502 / 1,559
第九部・贖罪 編
タヌキの置物
しおりを挟む
『あれは体の悪いところに煙をかけると、調子が良くなると言われているやつですね。本当は身を清めるためっぽいです』
『神社にある手を清めるのと同じようなものか』
『そうです。あと、私の事はもっと気軽に香澄と呼んでくださっていいですよ』
『ああ、分かった』
人でごったがえしているが、双子とマティアスは面白がって煙を浴びる。
香澄と佑も、人が大勢いるので押しのけて……とはいかないが、離れたところで浴びたつもりになっていた。
『手と口を清めておきましょうか』
手水舎に向かうと、香澄はバッグからタオルハンカチを取りだし、作法にのっとって手と口を清める。
マティアスが不思議そうに見ていたので、もう一度清めつつ丁寧に教えてあげた。
ハッとして北海道神宮でのお賽銭格差を思い出し、香澄は前もって意地を張りつつ言う。
『マティアスさん、お賽銭は五円でも十分気持ちがこもっていればいいんですからね。ほら、日本語でも〝ご縁があるように〟って言いますし』
懸命に小銭派を増やそうとしていると、アロイスがニヤッと笑ってマティアスの肩を組んだ。
『マティアス、金あるなら沢山落としてけよ。その金がこの寺を守り、存続させていくためのものになる。語呂合わせのいい小銭よりも、大金の方が寺だって嬉しいはずだって』
『……確かに、そうだな』
(あああ……!)
双子はたまにこうやって、よく分からない意地悪をする。
「香澄、気にするな。幾らだっていいんだよ」
「……そういう佑さんだって、惜しげもなく一万円入れるくせに……」
「…………幾らだっていいからな」
香澄を励ましたつもりが恨みがましく言われ、佑はもう一度同じ言葉を繰り返すと、ポンポンと頭を撫でてきた。
そして本堂でお参りをする。
ハッとマティアスを見ると、今にも柏手を打ちそうだったので、思わず腕に飛びついて止めた。
『お寺はパチパチしないんですよ』
『なるほど』
『お賽銭を入れて、合掌……両手を合わせて一礼、なむなむして最後に一礼です』
『理解した』
チラッと双子を見ると、「有名な寺だからご利益も大きいのかな」と言いつつやはり一万円札を入れている。佑もその隣で一万円札を入れ、静かに手を合わせていた。
(うう……。私は五円で初志貫徹だもん)
コソコソと小銭入れから五円玉を出し、香澄は自分もお賽銭を入れて参拝をした。
『さて、これからどこ行く? もう割と時間が遅いね?』
先にスカイツリーや併設した商業施設もまわったので、もう十八時近くなっている。
『じゃあー……。居酒屋でも行きましょうか。のんびりお酒飲みましょう』
ゆっくり歩き出しつつ、香澄はスマホでタヌキの信楽焼を置いてある居酒屋を検索しだす。
だがなかなかヒットしなくてうんうん唸っていると、佑が声を掛けてくれた。
「有楽町に知り合いがやっている居酒屋があるから、そこに行くか? 小さいが一応店先にタヌキの置物もあるし、個室があって落ち着く店なんだ」
「ぜひ! さすが佑さん!」
ぱぁっと顔を輝かせると、佑はまんざらでもない顔をする。
けれど、自分は秘書なのにこんなんじゃ駄目だな……と反省するのだった。
**
車で有楽町まで移動し、ビルを上がると、確かに店先にタヌキの置物がある。
『なるほど……』
マティアスがしゃがみ込み、しげしげとタヌキの置物を見つめ、撫で回す。
最後にスマホで色んな角度から写真を撮り、満足したようだ。
「いらっしゃいませ、御劔様」
店内は間接照明で照らされた、バーのように落ち着いた雰囲気だ。
男性が出てきて佑と挨拶をすると、「お席を用意してあります」と個室へ先導してくれた。
店内は全席個室が売りのようで、引き戸越しに人の笑い声などが聞こえるが、他の客と鉢合わせる確率が低くプライバシーが守られている。。
「わぁ、素敵」
通された個室は一番いい夜景が見える部屋らしい。
「香澄、どっちに座る?」
佑に言われ、香澄は窓側かドア側か一瞬迷う。
だが酒を飲むとトイレが近くなる事を考え、ドア側にしておいた。
隣には当たり前に佑が座り、向かいに双子、マティアスが座る。
双子はさっそくおしぼりで手を拭きつつ、メニューを広げて「何の酒にしよっかなぁ」と視線を走らせていた。
『神社にある手を清めるのと同じようなものか』
『そうです。あと、私の事はもっと気軽に香澄と呼んでくださっていいですよ』
『ああ、分かった』
人でごったがえしているが、双子とマティアスは面白がって煙を浴びる。
香澄と佑も、人が大勢いるので押しのけて……とはいかないが、離れたところで浴びたつもりになっていた。
『手と口を清めておきましょうか』
手水舎に向かうと、香澄はバッグからタオルハンカチを取りだし、作法にのっとって手と口を清める。
マティアスが不思議そうに見ていたので、もう一度清めつつ丁寧に教えてあげた。
ハッとして北海道神宮でのお賽銭格差を思い出し、香澄は前もって意地を張りつつ言う。
『マティアスさん、お賽銭は五円でも十分気持ちがこもっていればいいんですからね。ほら、日本語でも〝ご縁があるように〟って言いますし』
懸命に小銭派を増やそうとしていると、アロイスがニヤッと笑ってマティアスの肩を組んだ。
『マティアス、金あるなら沢山落としてけよ。その金がこの寺を守り、存続させていくためのものになる。語呂合わせのいい小銭よりも、大金の方が寺だって嬉しいはずだって』
『……確かに、そうだな』
(あああ……!)
双子はたまにこうやって、よく分からない意地悪をする。
「香澄、気にするな。幾らだっていいんだよ」
「……そういう佑さんだって、惜しげもなく一万円入れるくせに……」
「…………幾らだっていいからな」
香澄を励ましたつもりが恨みがましく言われ、佑はもう一度同じ言葉を繰り返すと、ポンポンと頭を撫でてきた。
そして本堂でお参りをする。
ハッとマティアスを見ると、今にも柏手を打ちそうだったので、思わず腕に飛びついて止めた。
『お寺はパチパチしないんですよ』
『なるほど』
『お賽銭を入れて、合掌……両手を合わせて一礼、なむなむして最後に一礼です』
『理解した』
チラッと双子を見ると、「有名な寺だからご利益も大きいのかな」と言いつつやはり一万円札を入れている。佑もその隣で一万円札を入れ、静かに手を合わせていた。
(うう……。私は五円で初志貫徹だもん)
コソコソと小銭入れから五円玉を出し、香澄は自分もお賽銭を入れて参拝をした。
『さて、これからどこ行く? もう割と時間が遅いね?』
先にスカイツリーや併設した商業施設もまわったので、もう十八時近くなっている。
『じゃあー……。居酒屋でも行きましょうか。のんびりお酒飲みましょう』
ゆっくり歩き出しつつ、香澄はスマホでタヌキの信楽焼を置いてある居酒屋を検索しだす。
だがなかなかヒットしなくてうんうん唸っていると、佑が声を掛けてくれた。
「有楽町に知り合いがやっている居酒屋があるから、そこに行くか? 小さいが一応店先にタヌキの置物もあるし、個室があって落ち着く店なんだ」
「ぜひ! さすが佑さん!」
ぱぁっと顔を輝かせると、佑はまんざらでもない顔をする。
けれど、自分は秘書なのにこんなんじゃ駄目だな……と反省するのだった。
**
車で有楽町まで移動し、ビルを上がると、確かに店先にタヌキの置物がある。
『なるほど……』
マティアスがしゃがみ込み、しげしげとタヌキの置物を見つめ、撫で回す。
最後にスマホで色んな角度から写真を撮り、満足したようだ。
「いらっしゃいませ、御劔様」
店内は間接照明で照らされた、バーのように落ち着いた雰囲気だ。
男性が出てきて佑と挨拶をすると、「お席を用意してあります」と個室へ先導してくれた。
店内は全席個室が売りのようで、引き戸越しに人の笑い声などが聞こえるが、他の客と鉢合わせる確率が低くプライバシーが守られている。。
「わぁ、素敵」
通された個室は一番いい夜景が見える部屋らしい。
「香澄、どっちに座る?」
佑に言われ、香澄は窓側かドア側か一瞬迷う。
だが酒を飲むとトイレが近くなる事を考え、ドア側にしておいた。
隣には当たり前に佑が座り、向かいに双子、マティアスが座る。
双子はさっそくおしぼりで手を拭きつつ、メニューを広げて「何の酒にしよっかなぁ」と視線を走らせていた。
34
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」
三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。
一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。
「忘れたとは言わせねぇぞ?」
偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。
「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」
その溺愛からは、もう逃れられない。
*第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる