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第十部・ニセコ 編
札幌を満喫
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香澄はブラリと店内を歩き周り、佑と出会ってから培われたセンスで、自分に似合いそうなアイテムをカゴに入れてゆく。
麻衣と会う日は少しお洒落な物にしたが、あとはニセコに向かうので動きやすさと機能重視で選んだ。
大きな紙袋を手に店を出ると、時間を確認し地下に潜って粥や中華麺のレストランに入った。
「ゴマ担々麺と、海老とチーズのトマトお粥のセットをお願いします」
特に悩む事もなくスラッと決めてオーダーすると、こうやってお一人様でカウンター席に座るのも久しぶりだな、と思う。
スマホを弄ろうと思ったが、無意識にアルバムから佑の写真を出しそうなのでやめた。
代わりに読みかけの文庫本を開き、ページを捲り始める。
それほど待たずにお粥のセットが来て、香澄は気を取り直しスマホで写真を撮った。
お粥のセットには肉まんと杏仁豆腐もついていて、それで千円少しなので香澄はこのセットが大好きだ。
(あとでジャフォットにのせておこう)
佑は自分の事を心配していると思うし、彼はいつもこっそり香澄のSNSをチェックしている。
連絡は取らないと言ったが、SNSを見るのは自由だ。
だからせめて、「今日はこんな物を食べました」と写真だけで伝えるならアリだと思っていた。
「いただきます」
手を合わせて小さく唱え、香澄は少し遅くなったランチに取り掛かる。
辛い物は苦手だが、ここのゴマ担々麺は香澄にも丁度いい辛さだ。ゴマのまろやかさもあり、実に美味しい。
お粥もレンゲですくうとチーズがとろりと糸を引き、トマトで赤く色のついたお粥にプリッとした海老の食感が堪らない。
肉まんも間違いのない味付けだし、杏仁豆腐というデザートは無条件で大好きだ。
あっという間にペロッと食べてしまうと、香澄は満足に微笑んで席を立った。
支払いを済ませ、今度は札幌駅にある映画館に入る。
席はカードで先に取っておいたので、チケットを受け取ってスルッと入れた。
こういう時にラブストーリーを見ると後悔すると思ったので、スカッとするアクション映画を思いきり楽しむ。
映画は好きだ。二時間前後だけ、現実ではない世界に浸れるから。
平日なので客もまばらなシートで、香澄は隣を気にせずキャラメル味のポップコーンを囓り、いつもなら飲まないメロンソーダも飲んだ。
そのあとシャボンの店舗に寄り、ボディスクラブを買った。
遊びに遊んで、もう帰ろうかと思った時――。
「あ……」
札幌駅直結の大角梅坂屋の一階化粧品売り場をブラブラ歩いていた時、ジョン・アルクールの店舗を見つけてしまった。
吸い寄せられるように足が動き、目がネクタリンやスイートペアーという、いつも自分がつけているコロンを探す。
いつも香澄が透明なボトルのシリーズを使うのに対し、佑は黒いボトルのシリーズを使う事が多い。そちらの方がやや値段が高く、香りの持続性もある。
佑がいつも使っているコロンのテスターがあり、香澄は無意識に匂いを嗅いでいた。
――あ。
――佑さんの匂いだ。
そう思っただけで目の奥が熱くなり、今にも泣いてしまいそうになって慌ててテスターを戻した。
「いらっしゃいませ」
そこに黒いシャツにパンツ姿のスタッフが声を掛け、感じのいい笑みを浮かべる。
(どうしよう……)
買ってしまいたい気持ちもある。だが買わない方がいいのでは、と思う気持ちもある。
御劔邸を出る時は、飛行機の手荷物検査で香水が引っ掛かるので、香り関係は持たないと決めていた。
だがこちらで現品が手に入るなら――。
ウード&ベルガモッドは絶対に駄目だ。
そう思い、香澄は陳列された商品の前をゆっくりと歩く。
でもいつも使っていたネクタリンも、匂いを嗅いでしまえば東京での毎日を思い出してしまうかもしれない。
香りから引き起こされる記憶というものも、あなどれないのだ。
御劔邸にはジョン・アルクールの商品がほとんどそろっていて、香澄は自由に重ねづけを楽しんでいた。
その中でも気に入っていた他の香りのボディクリームを買おうと決めた。
「じゃあ……、あの。ブラックベリーのボディクリームをお願いします」
コロンをムエットに掛けて香りを確かめず、香澄はスタッフに告げる。
麻衣と会う日は少しお洒落な物にしたが、あとはニセコに向かうので動きやすさと機能重視で選んだ。
大きな紙袋を手に店を出ると、時間を確認し地下に潜って粥や中華麺のレストランに入った。
「ゴマ担々麺と、海老とチーズのトマトお粥のセットをお願いします」
特に悩む事もなくスラッと決めてオーダーすると、こうやってお一人様でカウンター席に座るのも久しぶりだな、と思う。
スマホを弄ろうと思ったが、無意識にアルバムから佑の写真を出しそうなのでやめた。
代わりに読みかけの文庫本を開き、ページを捲り始める。
それほど待たずにお粥のセットが来て、香澄は気を取り直しスマホで写真を撮った。
お粥のセットには肉まんと杏仁豆腐もついていて、それで千円少しなので香澄はこのセットが大好きだ。
(あとでジャフォットにのせておこう)
佑は自分の事を心配していると思うし、彼はいつもこっそり香澄のSNSをチェックしている。
連絡は取らないと言ったが、SNSを見るのは自由だ。
だからせめて、「今日はこんな物を食べました」と写真だけで伝えるならアリだと思っていた。
「いただきます」
手を合わせて小さく唱え、香澄は少し遅くなったランチに取り掛かる。
辛い物は苦手だが、ここのゴマ担々麺は香澄にも丁度いい辛さだ。ゴマのまろやかさもあり、実に美味しい。
お粥もレンゲですくうとチーズがとろりと糸を引き、トマトで赤く色のついたお粥にプリッとした海老の食感が堪らない。
肉まんも間違いのない味付けだし、杏仁豆腐というデザートは無条件で大好きだ。
あっという間にペロッと食べてしまうと、香澄は満足に微笑んで席を立った。
支払いを済ませ、今度は札幌駅にある映画館に入る。
席はカードで先に取っておいたので、チケットを受け取ってスルッと入れた。
こういう時にラブストーリーを見ると後悔すると思ったので、スカッとするアクション映画を思いきり楽しむ。
映画は好きだ。二時間前後だけ、現実ではない世界に浸れるから。
平日なので客もまばらなシートで、香澄は隣を気にせずキャラメル味のポップコーンを囓り、いつもなら飲まないメロンソーダも飲んだ。
そのあとシャボンの店舗に寄り、ボディスクラブを買った。
遊びに遊んで、もう帰ろうかと思った時――。
「あ……」
札幌駅直結の大角梅坂屋の一階化粧品売り場をブラブラ歩いていた時、ジョン・アルクールの店舗を見つけてしまった。
吸い寄せられるように足が動き、目がネクタリンやスイートペアーという、いつも自分がつけているコロンを探す。
いつも香澄が透明なボトルのシリーズを使うのに対し、佑は黒いボトルのシリーズを使う事が多い。そちらの方がやや値段が高く、香りの持続性もある。
佑がいつも使っているコロンのテスターがあり、香澄は無意識に匂いを嗅いでいた。
――あ。
――佑さんの匂いだ。
そう思っただけで目の奥が熱くなり、今にも泣いてしまいそうになって慌ててテスターを戻した。
「いらっしゃいませ」
そこに黒いシャツにパンツ姿のスタッフが声を掛け、感じのいい笑みを浮かべる。
(どうしよう……)
買ってしまいたい気持ちもある。だが買わない方がいいのでは、と思う気持ちもある。
御劔邸を出る時は、飛行機の手荷物検査で香水が引っ掛かるので、香り関係は持たないと決めていた。
だがこちらで現品が手に入るなら――。
ウード&ベルガモッドは絶対に駄目だ。
そう思い、香澄は陳列された商品の前をゆっくりと歩く。
でもいつも使っていたネクタリンも、匂いを嗅いでしまえば東京での毎日を思い出してしまうかもしれない。
香りから引き起こされる記憶というものも、あなどれないのだ。
御劔邸にはジョン・アルクールの商品がほとんどそろっていて、香澄は自由に重ねづけを楽しんでいた。
その中でも気に入っていた他の香りのボディクリームを買おうと決めた。
「じゃあ……、あの。ブラックベリーのボディクリームをお願いします」
コロンをムエットに掛けて香りを確かめず、香澄はスタッフに告げる。
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