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第九部・贖罪 編
双子とのデート
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だが、もうすでに手遅れだと理解している。
香澄は〝決めて〟しまった。
残っているのは、グジグジと痛む己の胸のしこりのみだ。
「……マジか」
素の声で呟き、目の前が涙で曇る。
のろのろと右を向くと、磨りガラスの向こうで香澄のシルエットが動いている。
彼女はもう、佑が世話を焼かなくても一人であの肌の手入れをし、ドライヤーを掛けられる。
――いや、元から一人でできていた。
――俺が彼女の成長の妨げをしていたのか?
――俺はいないほうがいいのか?
――俺は香澄にとって〝不要な存在〟なのか?
ジワジワと、〝もう一人の自分〟の声が佑を蝕んでゆく。
香澄は言わなかった言葉を勝手に想像し、心の闇が成長していく。
心の奥底にある器からとぷりと闇が溢れ――、佑の目から涙を滴らせた。
**
土曜日の夜は、それぞれの寝室で眠った。
香澄もあんな自分勝手な事を言っておいて、佑と同じベッドで眠れるほど図太くない。
翌朝はなるべく普通に振る舞って朝食を作り、いつものように佑と向かい合って食事をした。
「今日のコーディネート、俺が考えたの着てくれるか? せめて俺が選んだ服で、他の男とデートをしてほしい」
「うん、分かった」
多少のぎこちなさはあったものの、二人とも子供ではないのでいつも通りに振る舞った。
朝食後、平時通り二人で食器を片付け、香澄がハンドクリームを塗っていると、佑が手を握って自分の指も絡めてきた。
「佑さんもハンドクリーム分けてほしいの?」
まるで女子高生みたいだな、と微笑ましく思い、香澄はチューブからもう一回分ハンドクリームを出し、佑の手を優しくマッサージした。
自分よりもずっと大きな手を両手で包み、手の甲と掌にすりすりとハンドクリームをなじませ、指の一本一本も握って塗り込み、指の股まですり込む。
「はい、終わり」
しっとりとした佑の手に満足し、香澄は彼に微笑みかけた。
「ありがとう」
本当は彼が理由をつけて、手を握りたいだけなのは分かっている。
それでもこうやって見せかけの優しさで、深刻な空気になるのを誤魔化す自分を狡いと思った。
「じゃあ、服を選ぼうか」
「うん、お任せします。私のスタイリストさん」
冗談めかして言うと、クシャッと頭を撫でられた。
結局、香澄の服はカジュアルな感じに落ち着いた。
レンガ色のチェックロングプリーツスカートに、上は胸元にフォトプリントのある薄手のTシャツ。
その上にジージャンを羽織り、足元は安定感のある太いヒールのショートブーツを履いた。
佑はなるべく目立たないようにとサックスシャツの下にVネックの白Tシャツ、グレンチェックのアンクルパンツにスニーカーとかなりカジュアルだ。
しかし地毛の色が薄い髪に、スラリと高い身長にモデル並みのプロポーション、加えて整った顔立ちにブランド物のサングラスを掛けていると、否が応でも目を引いてしまう。
(たとえ芋ジャージ着てても、佑さんなら格好いいんだろうな)
そんな事を考えながら、香澄は双子と待ち合わせしたお台場に向かった。
十七世紀から十八世紀ほどのヨーロッパの街並みを模したテーマパーク型ショッピングモールに向かうと、ひときわ目立つ噴水前に双子とマティアスが立っていた。
三人ともサングラスを掛けているのだが、隠しきれないイケメンオーラが出ていて周囲の目を引いている。
(う……。勇気がいるな)
そう思ったものの、香澄は腕時計を確認してから小走りに彼らに近付いて行った。
「お待たせしました!」
「まだ時間前だよ」
「お~、アロそのセリフ鉄板でない?」
『おはよう、カスミ』
マティアスがドイツ語で挨拶をしてきて、香澄は昨晩の事を思い出し一瞬固まる。
だがすぐに笑顔を浮かべ、『おはようございます』と挨拶をした。
香澄は〝決めて〟しまった。
残っているのは、グジグジと痛む己の胸のしこりのみだ。
「……マジか」
素の声で呟き、目の前が涙で曇る。
のろのろと右を向くと、磨りガラスの向こうで香澄のシルエットが動いている。
彼女はもう、佑が世話を焼かなくても一人であの肌の手入れをし、ドライヤーを掛けられる。
――いや、元から一人でできていた。
――俺が彼女の成長の妨げをしていたのか?
――俺はいないほうがいいのか?
――俺は香澄にとって〝不要な存在〟なのか?
ジワジワと、〝もう一人の自分〟の声が佑を蝕んでゆく。
香澄は言わなかった言葉を勝手に想像し、心の闇が成長していく。
心の奥底にある器からとぷりと闇が溢れ――、佑の目から涙を滴らせた。
**
土曜日の夜は、それぞれの寝室で眠った。
香澄もあんな自分勝手な事を言っておいて、佑と同じベッドで眠れるほど図太くない。
翌朝はなるべく普通に振る舞って朝食を作り、いつものように佑と向かい合って食事をした。
「今日のコーディネート、俺が考えたの着てくれるか? せめて俺が選んだ服で、他の男とデートをしてほしい」
「うん、分かった」
多少のぎこちなさはあったものの、二人とも子供ではないのでいつも通りに振る舞った。
朝食後、平時通り二人で食器を片付け、香澄がハンドクリームを塗っていると、佑が手を握って自分の指も絡めてきた。
「佑さんもハンドクリーム分けてほしいの?」
まるで女子高生みたいだな、と微笑ましく思い、香澄はチューブからもう一回分ハンドクリームを出し、佑の手を優しくマッサージした。
自分よりもずっと大きな手を両手で包み、手の甲と掌にすりすりとハンドクリームをなじませ、指の一本一本も握って塗り込み、指の股まですり込む。
「はい、終わり」
しっとりとした佑の手に満足し、香澄は彼に微笑みかけた。
「ありがとう」
本当は彼が理由をつけて、手を握りたいだけなのは分かっている。
それでもこうやって見せかけの優しさで、深刻な空気になるのを誤魔化す自分を狡いと思った。
「じゃあ、服を選ぼうか」
「うん、お任せします。私のスタイリストさん」
冗談めかして言うと、クシャッと頭を撫でられた。
結局、香澄の服はカジュアルな感じに落ち着いた。
レンガ色のチェックロングプリーツスカートに、上は胸元にフォトプリントのある薄手のTシャツ。
その上にジージャンを羽織り、足元は安定感のある太いヒールのショートブーツを履いた。
佑はなるべく目立たないようにとサックスシャツの下にVネックの白Tシャツ、グレンチェックのアンクルパンツにスニーカーとかなりカジュアルだ。
しかし地毛の色が薄い髪に、スラリと高い身長にモデル並みのプロポーション、加えて整った顔立ちにブランド物のサングラスを掛けていると、否が応でも目を引いてしまう。
(たとえ芋ジャージ着てても、佑さんなら格好いいんだろうな)
そんな事を考えながら、香澄は双子と待ち合わせしたお台場に向かった。
十七世紀から十八世紀ほどのヨーロッパの街並みを模したテーマパーク型ショッピングモールに向かうと、ひときわ目立つ噴水前に双子とマティアスが立っていた。
三人ともサングラスを掛けているのだが、隠しきれないイケメンオーラが出ていて周囲の目を引いている。
(う……。勇気がいるな)
そう思ったものの、香澄は腕時計を確認してから小走りに彼らに近付いて行った。
「お待たせしました!」
「まだ時間前だよ」
「お~、アロそのセリフ鉄板でない?」
『おはよう、カスミ』
マティアスがドイツ語で挨拶をしてきて、香澄は昨晩の事を思い出し一瞬固まる。
だがすぐに笑顔を浮かべ、『おはようございます』と挨拶をした。
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