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第十部・ニセコ 編
それは無理じゃない?
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「それでランニングする時、スパッツにハーフパンツ穿くでしょ? 脚の形が格好良くて、それも見とれちゃうの。屋内で筋トレする時も、汗掻いて真剣に鍛える姿とか……。あああああ、もおおおお……!!」
クッションを抱き締めて、香澄はゴロゴロと転げ回る。
東京ではこれがしたくて誰にもできなかった。
「よしよし。惚れてるねぇ」
麻衣は生暖かい顔で見守ってくれ、それがありがたい。
「東京で誰にものろけられなかったんだもん! ほんっとうに佑さん格好いいの! 私ね、世界中の誰よりもきっと一番近くで佑さんを見てるの。……幸せぇぇ……」
もだもだと体を揺すり、脚すらバタバタさせて香澄は言いたい事を言う。
「それだけ好きなら、明日にでも帰ったら?」
気を利かせただろう麻衣の優しい言葉に、香澄は悶えるのをピタッとやめ、天井を見上げる。
「……なんであんな格好いい人が、私を好きなんだろうね。夢の続きを見ているみたい」
「好きの理由なんて、どれだけ話されても理解できないんじゃない? 論文できるぐらい言葉を並べられても、香澄は納得しないでしょ? そこは御劔さんの気持ちを信じるしかないんだと思うよ」
「……信じる、か……」
ぽつ、と呟き、自分が彼の言葉、気持ちを信用していなかった事に、少しショックを受ける。
「どうしたら香澄は御劔さんを信じられる?」
「……自信を持ちたい。佑さんの側にいても、皆が『お似合いだね』って褒めてくれるような、完璧……は難しいかもしれないけど、ある程度周りが納得してくれる存在になりたい」
照明に向かって手をかざし、何とはなしに表裏をひっくり返す。
「それはー……。無理じゃない?」
否定され、香澄は彼女の方を見た。
「全員に好かれるって無理だよ。香澄がどれだけ努力しても、世の中には必ずアンチみたいな存在がいるの。香澄がとってもいい子でも、あんたの努力をバカにして、御劔さんには似合わない。別れろ。って言う人は絶対にいる」
「……そっか……」
納得が胸の奥に染み入っていく。
「何かさ、そういうのって法則があるじゃない。二割は熱烈な味方。六割は中庸で何も言わない傍観者。残る二割は悪意をぶつけてくる人。世の中いろんな人がいて、全員を納得させるなんてまず無理なんだよ」
「……うん。そうだね……」
その法則は香澄も知っていて、深く納得する。
「香澄が理想の自分に向かって邁進したいのは分かる。それはとてもいい心がけだと思うよ。あんたって完璧主義なところがあるし、私は尊敬する。でもね、ある程度のところで自分を適当に褒めて、緩めてあげないと、香澄はいつまで経っても自分にOKを出せないんじゃないかな?」
「自分が……ネック、か」
うすうすは分かっていたが、やはり自分自身の問題だった。
「香澄がどれだけ頑張ってもね、当の香澄が『沢山努力したんだから、これぐらいでいいよ。あなたはもう十分に釣り合う人になってるよ』って自分を許してあげないと、香澄はいつまで経ってもそのままじゃないかな」
――許してあげないと。
その言葉は、香澄の心の奥へ落ちてゆく。
一連の事で佑に「自分を許してあげて」と言ったが、その香澄が自分を許せていなかった。
いつの間にか自分をギリギリと締め上げ、完全無欠のスーパーウーマンになるまで鞭打っていくつもりだったかもしれない。
「……私、手の抜き方って分かんないや」
ぽつんと素の言葉を口にすると、麻衣が笑う。
「そうでしょ? 私も香澄を見てて、そうなんじゃないかな? ってずっと思ってた。でも性格的に、無責任な事はしたくないんでしょ?」
「うん。ちゃんとしてたい」
麻衣はソファから下りて床に座り、香澄の手を握る。
ふくふくした柔らかい手が気持ち良く、香澄は微笑んで麻衣の手を握り返した。
「香澄は今まで一生懸命走り続けてたんだと思う。札幌で働いてた時も仕事に一途だったし、東京に行っても環境に馴染むのに必死で、秘書の仕事も完璧にこなそうとして、ずっと気を張ってたでしょ? それこそ、札幌にいた頃は彼氏もできないぐらい」
最後にからかわれ、香澄も笑う。
「一か月……あー。もう一週間経ったか。残り四週間、自分を褒めて生活していったら?」
「褒める?」
きょと、として隣を見ると、麻衣が温かみのある笑顔をこちらに向けている。
クッションを抱き締めて、香澄はゴロゴロと転げ回る。
東京ではこれがしたくて誰にもできなかった。
「よしよし。惚れてるねぇ」
麻衣は生暖かい顔で見守ってくれ、それがありがたい。
「東京で誰にものろけられなかったんだもん! ほんっとうに佑さん格好いいの! 私ね、世界中の誰よりもきっと一番近くで佑さんを見てるの。……幸せぇぇ……」
もだもだと体を揺すり、脚すらバタバタさせて香澄は言いたい事を言う。
「それだけ好きなら、明日にでも帰ったら?」
気を利かせただろう麻衣の優しい言葉に、香澄は悶えるのをピタッとやめ、天井を見上げる。
「……なんであんな格好いい人が、私を好きなんだろうね。夢の続きを見ているみたい」
「好きの理由なんて、どれだけ話されても理解できないんじゃない? 論文できるぐらい言葉を並べられても、香澄は納得しないでしょ? そこは御劔さんの気持ちを信じるしかないんだと思うよ」
「……信じる、か……」
ぽつ、と呟き、自分が彼の言葉、気持ちを信用していなかった事に、少しショックを受ける。
「どうしたら香澄は御劔さんを信じられる?」
「……自信を持ちたい。佑さんの側にいても、皆が『お似合いだね』って褒めてくれるような、完璧……は難しいかもしれないけど、ある程度周りが納得してくれる存在になりたい」
照明に向かって手をかざし、何とはなしに表裏をひっくり返す。
「それはー……。無理じゃない?」
否定され、香澄は彼女の方を見た。
「全員に好かれるって無理だよ。香澄がどれだけ努力しても、世の中には必ずアンチみたいな存在がいるの。香澄がとってもいい子でも、あんたの努力をバカにして、御劔さんには似合わない。別れろ。って言う人は絶対にいる」
「……そっか……」
納得が胸の奥に染み入っていく。
「何かさ、そういうのって法則があるじゃない。二割は熱烈な味方。六割は中庸で何も言わない傍観者。残る二割は悪意をぶつけてくる人。世の中いろんな人がいて、全員を納得させるなんてまず無理なんだよ」
「……うん。そうだね……」
その法則は香澄も知っていて、深く納得する。
「香澄が理想の自分に向かって邁進したいのは分かる。それはとてもいい心がけだと思うよ。あんたって完璧主義なところがあるし、私は尊敬する。でもね、ある程度のところで自分を適当に褒めて、緩めてあげないと、香澄はいつまで経っても自分にOKを出せないんじゃないかな?」
「自分が……ネック、か」
うすうすは分かっていたが、やはり自分自身の問題だった。
「香澄がどれだけ頑張ってもね、当の香澄が『沢山努力したんだから、これぐらいでいいよ。あなたはもう十分に釣り合う人になってるよ』って自分を許してあげないと、香澄はいつまで経ってもそのままじゃないかな」
――許してあげないと。
その言葉は、香澄の心の奥へ落ちてゆく。
一連の事で佑に「自分を許してあげて」と言ったが、その香澄が自分を許せていなかった。
いつの間にか自分をギリギリと締め上げ、完全無欠のスーパーウーマンになるまで鞭打っていくつもりだったかもしれない。
「……私、手の抜き方って分かんないや」
ぽつんと素の言葉を口にすると、麻衣が笑う。
「そうでしょ? 私も香澄を見てて、そうなんじゃないかな? ってずっと思ってた。でも性格的に、無責任な事はしたくないんでしょ?」
「うん。ちゃんとしてたい」
麻衣はソファから下りて床に座り、香澄の手を握る。
ふくふくした柔らかい手が気持ち良く、香澄は微笑んで麻衣の手を握り返した。
「香澄は今まで一生懸命走り続けてたんだと思う。札幌で働いてた時も仕事に一途だったし、東京に行っても環境に馴染むのに必死で、秘書の仕事も完璧にこなそうとして、ずっと気を張ってたでしょ? それこそ、札幌にいた頃は彼氏もできないぐらい」
最後にからかわれ、香澄も笑う。
「一か月……あー。もう一週間経ったか。残り四週間、自分を褒めて生活していったら?」
「褒める?」
きょと、として隣を見ると、麻衣が温かみのある笑顔をこちらに向けている。
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