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第九部・贖罪 編

私以外の女の子見ちゃ嫌です

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『お前は今日一日、俺と一緒に香澄の三メートル後ろだ』

 佑がマティアスの肩を組み、自分もろとも一歩下がる。

『承知した』

 その距離が近かったからなのか、周囲から「きゃあっ」とミーハーな悲鳴が聞こえた。

「行きましょうか」

 佑のさりげない気遣いに感謝しつつ、香澄は双子に向かって微笑んだ。

「うん、行こう」
「カスミとデートだ」

 双子は左右から香澄を挟み、彼女の左右の手を握る。

 そのまま周囲の女性の羨望を受けつつ、香澄はブラブラとショッピングモールをまわり始めた。





 デートは当初の予定通り、ゆっくりショッピングモールを歩いて、双子が香澄に似合う服を選んでいく事になる。

 デートなのでさりげなく腰に手を回されたり、髪に触れられたりもあったが、香澄から言い出した事なので許容範囲とした。

 佑は最初に言った通り、マティアスと共に少し離れた場所で待機していてくれる。

 マティアスと佑は今少し微妙な関係だ。
 それでも喧嘩せず一緒に過ごせているのは、彼が大人である証拠だ。
 加えて先日の覚書や示談金を支払った事も、功を奏しているのだろう。

 昼頃になると双子の護衛の手には荷物が増え、香澄が休憩を申し出た。

「そろそろお昼ご飯にしましょうか」
「そうだね、カスミ何食べたい?」

 クラウスが香澄の意見を尋ねてくれ、香澄は内心点をプラスする。

「ありがとうございます。じゃあ、イタリアンがいいです」
「オッケー、じゃああっちのレストラン街行こうか」

 途中でオリーブの木が植えられた広場を通り抜け、その向こうにあるレストラン街を目指す。

 行き交う一般客は、顔立ちの整った双子に挟まれた香澄を見て、何かの撮影かとカメラを探している。

 双子はサングラス越しに何気なくショップを見つつ、こちらに熱い視線を送っている女性にも視線を送っていた。

 それに香澄はグッと心を決め、繋いでいる二人の手をぐいっと引き寄せる。

「え、なに? カスミ」
「何か見たいものある?」

 すぐ対応してくれた双子に対し、香澄は一生懸命拗ねた顔をしてみせた。

「わっ……、私以外の女の子見ちゃ、いや。…………です」

 双子が固まり、背後で佑も固まっている。
 後ろにいる佑は、自分とデートしていて香澄がそんな可愛い嫉妬を見せるなどないので、羨ましい、けしからんの感情で荒れ狂っている。

「なにこれー!」
「なにこの可愛い生き物!」

 双子は左右からギュウギュウと香澄を抱き締め、往来の真ん中だというのにキスをしてこようとした。

「ス、ストップ! キスはなしです!」

 双子の腕から抜けて二、三歩離れたが、すぐに両手をしっかり握られる。

「いやぁ、嫉妬されるのも悪くないね」
「カスミの嫉妬可愛いわぁ。今までの女の子だったら、すぐにビンタだもんね」

「デっ、デート中に元カノの話を出すのもNGですっ」

 そう言ったあと、一瞬とてつもなく迷ってから、クルリと踵を返した。

「他の女の子の話をするなら、帰ります!」

 スタスタと歩き出すと、驚いた顔をした佑が正面にいる。
 思わず佑が両手を広げるので、演技をしている香澄としては、どうしたらいいか分からなくなる。

 だがその前に両手をグイッと引っ張られ、双子に抱き留められる。

「ごめん」
「ごめんって。もうしないからさ」

 よしよしと頭や背中を撫でられ、香澄はひとまず安堵の溜め息をつく。

「もう他の女の子の話したら、嫌ですからね?」

 ツンと澄ましてみせると、呆れられると思いきや双子の目尻が下がった。

「可愛いなぁ、カスミ」
「ホント。僕らに嫉妬する女の子がこんなに可愛いと思わなかった」

 その姿を見て、周囲の女性たちは羨ましそうな顔をし、後ろの佑は苦虫を潰したような顔をしている。

「ご、ご飯行きましょうか」

 香澄は二人の手を引っ張り、目的のイタリアンレストランに向かう。

 いつも混雑しているショッピングモールなので待ち時間はあったが、その時は会話を五人に増やして待ち時間を乗り切った。
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