かしいなぁって」
「え? 無邪気? いやいや。私けっこうゲスな事も考えるし」
香澄は手にカニスプーンを持ったまま、顔の前で手をパタパタ振る。
「いやいや、私の職場の同僚と比べると、本当にきよらかーな感じがするよ。うちの同僚は泥水みたいな感じだわ」
ケタケタと笑う麻衣につられて笑いながらも、香澄は照れくさそうに首を横に振る。
「私の同僚だったら、女子力上げるためのアイテムとかの情報、まず共有しないね。他にもセンスのいい人を、真似しまくって嫌がられる人もいるな」
「あー……、真似っ子ね……」
不意に高校時代に、友人から「真似されている」と相談をされた事があったのを思いだした。
友人が可愛いと思ってアクセサリーなどを買うと、「どこで買ったの?」と聞いたあと同じ物を買うのだと言う。
おまけに先に買った友人をさしおいて、自分がさもファッションリーダーのように振る舞うらしい。
さらに最悪なのは、真似てきたほうが可愛いので、始末に負えないのだとか。
「香澄は昔から周りが色々悩んでいても、我関せずっていう感じだったもんね。香澄の事が好きだっていう男子がいても、香澄は浮き足だったりしないでマイペースを貫いてた印象がある」
「んふふ、男子って言い方懐かしい」
「それ! 懐かしいよね。男子、女子ぃ~って」
二人してケラケラ笑ったあと、香澄は高校時代に一応付き合った事になっている男の子を思い出す。
「高橋くん、懐かしいなぁ。告白されて、麻衣と斎藤くんと四人で遊園地行ったり、図書館デートしたよね。その節は付き合わせてしまってすみませんでした」
「いやいや、私も楽しかったから別にいいんだよ。香澄と高橋が付き合っている以上、私と斎藤がペアっていう感じになるけど、二人して食べ物と部活の話ばっかりしてたわ」
「あはは、二人ともバレー部だったもんね」
「そうそう。顧問の悪口言ったりして。高橋はいま大阪だっけ。結婚してるってね」
「ふーん、幸せそうでなにより」
ようやくタラバガニを片付けたあとは、石焼きステーキが運ばれてきて、二人でテンションを上げた。
しばしジュージューと肉を焼きながら、香澄はついでのノリで健二の事を打ち明けた。
「そうだ。私、東京で健二くんに会っちゃったんだよね」
「え? 原西? 大学時代に香澄と付き合ってた?」
「そうそう」
頷いてから、香澄は皿の上にのせておいた焼けた肉をタレにつけて食べる。
「ちょっと暗い話をしていい?」
「いいよ」
麻衣はしっかりと頷く。
「なんか、食事中にごめんね。しかもクライマックスのお肉の時に……」
「気にしないで。東京に行った香澄が休み期間でもないのに戻って来て、しばらくこっちにいるって言った時点で、何かあったんだなって分かってた。この温泉旅行でしっかりじっくり聞くつもりでいたから、いつ話してもいいんだよ」
「うん……」
熱された石の上に野菜を置き、香澄は少し間を置く。
それからカシスオレンジを一口飲んで話し始めた。
「私、健二くんと付き合っていたけど、初体験はほぼレイプだった」
ある程度の覚悟はしていただろうが、麻衣の表情が僅かに変わる。
香澄がずっと忘れていた事を思いだした出来事を語る間、麻衣は肉と野菜を食べ、ビールを飲む。
「……結局、佑さんはこんな思い女を受け入れてくれて、感謝しかないよ」
無理矢理笑い、香澄は「冷めちゃった」と焼いた肉を頬張る。
麻衣はしばしビールを飲んでいたが、溜め息をついてから口を開いた。
「私、おかしいとは思っていたんだよね。大学二年生の秋から、香澄はあきらかにおかしくなった。何かを必死に隠そうとして、凄く無理をしていた。無理している自分すらも認めたくないように、一生懸命〝普通〟の振る舞いをしていた。今だから言っちゃうけど、当時は結構痛々しかったよ」
「ん……」
モグモグと口を動かしながら、香澄は頷く。
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