【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第十部・ニセコ 編

第十部・序章 帰省

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「ただいま~」
「本当に突然でびっくりしたわぁ」

 新千歳空港には昼頃着き、そこから実家の最寄り駅まで列車で移動した。

 母はパートをしているが、覚えている限り休みの曜日だったので家にいるかな? と思って電話をかけてみると、ドンピシャで通じた。

 母は車の免許も持っているので、最寄り駅までの迎えを頼んだ。

 札幌の実家は交通の便がいい場所にあった事と、一人暮らしをして中央区に住んだ時も徒歩と地下鉄ですべてどうにかなったので、香澄は免許を持っていなかった。
 ただこうやって人に迎えに来てもらう事があると、いずれ取った方がいいんだろうなと感じている。

 今は母が運転する車の助手席に座り、久しぶりの景色を見ながら会話をしていた。
 秋になり、北海道は日差しこそギラつく時はあるものの、どんどん冬に向けて寒くなってきている。

「北海道さすが寒いね。あっちはまだ三十度超えの日もあって、汗をたらたら流してるのに」
「そういう事を言うようになってまぁ、あんたはすっかり東京の人間になったのね」
「そ、そんなこと言わないでよ。道産子魂は捨ててないんだから」

 まるで地方の芸人が東京に染まった、のような言い方をされ、思わず香澄は笑う。

「それにしてもよく休暇が取れたわね。Chief Everyは大企業だし、忙しいんでしょう?」
「うん、ちょっと里心がついて有給とー……んー。ちょっと特権を使って一か月お休みもらったの」

「特権ってあんた。一か月は休みすぎなんじゃないの? 秘書なんでしょ?」
「うん……。ちょっと……。療養期間」

 さすがに一か月の休暇をごまかせずそう言うと、栄子も何か察したようだ。

「……まぁ、お休みもらったならもらったで、ゆっくり休んで英気を養いなさい」
「うん、そのつもり!」

 西区にある家に着いてリビングのいつもの場所に座りグタリとしていると、「コーヒー飲む?」と母が訊いてきて「うん」と即答した。

「脚はもういいの? 見たところ問題なく歩いているようだけど」

 母は台所でお湯を沸かし、電動ミルで豆を砕きながら尋ねてくる。

「全然平気だよ。あとでボルトを取る手術もあるんだけど、それはもうスピード入退院で済むみたい」

 母にとって〝香澄に起こった何か〟は、ドイツで事故に遭ったところで止まっている。
 それがありがたかった。

 まさかマティアスの事や、イギリスで記憶を失い心神喪失になりかけた事を話せるはずもない。
 何も話さず申し訳ない気持ちもあるが、できるだけ心配をかけたくなかった。

 ただでさえ娘が大富豪に見初められて東京に行ってしまい、気を揉む事も多いと思うのに、それ以上の事を耳に入れたくなかった。

 佑もそれは分かってくれているらしく、アンネたちも了承してくれているようだ。
 ただ、佑は誠実な彼らしく、随分迷ったようだが。

「あ、そうだ。空港でお菓子たくさん買ってきたから食べようよ!」

 東京と言えば、な有名なお菓子から、香澄が独断と偏見で「美味しそう」と思ったお菓子の箱を、ドサッとテーブルの上に置く。

「こっちは友達の分」

 ソファの脇に置いてある紙袋をポンポンと叩き、久しぶりに会う地元の友人の顔を思い浮かべ、笑顔になる。

 そのうちコーヒーの香ばしい匂いが漂い、栄子と二人で親子水入らずの会話をしながら、お菓子を楽しんだ。



**



 その日の夜は香澄が金を出し、出前の寿司を取ってちょっとだけお祝いのムードになった。
 弟の芳也も駆けつけ、寿司を頬張る。

 父は香澄の働きっぷりを聞きたがり、佑の仕事ぶりや聞こえてくるニュースなども話題に出す。

 朝に佑と穏やかに別れられたからこそ、父に振られる話題にも動揺せず受け答えする事ができた。





「もしもし? 麻衣?」

 夕食後、香澄は麻衣に電話をかけていた。

『香澄? 久しぶり! 最近連絡なかったから、忙しいのかな? って思ってたよ』

「まぁ、そんなもの。連絡しなくてごめんね。いま札幌戻ってるんだけど会えないかな? 東京の空港で買ってきたお菓子もあるの」

『ホント? 行く行く! 東京のお菓子食べたい!』

 屈託なく言う友人の相変わらずさに、香澄の顔に笑顔が広がる。
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