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第九部・贖罪 編
すべてを破滅に導く言葉
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「ごめ……っ、ごめんなさいっ」
「っ……香澄?」
バシャンッと水音を立てて佑に縋り付き、香澄は自分でもよく分からないまま、彼の屹立に手を添えた。
「あの……、て、手でする? 口でする? ていうか、私、大丈夫だから。ね、しよ? 私、平気だよ?」
必死になって香澄は佑の肉棒をしごき、彼を見つめて瞳の奥にある感情を読もうとする。
佑が少しでも「面倒」とか「失望」の色を見せたら、どうやって挽回しようか頭が異常なまでに回転していた。
「香澄!」
上下に動いていた手を掴まれたかと思うと、抱き締められた。
そのままザブンッと浴槽に浸かり、もう一度包み込むように抱かれる。
「……大丈夫だ。何も不安に思わなくていい。焦らなくていい。……泣かなくていいから」
トントンと背中をさすられ、佑の低い声が胸板を伝って香澄の体に響く。
は……、は……と呼吸を整えた香澄は、そこで初めて自分が涙を流していた事に気づいた。
「佑さん……、…………嫌いに、ならないで……っ」
ぅく……っ、と涙をこらえ、香澄の声がぐしゃりと歪む。
「嫌いにならないよ。どうしてそう思う?」
佑の唇が、やわらかく額に押しつけられる。
それだけで重く硬くなっていた心が、少しだけ緩んだ。
「……もっと、キスして」
「ん」
涙がちゅっと吸い取られ、目元を温かな舌に舐められる。
頬に、額に、目蓋に、佑の唇が押しつけられる。
フワフワと温かな気持ちがこみ上げ、嬉しいのにどうしてか香澄はまた涙を流していた。
唇もちゅ、ちゅと優しく何度も吸われ、心が落ち着いてゆく。
「あのね……。好き……なの」
「ん、俺も好きだよ」
返事と一緒に、キスが贈られる。
「……私の事、面倒じゃない? ……ごめんね、なんかとっても重たくて面倒な女になってるね。すぐ治すから。こういうの、やめるから……っ」
こみ上げる涙を両手でゴシゴシと乱暴に拭っていると、両手首を掴まれ止められる。
「目はこすったら駄目だ。それから、全然面倒じゃない」
「…………ん」
どうしても、佑の言葉を素直に受け止められない。
彼が心から言ってくれているという事は理解しているのに、「きっと気を遣ってそう言ってくれているんだ」とひねくれて考えてしまう自分がいる。
――ああ、嫌だ。
――こんな素晴らしい人の隣にいるのが、自分みたいなので申し訳ない。
佑に抱きついて首元に顔を押しつけ、香澄は彼に気づかれないようにそっと溜め息をついた。
「香澄、いま一番どうしたい?」
佑の体に抱きつき、温もりを得ながら、香澄の心はギシギシと軋んで悲鳴を上げ、今にも壊れそうになっている。
「……えっち、したい。……………………でも」
「……でも?」
辛抱強く、佑が尋ねる。
香澄は佑の肩越しに、浴槽の縁に溜まった水滴をなんとはなしに眺めていた。
手を伸ばし、指先でその水滴をつ……と伸ばす。
いびつな楕円だったそれを指で乱してから、浴槽の縁に掌を載せ、じゃっと水滴すべてをなぎ払った。
――息を吸う。
吸い込む途中、喉が震えて呼吸がいびつになった。
吸い終えて――、嗚咽に似た声が、すべてを破滅に導く言葉を口にする。
「…………佑さんから、……離れたい」
昏く重たい槌で、どん、と腹の底を殴られたようだと思った。
殴られたのは頭だったかもしれない。
胸かもしれない。――呼吸が上手くできないから。
思考が止まって佑は何も言えず、それでも離して堪るかと両手に力を込めた。
香澄が不安定になっているのは、前々から分かっていた。
それでもなんとか、アドラーたちとの話し合いに挑むまで回復した……ように見えたのに。
「っ……香澄?」
バシャンッと水音を立てて佑に縋り付き、香澄は自分でもよく分からないまま、彼の屹立に手を添えた。
「あの……、て、手でする? 口でする? ていうか、私、大丈夫だから。ね、しよ? 私、平気だよ?」
必死になって香澄は佑の肉棒をしごき、彼を見つめて瞳の奥にある感情を読もうとする。
佑が少しでも「面倒」とか「失望」の色を見せたら、どうやって挽回しようか頭が異常なまでに回転していた。
「香澄!」
上下に動いていた手を掴まれたかと思うと、抱き締められた。
そのままザブンッと浴槽に浸かり、もう一度包み込むように抱かれる。
「……大丈夫だ。何も不安に思わなくていい。焦らなくていい。……泣かなくていいから」
トントンと背中をさすられ、佑の低い声が胸板を伝って香澄の体に響く。
は……、は……と呼吸を整えた香澄は、そこで初めて自分が涙を流していた事に気づいた。
「佑さん……、…………嫌いに、ならないで……っ」
ぅく……っ、と涙をこらえ、香澄の声がぐしゃりと歪む。
「嫌いにならないよ。どうしてそう思う?」
佑の唇が、やわらかく額に押しつけられる。
それだけで重く硬くなっていた心が、少しだけ緩んだ。
「……もっと、キスして」
「ん」
涙がちゅっと吸い取られ、目元を温かな舌に舐められる。
頬に、額に、目蓋に、佑の唇が押しつけられる。
フワフワと温かな気持ちがこみ上げ、嬉しいのにどうしてか香澄はまた涙を流していた。
唇もちゅ、ちゅと優しく何度も吸われ、心が落ち着いてゆく。
「あのね……。好き……なの」
「ん、俺も好きだよ」
返事と一緒に、キスが贈られる。
「……私の事、面倒じゃない? ……ごめんね、なんかとっても重たくて面倒な女になってるね。すぐ治すから。こういうの、やめるから……っ」
こみ上げる涙を両手でゴシゴシと乱暴に拭っていると、両手首を掴まれ止められる。
「目はこすったら駄目だ。それから、全然面倒じゃない」
「…………ん」
どうしても、佑の言葉を素直に受け止められない。
彼が心から言ってくれているという事は理解しているのに、「きっと気を遣ってそう言ってくれているんだ」とひねくれて考えてしまう自分がいる。
――ああ、嫌だ。
――こんな素晴らしい人の隣にいるのが、自分みたいなので申し訳ない。
佑に抱きついて首元に顔を押しつけ、香澄は彼に気づかれないようにそっと溜め息をついた。
「香澄、いま一番どうしたい?」
佑の体に抱きつき、温もりを得ながら、香澄の心はギシギシと軋んで悲鳴を上げ、今にも壊れそうになっている。
「……えっち、したい。……………………でも」
「……でも?」
辛抱強く、佑が尋ねる。
香澄は佑の肩越しに、浴槽の縁に溜まった水滴をなんとはなしに眺めていた。
手を伸ばし、指先でその水滴をつ……と伸ばす。
いびつな楕円だったそれを指で乱してから、浴槽の縁に掌を載せ、じゃっと水滴すべてをなぎ払った。
――息を吸う。
吸い込む途中、喉が震えて呼吸がいびつになった。
吸い終えて――、嗚咽に似た声が、すべてを破滅に導く言葉を口にする。
「…………佑さんから、……離れたい」
昏く重たい槌で、どん、と腹の底を殴られたようだと思った。
殴られたのは頭だったかもしれない。
胸かもしれない。――呼吸が上手くできないから。
思考が止まって佑は何も言えず、それでも離して堪るかと両手に力を込めた。
香澄が不安定になっているのは、前々から分かっていた。
それでもなんとか、アドラーたちとの話し合いに挑むまで回復した……ように見えたのに。
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