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第十部・ニセコ 編
バッシングされた元恋人
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結局、それが佑にとって〝付き合った〟最後の相手になった。
別れる時はちょっとした修羅場になった。
希美の言い分は「寂しかったの! 嫉妬してもっと私を好きになってくれると思ったの!」との事だった。
確かにそれが有効な相手はいるかもしれないが、佑は試されるような真似をされると、スッと冷めるタチだった。
お互い合わなかったんだと何時間もかけて説明しても、希美は泣き叫び聞き入れてくれない。
おまけにマンションから飛び降りると言うものだから、外に待たせてあった護衛を呼んで取り押さえてもらう始末だ。
とにかく浮気されたからには付き合えないし、自分も希美が求める男の基準に満たなかったと説明したあと、佑は目の前で希美の連絡先を削除し、もう二度と連絡をしないと告げた。
そのあとの事は、特に関知していない。
仕事では彼女を起用しないようにしたが、私怨から他の経営者に希美の事を話す真似はしなかった。
道は分かたれ、自分は自分の人生をまた一人で歩む。
澪は希美の事を知っていたようで、「あの女大嫌いだった」と毒を吐いていた。
妹が女性に対して辛辣なのはいつもの事なので、特に気にしない。
希美と付き合っていた時、週刊誌に熱愛報道をすっぱ抜かれたが、今度は破局を報じられてほんの少し事情釈明をする羽目になった。
そのあとも、恋人はもういいと言っておきながら、もしかしたら……と心のどこかで期待していたが、しばらくは仕事一筋になると決めたのだった。
独身経営者の仲間に教えられ、秘密を守ってくれる高級デリヘルの連絡先を得た時期もあった。
しばらくそこに在籍する女性に、都内にある自宅とは別のマンションに来てもらっていたが、やがてそれも空しくなりやめた。
三十路になり、仕事をバリバリこなしストレスはトレーニングで発散して、性欲はどこかに隠れたように思えた。
アンネはそんな佑を心配し、その頃から頻繁にお見合いの話を持ってくるようになってきた。
しかし佑は乗り気にならず、のらりくらりと躱して二年が経ち、香澄と出会った流れになる。
**
現在、そんな事を思いだし暗い気持ちになりながら、佑は出雲が待つ焼き肉屋の個室に戻った。
「遅かったな」
掘りごたつの席に座ってスマホを見ていた出雲が、スリープにしてテーブルに置く。
(そういえばあの時も出雲が関わっていたっけ)
思い出しながら、佑は盛大な溜め息をつく。
「希美に会った」
「はぁ?」
佑の報告に出雲は声を上げ、気の毒そうな顔をする。
それから頭を掻き、ぼやくように言った。
「あの子、情緒不安定で有名なんだよ。佑は知らなかったのか?」
「別れて以来、彼女と鉢合わせないよう秘書に調整してもらっていたから、情報なども何も知らないな。……まぁ、情緒不安定になる素質は持っていそうだったけど」
溜め息をついた佑は、気まずい思いでいっぱいだ。
あのようになってしまった彼女を見ると、まるでこちらが手ひどく振ったような罪悪感を覚える。
(こっちこそ浮気された側なのに)
心の中で毒づくも、もう未練はまったくない。
「いまだに彼女は俺の事を何か言っているか?」
出雲に尋ねると、彼は気まずそうな顔で頷く。
「『今も佑さんが好き。忘れられない』とは言い続けているみたいだ。結局あの浮気、誰かによってリークされて週刊誌で大々的に報じられて、一躍彼女は〝悪者〟になった。御劔佑ファンも敵に回したから、世間では相当酷い立場にあるんじゃないか?」
その辺りは、佑はなるべく目にしないように心がけている。
会社の評判にも繋がるので、自分が関わる記事が出る時は確認している。
しかしもうすでに別れた女性で、彼女の側に非がある事については、これ以上どうしようもない。
たまにいまだに希美との事を記事にしたがっている記者が、しつこく感想を聞こうとしてくるが、護衛に頼んで近寄らせないようにしている。
ただでさえ多忙なのに、記者を相手にしていられない。
なおかつ、今は香澄という婚約者ができて、新たに大きな〝話題〟ができようとしているのに、余計な事に気を回せない。
別れる時はちょっとした修羅場になった。
希美の言い分は「寂しかったの! 嫉妬してもっと私を好きになってくれると思ったの!」との事だった。
確かにそれが有効な相手はいるかもしれないが、佑は試されるような真似をされると、スッと冷めるタチだった。
お互い合わなかったんだと何時間もかけて説明しても、希美は泣き叫び聞き入れてくれない。
おまけにマンションから飛び降りると言うものだから、外に待たせてあった護衛を呼んで取り押さえてもらう始末だ。
とにかく浮気されたからには付き合えないし、自分も希美が求める男の基準に満たなかったと説明したあと、佑は目の前で希美の連絡先を削除し、もう二度と連絡をしないと告げた。
そのあとの事は、特に関知していない。
仕事では彼女を起用しないようにしたが、私怨から他の経営者に希美の事を話す真似はしなかった。
道は分かたれ、自分は自分の人生をまた一人で歩む。
澪は希美の事を知っていたようで、「あの女大嫌いだった」と毒を吐いていた。
妹が女性に対して辛辣なのはいつもの事なので、特に気にしない。
希美と付き合っていた時、週刊誌に熱愛報道をすっぱ抜かれたが、今度は破局を報じられてほんの少し事情釈明をする羽目になった。
そのあとも、恋人はもういいと言っておきながら、もしかしたら……と心のどこかで期待していたが、しばらくは仕事一筋になると決めたのだった。
独身経営者の仲間に教えられ、秘密を守ってくれる高級デリヘルの連絡先を得た時期もあった。
しばらくそこに在籍する女性に、都内にある自宅とは別のマンションに来てもらっていたが、やがてそれも空しくなりやめた。
三十路になり、仕事をバリバリこなしストレスはトレーニングで発散して、性欲はどこかに隠れたように思えた。
アンネはそんな佑を心配し、その頃から頻繁にお見合いの話を持ってくるようになってきた。
しかし佑は乗り気にならず、のらりくらりと躱して二年が経ち、香澄と出会った流れになる。
**
現在、そんな事を思いだし暗い気持ちになりながら、佑は出雲が待つ焼き肉屋の個室に戻った。
「遅かったな」
掘りごたつの席に座ってスマホを見ていた出雲が、スリープにしてテーブルに置く。
(そういえばあの時も出雲が関わっていたっけ)
思い出しながら、佑は盛大な溜め息をつく。
「希美に会った」
「はぁ?」
佑の報告に出雲は声を上げ、気の毒そうな顔をする。
それから頭を掻き、ぼやくように言った。
「あの子、情緒不安定で有名なんだよ。佑は知らなかったのか?」
「別れて以来、彼女と鉢合わせないよう秘書に調整してもらっていたから、情報なども何も知らないな。……まぁ、情緒不安定になる素質は持っていそうだったけど」
溜め息をついた佑は、気まずい思いでいっぱいだ。
あのようになってしまった彼女を見ると、まるでこちらが手ひどく振ったような罪悪感を覚える。
(こっちこそ浮気された側なのに)
心の中で毒づくも、もう未練はまったくない。
「いまだに彼女は俺の事を何か言っているか?」
出雲に尋ねると、彼は気まずそうな顔で頷く。
「『今も佑さんが好き。忘れられない』とは言い続けているみたいだ。結局あの浮気、誰かによってリークされて週刊誌で大々的に報じられて、一躍彼女は〝悪者〟になった。御劔佑ファンも敵に回したから、世間では相当酷い立場にあるんじゃないか?」
その辺りは、佑はなるべく目にしないように心がけている。
会社の評判にも繋がるので、自分が関わる記事が出る時は確認している。
しかしもうすでに別れた女性で、彼女の側に非がある事については、これ以上どうしようもない。
たまにいまだに希美との事を記事にしたがっている記者が、しつこく感想を聞こうとしてくるが、護衛に頼んで近寄らせないようにしている。
ただでさえ多忙なのに、記者を相手にしていられない。
なおかつ、今は香澄という婚約者ができて、新たに大きな〝話題〟ができようとしているのに、余計な事に気を回せない。
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