515 / 1,559
第九部・贖罪 編
本当の恋のために
しおりを挟む
午後もゆっくりとショッピングモールを歩き、終わったあとはお台場海浜公園で夕焼けを見た。
少し肌寒くなってきた海辺を歩き、双子と手を繋いで恋人のように歩く。
「……ねぇ、カスミ。どうして俺たちを許す条件がこの楽しくて堪らないデートなのかって、聞いてもいい?」
アロイスが尋ね、クラウスも興味津々という目で香澄を覗き込む。
――ちゃんと言わなくては。
そう思い、香澄は歩みを止めてやんわりと二人から手を離した。
一歩後ろに下がり、双子をまっすぐに見つめる。
「……私はお二人と知り合って、とても楽しくてポジティブで、素敵な人だなって思いました。たまにスキンシップが多すぎて戸惑う事もあったけれど、一緒にいて楽しくなる人だと思っています」
「ありがと」
「僕らもカスミと一緒にいられて、楽しいよ」
夕暮れの浜辺で、まるで愛の告白のようだ。
不意にそんな事を思い、香澄はクスッと笑う。
「そんな素敵なお二人が、……その、女性を取っ替え引っ替えしていると聞いて、『モテる人ってそうなんだな』と思うのと同時に、『好きな人一人に絞らないのかな?』とも思っていました」
「あー……」
双子は痛い所を突かれたという顔をし、顔を見合わせて肩をすくめる。
「ですが、それも原因があったと知りました。エミリアさんがとても焼きもち妬きで、自分のお気に入りの男性が他の女性を好きになろうとすると、邪魔をしてきたという話を聞きました。でもそれも、もう解決したんですよね?」
「あぁ、うん」
「僕ら本当に自由の身になったよ。……それは、犠牲になったカスミのお陰だと思ってる」
クラウスが歯切れ悪そうに言い、珍しく視線を逸らす。
「はい。それはいいんです。もう終わった事ですから。それを蒸し返したいんじゃないんです」
香澄はゆるりと首を振り、二人を安心させるように微笑む。
「もしその……、エミリアさんからの嫉妬から逃れられたのだとしたら、本気の恋ってする……んですか? って聞きたかったんです。札幌でバーテンダーの美里ちゃんに声を掛けましたよね? あれは本気ですか?」
「あぁ……」
香澄が言いたい事を察し、双子はまた顔を見合わせる。
「ミサトを好きになろうって思ったのは、カスミと属性が似ていたからっていう理由と、長年女の子を大勢見てきて、この子いいなって思ったっていう勘かな」
「そう。まだ本気でのめり込んではいないけど、じっくり落として二人で可愛がるのもいいなー……とは思ってる」
双子の答えを聞き、香澄は慎重に尋ねる。
「じゃあ、まだ気持ちは確定ではない……んですか?」
「そうだねー。俺たちとしても、いきなり長年の呪いを解かれて自由になった身だからね。本気の恋の仕方もほとんど忘れてるんだよ。自由に恋愛してもいい環境になって、突然すべてを捧げる燃える恋ができるかと言われたら……、俺たちとしても分からないな?」
アロイスの言葉のあとを、クラウスが続ける。
「そもそも僕ら、本気にならないように大勢と関係を持って上辺だけの付き合いをしてたからね。僕らに本気になる子たちも少しはいたけど、その気持ちに目を向けなかった。だから恋愛において相手の気持ちに、とても鈍感になっていると思うよ」
双子が自分たちの状況を冷静に説明し、香澄も納得する。
「……ですよね。そう説明されると私も『だろうな』って思います」
だからこそ、双子のややデリカシーに欠いた行動や言動も、納得がいく気がする。
誰を傷付けても構わないという、ある種やけっぱちになった感情が根底にあるからこそ、双子は誰にも気を遣わず生きてきたのだ。
大切な存在を作ってもどうせ奪われるのなら、誰も大切にしない。
彼らの生き方には、そんな悲しい諦めが透けて見える。
「……じゃあー……。これからゆっくり、普通に恋をしてみてください。人生を楽しんでくださいね?」
浜辺の風に髪をなぶられ、香澄が笑う。
「美里さんへの気持ちがまだ分からないのなら、焦る事もないと思います。ですが途中でやめる時は、彼女の気持ちも考えてきちんと理由を伝えてください」
「ん、分かった」
「カスミと同郷だしね」
「それでも本気で好きだと思った時は……。今日のデートみたいに、他の女性を見たりしない事。我が儘を言うかもしれないけれど、常識の範囲内でなら、多少は聞いてあげると喜ぶかもしれません」
「あ! あー……。それで!」
そこでようやく、双子は今日のデートの趣旨を理解したようだ。
少し肌寒くなってきた海辺を歩き、双子と手を繋いで恋人のように歩く。
「……ねぇ、カスミ。どうして俺たちを許す条件がこの楽しくて堪らないデートなのかって、聞いてもいい?」
アロイスが尋ね、クラウスも興味津々という目で香澄を覗き込む。
――ちゃんと言わなくては。
そう思い、香澄は歩みを止めてやんわりと二人から手を離した。
一歩後ろに下がり、双子をまっすぐに見つめる。
「……私はお二人と知り合って、とても楽しくてポジティブで、素敵な人だなって思いました。たまにスキンシップが多すぎて戸惑う事もあったけれど、一緒にいて楽しくなる人だと思っています」
「ありがと」
「僕らもカスミと一緒にいられて、楽しいよ」
夕暮れの浜辺で、まるで愛の告白のようだ。
不意にそんな事を思い、香澄はクスッと笑う。
「そんな素敵なお二人が、……その、女性を取っ替え引っ替えしていると聞いて、『モテる人ってそうなんだな』と思うのと同時に、『好きな人一人に絞らないのかな?』とも思っていました」
「あー……」
双子は痛い所を突かれたという顔をし、顔を見合わせて肩をすくめる。
「ですが、それも原因があったと知りました。エミリアさんがとても焼きもち妬きで、自分のお気に入りの男性が他の女性を好きになろうとすると、邪魔をしてきたという話を聞きました。でもそれも、もう解決したんですよね?」
「あぁ、うん」
「僕ら本当に自由の身になったよ。……それは、犠牲になったカスミのお陰だと思ってる」
クラウスが歯切れ悪そうに言い、珍しく視線を逸らす。
「はい。それはいいんです。もう終わった事ですから。それを蒸し返したいんじゃないんです」
香澄はゆるりと首を振り、二人を安心させるように微笑む。
「もしその……、エミリアさんからの嫉妬から逃れられたのだとしたら、本気の恋ってする……んですか? って聞きたかったんです。札幌でバーテンダーの美里ちゃんに声を掛けましたよね? あれは本気ですか?」
「あぁ……」
香澄が言いたい事を察し、双子はまた顔を見合わせる。
「ミサトを好きになろうって思ったのは、カスミと属性が似ていたからっていう理由と、長年女の子を大勢見てきて、この子いいなって思ったっていう勘かな」
「そう。まだ本気でのめり込んではいないけど、じっくり落として二人で可愛がるのもいいなー……とは思ってる」
双子の答えを聞き、香澄は慎重に尋ねる。
「じゃあ、まだ気持ちは確定ではない……んですか?」
「そうだねー。俺たちとしても、いきなり長年の呪いを解かれて自由になった身だからね。本気の恋の仕方もほとんど忘れてるんだよ。自由に恋愛してもいい環境になって、突然すべてを捧げる燃える恋ができるかと言われたら……、俺たちとしても分からないな?」
アロイスの言葉のあとを、クラウスが続ける。
「そもそも僕ら、本気にならないように大勢と関係を持って上辺だけの付き合いをしてたからね。僕らに本気になる子たちも少しはいたけど、その気持ちに目を向けなかった。だから恋愛において相手の気持ちに、とても鈍感になっていると思うよ」
双子が自分たちの状況を冷静に説明し、香澄も納得する。
「……ですよね。そう説明されると私も『だろうな』って思います」
だからこそ、双子のややデリカシーに欠いた行動や言動も、納得がいく気がする。
誰を傷付けても構わないという、ある種やけっぱちになった感情が根底にあるからこそ、双子は誰にも気を遣わず生きてきたのだ。
大切な存在を作ってもどうせ奪われるのなら、誰も大切にしない。
彼らの生き方には、そんな悲しい諦めが透けて見える。
「……じゃあー……。これからゆっくり、普通に恋をしてみてください。人生を楽しんでくださいね?」
浜辺の風に髪をなぶられ、香澄が笑う。
「美里さんへの気持ちがまだ分からないのなら、焦る事もないと思います。ですが途中でやめる時は、彼女の気持ちも考えてきちんと理由を伝えてください」
「ん、分かった」
「カスミと同郷だしね」
「それでも本気で好きだと思った時は……。今日のデートみたいに、他の女性を見たりしない事。我が儘を言うかもしれないけれど、常識の範囲内でなら、多少は聞いてあげると喜ぶかもしれません」
「あ! あー……。それで!」
そこでようやく、双子は今日のデートの趣旨を理解したようだ。
35
お気に入りに追加
2,570
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる