538 / 1,548
第十部・ニセコ 編
恋愛と結婚
しおりを挟む
「正直……働かなくてもいいよな、とは思う。別に彼女の生きがいを奪いたい訳じゃない。それでもChief Everyの社長である俺の妻になり、クラウザー家関係でも苦労する事を考えると、それ以外の労働で疲れなくてもいいよなと思ってしまうんだ」
ポツリと本音を呟くと、出雲はジョッキを空にしてから頷く。
「それはあるよな。俺たちレベルの企業の妻なら、どこかに就労して稼ぐ個人の責任よりも、社長夫人としての責任の方が重くなる。美鈴は役員としての意見は言うが、家庭で仕事の話をして余計に突っ込む事はしない。逆に会社で美鈴がいると『やりやすい』という声は聞いている。竹を割ったような性格をしているし、役員のおっさん達とも仲がいいし、社員たちにも気さくに声を掛ける。だから現場の声が届きやすいって言われてるよ。我が妻ながらできた女だよ」
佑自身も付き合いのある美鈴を思い出し、彼女なら……と思って納得する。
そして〝強い女〟である美鈴とは正反対とも言える香澄を思い出し、彼女なら今後どうなっていくのだろう、と考えた。
「……香澄はそこまで考えられているかな。プレッシャーを与えたくないから、あえて言ってないとも言えるが」
「香澄ちゃん、まじめそうだから秘書もして社長夫人としての役目も果たして……ってなったら、いつかパンクしそうだな。今も何かしらの限界を感じて、プチ家出してるんだろ?」
出雲に面白そうな目を向けられ、佑は視線を外し新しい肉を網に置く。
「プチ家出って言うな」
「じゃあ、距離を置かれた」
「やめろ」
「倦怠期」
「殴るぞ?」
溜め息まじりに言い、佑は網にくっついた肉の端っこを何とはなしにトングでつつく。
「香澄とは何もかもうまくいっている、……はずなんだ。俺は香澄のすべてを愛してるし、香澄だって俺を愛してくれている……はずだ」
どうしてこう、力のない言葉しか出てこないのか。
我ながら嫌になって、トングを置くと両手で頭を抱える。
「……お前本当に弱ってるなぁ。以前ならクソ忙しい時だって、ギンギンした感じでガーッと飲んで喰って、翌日また働いてたのに」
「こんなに女に入れ込んだの、初めてなんだ」
香澄が聞いたら真っ赤になるだろう事をサラリと言い、佑は肉をひっくり返す。
「だろうなぁ。美智瑠ちゃんの時だって、こんな悩む姿見なかったし」
昔の女の名前を出され、佑は少し苦々しい気持ちになる。
美智瑠と別れたのは、自分のオーバーワークや彼女を思いやれなかった事が原因だ。
今回の香澄の事だって佑の過保護がきっかけになった。
相手が変わっても、佑が原因で女性を離れさせてしまうのは変わらない。
焼けていく肉を見守りながら、佑は溜め息をつく。
「……俺、割とこう……その気になったら相手に困らない、好条件の男だとちょっと思ってたんだ」
自惚れた言葉を、出雲は肯定する。
「その通りだと思うけど? 性格もいいし、ヤバイ性癖持ってる訳でもない……と思いたいし」
からかう出雲を軽く睨み、佑はあまり興味がなさそうに焼けた肉を皿の上に置いた。
「そう思って自惚れていたからこそ、美智瑠に愛想を尽かされてかなりキたんだ。その後はあまり真面目じゃない女づきあいをして、自分でも嫌になって賢者タイムになった。『このまま誰とも結婚できないのかな』と思っていたら、香澄に会えた」
「で、その香澄ちゃんともこうなって、またキてるって?」
佑は肯定する代わりに無言でハイボールを飲んだ。
はぁ……っ、と乱暴な息をついたあと、髪を掻き上げつつ頭を抱える。
「香澄じゃないと駄目なんだ。彼女を失ったら絶対どこかおかしくなる。だから最大限譲歩して大切にしようとしているのに……、香澄が遠い」
思い詰めた佑を、出雲は憐憫の目で見る。
そして彼なりの励まし方をした。
「お前がやっと身を固めようと思ったのは嬉しい。でもその愛し方だと、まだまだ〝恋愛〟で、落ち着いた〝結婚〟の域にはなってないなって思うよ。いやぁ、若い若い。今のうちに恋愛を楽しんでおけよ」
達観した物言いをする出雲を、佑は指の隙間から恨めしそうに睨む。
「……人が苦しんでるのに……」
「相手が好きすぎてつらいなんてのも、恋愛の醍醐味だろ? ま、結婚したらしたで、俺は美鈴が浮気しないかビクビクしてるけどな。あいつ美人だし魅力的だし、そこらの男ならコロッといくぞ」
いきなり出雲ののろけが始まり、佑はまた溜め息をつく。
「結婚しても心配は尽きないんだな。俺も同じ悩みを持ちそうだ」
それに出雲はどこか楽しそうに同意した。
ポツリと本音を呟くと、出雲はジョッキを空にしてから頷く。
「それはあるよな。俺たちレベルの企業の妻なら、どこかに就労して稼ぐ個人の責任よりも、社長夫人としての責任の方が重くなる。美鈴は役員としての意見は言うが、家庭で仕事の話をして余計に突っ込む事はしない。逆に会社で美鈴がいると『やりやすい』という声は聞いている。竹を割ったような性格をしているし、役員のおっさん達とも仲がいいし、社員たちにも気さくに声を掛ける。だから現場の声が届きやすいって言われてるよ。我が妻ながらできた女だよ」
佑自身も付き合いのある美鈴を思い出し、彼女なら……と思って納得する。
そして〝強い女〟である美鈴とは正反対とも言える香澄を思い出し、彼女なら今後どうなっていくのだろう、と考えた。
「……香澄はそこまで考えられているかな。プレッシャーを与えたくないから、あえて言ってないとも言えるが」
「香澄ちゃん、まじめそうだから秘書もして社長夫人としての役目も果たして……ってなったら、いつかパンクしそうだな。今も何かしらの限界を感じて、プチ家出してるんだろ?」
出雲に面白そうな目を向けられ、佑は視線を外し新しい肉を網に置く。
「プチ家出って言うな」
「じゃあ、距離を置かれた」
「やめろ」
「倦怠期」
「殴るぞ?」
溜め息まじりに言い、佑は網にくっついた肉の端っこを何とはなしにトングでつつく。
「香澄とは何もかもうまくいっている、……はずなんだ。俺は香澄のすべてを愛してるし、香澄だって俺を愛してくれている……はずだ」
どうしてこう、力のない言葉しか出てこないのか。
我ながら嫌になって、トングを置くと両手で頭を抱える。
「……お前本当に弱ってるなぁ。以前ならクソ忙しい時だって、ギンギンした感じでガーッと飲んで喰って、翌日また働いてたのに」
「こんなに女に入れ込んだの、初めてなんだ」
香澄が聞いたら真っ赤になるだろう事をサラリと言い、佑は肉をひっくり返す。
「だろうなぁ。美智瑠ちゃんの時だって、こんな悩む姿見なかったし」
昔の女の名前を出され、佑は少し苦々しい気持ちになる。
美智瑠と別れたのは、自分のオーバーワークや彼女を思いやれなかった事が原因だ。
今回の香澄の事だって佑の過保護がきっかけになった。
相手が変わっても、佑が原因で女性を離れさせてしまうのは変わらない。
焼けていく肉を見守りながら、佑は溜め息をつく。
「……俺、割とこう……その気になったら相手に困らない、好条件の男だとちょっと思ってたんだ」
自惚れた言葉を、出雲は肯定する。
「その通りだと思うけど? 性格もいいし、ヤバイ性癖持ってる訳でもない……と思いたいし」
からかう出雲を軽く睨み、佑はあまり興味がなさそうに焼けた肉を皿の上に置いた。
「そう思って自惚れていたからこそ、美智瑠に愛想を尽かされてかなりキたんだ。その後はあまり真面目じゃない女づきあいをして、自分でも嫌になって賢者タイムになった。『このまま誰とも結婚できないのかな』と思っていたら、香澄に会えた」
「で、その香澄ちゃんともこうなって、またキてるって?」
佑は肯定する代わりに無言でハイボールを飲んだ。
はぁ……っ、と乱暴な息をついたあと、髪を掻き上げつつ頭を抱える。
「香澄じゃないと駄目なんだ。彼女を失ったら絶対どこかおかしくなる。だから最大限譲歩して大切にしようとしているのに……、香澄が遠い」
思い詰めた佑を、出雲は憐憫の目で見る。
そして彼なりの励まし方をした。
「お前がやっと身を固めようと思ったのは嬉しい。でもその愛し方だと、まだまだ〝恋愛〟で、落ち着いた〝結婚〟の域にはなってないなって思うよ。いやぁ、若い若い。今のうちに恋愛を楽しんでおけよ」
達観した物言いをする出雲を、佑は指の隙間から恨めしそうに睨む。
「……人が苦しんでるのに……」
「相手が好きすぎてつらいなんてのも、恋愛の醍醐味だろ? ま、結婚したらしたで、俺は美鈴が浮気しないかビクビクしてるけどな。あいつ美人だし魅力的だし、そこらの男ならコロッといくぞ」
いきなり出雲ののろけが始まり、佑はまた溜め息をつく。
「結婚しても心配は尽きないんだな。俺も同じ悩みを持ちそうだ」
それに出雲はどこか楽しそうに同意した。
31
お気に入りに追加
2,541
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる