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第十部・ニセコ 編
ラーメン
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結果的にその本は、何度も重版して二百万部超えという恐ろしい数字を叩き出した。
そうなったのは、自らメディアに顔を出し知名度のある佑が、テレビ番組などでも宣伝した効果もある。
実際にテレビ番組でも特集され、一時は世を賑わせた本になった。
その効果が自分の親友にまで及んでいたとなると、香澄は嬉しくて堪らない。
「最初は本に書いてある通りのアイテムを、Chief Everyに行って買ってみた訳。髪型についてのアドバイスもあったから、本当に全部お手本をなぞっただけ。それでも友達と遊んだ時に褒められてさ。……嬉しかったなぁ」
「……うん、分かるよ」
にっこり微笑み、香澄は頷く。
自分も札幌にいた頃はジーパンにパーカーなど、カジュアルなアイテムだけで過ごしていた。
だが佑と一緒に過ごすようになり、積極的にスカートやワンピースを着て、様々なアイテムの組み合わせを楽しむようになっていった。
外見を褒められた時は、冴えない自分にパッとスポットライトが当たった気分にすらなった。
「今まではサイズが合えばいいやって思ってたけど、勇気を出してみるもんだね。そしたら自分に自信がついてね、顔つきも変わったって言われたよ」
「そう! 私も最初顔を見た時に思ったの。すっごい明るい印象になって、『可愛い!』って思った」
香澄が力説すると、麻衣はケラケラ笑う。
「ありがと。そんなこんなで、私も御劔社長には恩を感じてるんだ」
「伝えておくね。あ、そこ左」
車は北一条・宮の沢通りを通り、Vの字になった坂道の一番低い場所にあるラーメン屋に入った。
『ノボリミチ』というラーメン屋は、香澄が以前にもよく来ていた気に入りの店だ。
カウンター席しかないこぢんまりとした店で、メニューもそれほど多くない。
だが濃厚鯛出汁ラーメンがとても美味しく、一時通い詰めた。
その味が懐かしくなり、ここに来たいと思ったのだ。
「入ろう! ラーメン、ラーメン」
香澄はウキウキとして先に店に入り、「二人です」と店主に告げた。
麻衣と二人でカウンターに座り、メニューを覗き込む。
「私、濃厚鯛出汁ラーメンお願いします」
迷わず香澄は決め、麻衣も「私も同じのお願いします」とオーダーした。
「嬉しそうだね。やっぱり御劔さんと一緒だと、気軽にラーメン屋とか入れなかった?」
「んー……、そうだね。近所のお店とかは普通に行くけど、食べ終わる頃にはお店にいる人から注目浴びちゃって、のんびりしてられない感じかな。だから佑さんは個室のある所が安心するみたい」
「香澄、ラーメン好きなのにね」
「うん、だからラーメン食べたい時は出前とかかな。佑さんが付き合えない時は、護衛の人と一緒に行くとか」
「ほー……。護衛……」
「いや、いやいや……。あのね、……うん、色々あったの」
慌てて胸の前で手を振り、香澄は苦笑いする。
「うんうん、それは今晩ゆっくり聞くよ。まさか御劔社長と一緒にいて、何も事件がないなんてあり得ないし」
「ん……」
香澄はエミリアとマティアスに関わる一連の事を、麻衣に話すつもりだった。
幾ら佑が側にいてくれてすべてケアをし、専門家を呼んでくれても、すべてが癒える訳ではない。
親にも話せない事なので、親友にすべてを話し「大変だったね」と一言共感してもらうだけで、ずっと気持ちが楽になるような気がした。
勿論、麻衣が自分を大切に想ってくれているのは分かっているので、彼女に嫌な話を聞かせてしまう申し訳なさはあるのだが。
「せっかくこっち戻って来たんだから、甘やかしてあげる。他にも行きたい所あるなら、寄れる所だったら行くよ?」
「じゃあ、『マザーズファーム』のソフトクリーム食べたい」
「あはは、あそこ美味しいよね。分かった。ついでに何かスイーツも買って、今晩のデザートにしちゃおうか」
「うんっ。なんなら何個か食べちゃう。悪い事するもんね」
地元に戻って開放的になり、香澄は札幌の味を堪能するつもりでいた。
そのあと濃厚鯛出汁ラーメンが出てきて、とろりとした濃厚スープながら鯛出汁のあっさりとした味わいに、二人して舌鼓を打った。
最後に上に乗っていたレモンの切れ端を食べると、酸っぱさと一緒に爽快感が口内を満たす。
「ダメだ。やめられない」
そんな事をいいつつスープもある程度楽しみ、食べたかったラーメンをコンプリートして満足した。
そうなったのは、自らメディアに顔を出し知名度のある佑が、テレビ番組などでも宣伝した効果もある。
実際にテレビ番組でも特集され、一時は世を賑わせた本になった。
その効果が自分の親友にまで及んでいたとなると、香澄は嬉しくて堪らない。
「最初は本に書いてある通りのアイテムを、Chief Everyに行って買ってみた訳。髪型についてのアドバイスもあったから、本当に全部お手本をなぞっただけ。それでも友達と遊んだ時に褒められてさ。……嬉しかったなぁ」
「……うん、分かるよ」
にっこり微笑み、香澄は頷く。
自分も札幌にいた頃はジーパンにパーカーなど、カジュアルなアイテムだけで過ごしていた。
だが佑と一緒に過ごすようになり、積極的にスカートやワンピースを着て、様々なアイテムの組み合わせを楽しむようになっていった。
外見を褒められた時は、冴えない自分にパッとスポットライトが当たった気分にすらなった。
「今まではサイズが合えばいいやって思ってたけど、勇気を出してみるもんだね。そしたら自分に自信がついてね、顔つきも変わったって言われたよ」
「そう! 私も最初顔を見た時に思ったの。すっごい明るい印象になって、『可愛い!』って思った」
香澄が力説すると、麻衣はケラケラ笑う。
「ありがと。そんなこんなで、私も御劔社長には恩を感じてるんだ」
「伝えておくね。あ、そこ左」
車は北一条・宮の沢通りを通り、Vの字になった坂道の一番低い場所にあるラーメン屋に入った。
『ノボリミチ』というラーメン屋は、香澄が以前にもよく来ていた気に入りの店だ。
カウンター席しかないこぢんまりとした店で、メニューもそれほど多くない。
だが濃厚鯛出汁ラーメンがとても美味しく、一時通い詰めた。
その味が懐かしくなり、ここに来たいと思ったのだ。
「入ろう! ラーメン、ラーメン」
香澄はウキウキとして先に店に入り、「二人です」と店主に告げた。
麻衣と二人でカウンターに座り、メニューを覗き込む。
「私、濃厚鯛出汁ラーメンお願いします」
迷わず香澄は決め、麻衣も「私も同じのお願いします」とオーダーした。
「嬉しそうだね。やっぱり御劔さんと一緒だと、気軽にラーメン屋とか入れなかった?」
「んー……、そうだね。近所のお店とかは普通に行くけど、食べ終わる頃にはお店にいる人から注目浴びちゃって、のんびりしてられない感じかな。だから佑さんは個室のある所が安心するみたい」
「香澄、ラーメン好きなのにね」
「うん、だからラーメン食べたい時は出前とかかな。佑さんが付き合えない時は、護衛の人と一緒に行くとか」
「ほー……。護衛……」
「いや、いやいや……。あのね、……うん、色々あったの」
慌てて胸の前で手を振り、香澄は苦笑いする。
「うんうん、それは今晩ゆっくり聞くよ。まさか御劔社長と一緒にいて、何も事件がないなんてあり得ないし」
「ん……」
香澄はエミリアとマティアスに関わる一連の事を、麻衣に話すつもりだった。
幾ら佑が側にいてくれてすべてケアをし、専門家を呼んでくれても、すべてが癒える訳ではない。
親にも話せない事なので、親友にすべてを話し「大変だったね」と一言共感してもらうだけで、ずっと気持ちが楽になるような気がした。
勿論、麻衣が自分を大切に想ってくれているのは分かっているので、彼女に嫌な話を聞かせてしまう申し訳なさはあるのだが。
「せっかくこっち戻って来たんだから、甘やかしてあげる。他にも行きたい所あるなら、寄れる所だったら行くよ?」
「じゃあ、『マザーズファーム』のソフトクリーム食べたい」
「あはは、あそこ美味しいよね。分かった。ついでに何かスイーツも買って、今晩のデザートにしちゃおうか」
「うんっ。なんなら何個か食べちゃう。悪い事するもんね」
地元に戻って開放的になり、香澄は札幌の味を堪能するつもりでいた。
そのあと濃厚鯛出汁ラーメンが出てきて、とろりとした濃厚スープながら鯛出汁のあっさりとした味わいに、二人して舌鼓を打った。
最後に上に乗っていたレモンの切れ端を食べると、酸っぱさと一緒に爽快感が口内を満たす。
「ダメだ。やめられない」
そんな事をいいつつスープもある程度楽しみ、食べたかったラーメンをコンプリートして満足した。
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