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第九部・贖罪 編

プロースト!

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「あの、私今日はお酒控えめにしておくね」
「え? ……あ」

 小声で佑に言うと、一瞬「どうしてだ?」という顔をされた。
 しかしすぐに、事件の時にホテルのバーでカクテルを何杯も飲んで酔っ払い、ああなってしまった事を思い出し、彼は溜め息をつく。

 それでも佑は気遣ってくれる。

「今日は何があっても俺が最後まで見ているし、我慢する事はないんだぞ?」
「ううん、いいの。ほら、ノンアルコールもあるし。これ美味しそう」

 指差した所には、黒酢を使ったサワーとスカッシュがあり、はちみつ黒酢やリンゴ酢など、種類もあり美味しそうだ。
 カクテルにもノンアルコールがあり、ジュースも香澄の好きな100%のフルーツジュースがある。

「僕らワインね」
『俺は日本酒を試してみる。端から順番に飲んでいけば、飲み比べもできるだろう』

 マティアスがそう言い、隣にいる双子に日本語の説明をドイツ語に訳してもらう。

「じゃあ、俺はいつものようにハイボールにしよう」
「私はー……と、じゃあ最初の一杯ぐらいはお酒にする。この果肉入りのカクテル美味しそう……」

 メニューを見ただけでじゅわりと口腔に唾が沸いてしまう、食いしん坊健在だ。
 マンゴーとピーチで迷ったあげく、ピーチにしておいた。

「よーし、どんどん頼もう! 僕らサシミも天ぷらも大好き!」

 飲み物のオーダーをしたあと、クラウスがすぐに別の店員を呼んで食べ物のオーダーを始めた。
 アロイスとクラウスがポンポンと次から次へと頼んでしまうので、香澄は出てきた物を食べる事にした。
 最後に佑が「枝豆と塩辛もお願いします」と居酒屋らしいメニューを頼み、ひとまずオーダーが終わる。

 その頃には飲み物も届いていて、乾杯をする事にした。

『じゃー……カスミとの仲直りを祝して! プロースト!』
「Prost」

 アロイスとクラウスのワイングラスに、カスミがカクテルグラスを軽く当てる。
 それからマティアスの日本酒グラスにも軽く当てた。

 ――ふと、マティアスに言われた「乾杯の時に相手の目をしっかり見ないと、この先七年いいセックスができない」というのを思い出し、ぐりんっと佑の方を向くと、彼をしっかり見てグラスを差し出した。

「……? 乾杯……」

 佑は少し戸惑ったあとにグラスを合わせてくれたが、すぐに香澄が自分を凝視している原因に思い当たったようだ。

『香澄に余計な事を吹き込んだのはどっちだ?』

『は?』
『何の事?』

「…………」

 まさか香澄の前でセックスがどうのこうのと言う訳にいかず、佑は一瞬黙る。

 そのあと、香澄が全く知らない言語のスペイン語でまくしたてた。

【ドイツ式に乾杯する時、相手の目を見ないと七年いいセックスができないって吹き込んだだろ。それでなきゃこんなに俺を見るか!】

 しかしそれに反応したのはマティアスだ。

【ああ、それ俺だ。雑学として教えた】
【お前なぁ】

 彼もサラリとスペイン語で話すので、香澄は何がなんだか分からない。
 くぴくぴとピーチのカクテルを飲んでいると、アロイスがコソッと話しかけてきた。

「タスクは母猫みたいだね。カスミだってもう立派な成人女性なのに」
「あははっ、母猫だって。そのうちカスミの首根っこ咥えて移動するんじゃない?」

 双子がケラケラと笑い、佑はもうはや疲れた表情をしてハイボールを呷る。

「そこはせめて恋人猫にしろ」
「譲らないねぇ」

 お通しは伊勢海老のお造りで、小ぶりながらも豪勢だ。
 さすが佑の知り合いがやっている店だと思いつつ、カスミはプリプリの海老を堪能した。

『ねぇ、カスミ。明日は何時にどこ集合?』

『あ、えーと……。どうしましょう。具体的なデートプランまで考えていませんでした』

『じゃあさ、僕らがデートプラン考えてもいい?』

 クラウスがパァッと顔を輝かせるが、香澄は首を傾げる。

『うーん……。なるべく普通の女の子がするようなデートがいいんです。今日みたいに注目されてしまうかもですが、自分で歩いてブラブラするような、普通の女の子がするデートを希望しています』

『ふぅん? まぁー、じゃあ普通に百貨店とかまわって買い物する? カスミに似合いそうな服とか、セレクトしてあげよっか』

『あ、そういうのいいですね。小物もお願いします』

 双子とのデート内容が決まっていくのを、香澄の隣で佑が無表情で聞いている。
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