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第十部・ニセコ 編
リフレッシュ
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『佑から言われてるかもしれないけど、生活のためにとか稼がないととか、そういうのは要らないからね? 金銭的に困っている訳じゃないし、結局は香澄さんの自己満足のために働いてるんでしょ?』
自己満足と言われ、思わず苦笑する。
「……そう、ですね。……自己満足です」
『あ、いや、ごめん。そう言いたかった訳じゃなくて』
「いえ、分かっているんです。澪さんの言う通り、生活にはまったく困っていません。佑さんは私の身の安全を一番に考えて、苦労をせずいつもニコニコして、自分を癒やしてくれる存在であってほしいと思っているって……。分かっています」
電話の向こうで、澪は気まずく黙っている。
「私が意地を張って、『きちんと立派に働いて、佑さんに似合う女性にならないと』って思っているから働いている。……それは、ただの自己満足です。彼は本当は、私が働くのを望んでいないかもしれないのに」
『うーん……。いや、女性に家にいろっていうのは、ちょっと前時代的かもしれないけど』
「いいえ。今は多様性って言われていますよね。女性には家庭にいてほしいと思う男性だって、認められていいと思います。それは個人のあり方。それで、考え方が合う者同士、くっついたら何も問題ありません」
『……そうだね』
正論を言われて言い返せず、澪は息をつく。
「私は……、ただ、怖いんです。佑さんはあらゆるものを手にしている。一方で私は本当に普通なんです。ゲームで言ったらレベル百を超えている伝説の勇者みたいな佑さんの隣に、レベル三ぐらいのまだ何者でもない私がいます。……あぁ、そっか。負けたくないのかな」
自分の言葉に納得し、香澄は小さく笑う。
「これでも負けず嫌いで頑固なんです。大好きな人に、少しでも尊敬してもらえる人でいたいって思ってしまいます」
『んー、それは分からないでもない。何もかも佑に任せっきりで、あり得ないけれどいつか愛が冷めたら捨てられるかも……って心配すると、いつ何があってもいいように何かできる人でありたいよね。その怖さは分かるよ。香澄さんは〝女〟として男に媚びて生きる人じゃない。社会的地位、金銭的には無理でも、どこかで対等でありたいと望む気持ちは分かる』
澪は香澄を励ますように笑った。
『小さな反抗、結構。うん、気持ちは分かった。香澄さんのやりたいようにすればいいよ』
「ありがとうございます」
『それで、距離を取った?』
いま北海道にいる話題に戻り、香澄は苦笑いをする。
「今……、ちょっと事情があって、私、少し弱っているんです。それを、いつも通り佑さんが守ってくれようとしています。……でもそれじゃあ、私はいつまで経っても〝守られる香澄〟のままだなって思うんです。別に佑さんに匹敵するほど強くなりたいとか、大きな目標を持っている訳じゃないんです。ただ、あまりに弱すぎるなって」
『ん……。弱っている時は無理しなくていいと思うけどね』
「ありがとうございます。……けど、なんだろう。うーん。……これを機会に鍛え直したいなって思っているんです。たまに生まれた土地でのんびり過ごして、初心に返るのもアリかな? って。……恵まれた環境だからできる事なんですけど」
自嘲気味に言うと、澪は『ううん』と言う。
『ゆっくりしなよ。佑の事はこっちで何とかして、様子も見ておく。香澄さんは東京の事は気にしないで、リフレッシュして』
「ありがとうございます」
そのあと、少し世間話をしてから電話を切った。
澪は気を遣ってくれ、北海道にいる間はこれ以上干渉しないと言ってくれる。
(皆気を遣ってくれて、その優しさに生かされてるなぁ)
感謝して、香澄は微笑んだ。
あっという間に週末になり、香澄はロングTシャツにロングスカート、ジージャンという格好で、麻衣と待ち合わせしている琴似(ことに)駅に来ていた。
駅前のロータリーに立っていると、周りの人から見られている気がするが、気のせいだろうか。
(そんな変な格好してるかな)
恥ずかしくて俯いていると、二人組の男性に声を掛けられた。
どちらも二十代前半ほどで、お洒落に気を遣ったいわゆる〝イケてる〟タイプの雰囲気がある。
「お姉さん、一人?」
「え? あ……。あの、人を待ってます」
二人組は挟むように香澄の左右に立ち、俯きがちな香澄の顔を覗き込んでくる。
「綺麗な髪してるねー。肌も真っ白でプルプルで、女優さんみたい」
いきなり無遠慮に髪を撫でられ、香澄は内心「ひえっ」と悲鳴を上げる。
肩をすくめて固まっていると、二人は余計調子に乗ったようだ。
「待ち合わせって女の子?」
「そ、そうですけど……」
「じゃあさ、丁度いいからダブルデートしない?」
「し、しません!」
こういう手合いは始めてなので、香澄もどうやって逃げたらいいのか分からない。
自己満足と言われ、思わず苦笑する。
「……そう、ですね。……自己満足です」
『あ、いや、ごめん。そう言いたかった訳じゃなくて』
「いえ、分かっているんです。澪さんの言う通り、生活にはまったく困っていません。佑さんは私の身の安全を一番に考えて、苦労をせずいつもニコニコして、自分を癒やしてくれる存在であってほしいと思っているって……。分かっています」
電話の向こうで、澪は気まずく黙っている。
「私が意地を張って、『きちんと立派に働いて、佑さんに似合う女性にならないと』って思っているから働いている。……それは、ただの自己満足です。彼は本当は、私が働くのを望んでいないかもしれないのに」
『うーん……。いや、女性に家にいろっていうのは、ちょっと前時代的かもしれないけど』
「いいえ。今は多様性って言われていますよね。女性には家庭にいてほしいと思う男性だって、認められていいと思います。それは個人のあり方。それで、考え方が合う者同士、くっついたら何も問題ありません」
『……そうだね』
正論を言われて言い返せず、澪は息をつく。
「私は……、ただ、怖いんです。佑さんはあらゆるものを手にしている。一方で私は本当に普通なんです。ゲームで言ったらレベル百を超えている伝説の勇者みたいな佑さんの隣に、レベル三ぐらいのまだ何者でもない私がいます。……あぁ、そっか。負けたくないのかな」
自分の言葉に納得し、香澄は小さく笑う。
「これでも負けず嫌いで頑固なんです。大好きな人に、少しでも尊敬してもらえる人でいたいって思ってしまいます」
『んー、それは分からないでもない。何もかも佑に任せっきりで、あり得ないけれどいつか愛が冷めたら捨てられるかも……って心配すると、いつ何があってもいいように何かできる人でありたいよね。その怖さは分かるよ。香澄さんは〝女〟として男に媚びて生きる人じゃない。社会的地位、金銭的には無理でも、どこかで対等でありたいと望む気持ちは分かる』
澪は香澄を励ますように笑った。
『小さな反抗、結構。うん、気持ちは分かった。香澄さんのやりたいようにすればいいよ』
「ありがとうございます」
『それで、距離を取った?』
いま北海道にいる話題に戻り、香澄は苦笑いをする。
「今……、ちょっと事情があって、私、少し弱っているんです。それを、いつも通り佑さんが守ってくれようとしています。……でもそれじゃあ、私はいつまで経っても〝守られる香澄〟のままだなって思うんです。別に佑さんに匹敵するほど強くなりたいとか、大きな目標を持っている訳じゃないんです。ただ、あまりに弱すぎるなって」
『ん……。弱っている時は無理しなくていいと思うけどね』
「ありがとうございます。……けど、なんだろう。うーん。……これを機会に鍛え直したいなって思っているんです。たまに生まれた土地でのんびり過ごして、初心に返るのもアリかな? って。……恵まれた環境だからできる事なんですけど」
自嘲気味に言うと、澪は『ううん』と言う。
『ゆっくりしなよ。佑の事はこっちで何とかして、様子も見ておく。香澄さんは東京の事は気にしないで、リフレッシュして』
「ありがとうございます」
そのあと、少し世間話をしてから電話を切った。
澪は気を遣ってくれ、北海道にいる間はこれ以上干渉しないと言ってくれる。
(皆気を遣ってくれて、その優しさに生かされてるなぁ)
感謝して、香澄は微笑んだ。
あっという間に週末になり、香澄はロングTシャツにロングスカート、ジージャンという格好で、麻衣と待ち合わせしている琴似(ことに)駅に来ていた。
駅前のロータリーに立っていると、周りの人から見られている気がするが、気のせいだろうか。
(そんな変な格好してるかな)
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肩をすくめて固まっていると、二人は余計調子に乗ったようだ。
「待ち合わせって女の子?」
「そ、そうですけど……」
「じゃあさ、丁度いいからダブルデートしない?」
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