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第九部・贖罪 編
話し合いのあとで
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『アドラーさんは、これからどうされるんですか?』
妻を見つめてニコニコと食事をしていたアドラーに、香澄が質問をする。
すると、先ほどまでと比べてぐっと雰囲気を柔らかくした彼が微笑んだ。
『節子としばらく日本を満喫しようと思う。日本列島を縦断して温泉に入ってもいいな』
『随分と心を入れ替えたようね』
節子のやんわりとした嫌みにも、アドラーはニコニコしたままだ。
その様子から、本当に彼が節子にベタ惚れなのが分かる。
『楽しんでくださいね』
老夫婦に向かってそう言いつつ、香澄はすべての事に無事決着がついて安堵していた。
(良かった……)
佑が訴えると言い出した時は、どうなる事かと思った。
結局ものすごい大金を受け取ってしまったが、佑が彼らと絶縁せずに済んで良かった。
(お金もどうするか、考えないとなぁ)
はぷ、と茶碗蒸しをすくって口に入れ、出汁のきいた優しい味をゆっくり味わう。
(私的に使うには戸惑っちゃうお金だし、将来のために貯蓄って言っても、きっとあんな金額使い切れない。佑さんたちみたいな、不動産とか乗り物とかの買い物も考えられないし。ちょっとだけ残して、どこかに寄付とかもいいよね)
そこまで考えて、すぐ金を使う事を考えてしまう自分にフルフルと首を振った。
(いや、もしかしたら無かった事になって、お金を返さないといけないかもしれないし、数年は手つかずでそのままにしておこう。本当に本当だって分かったら、そのとき改めて考えればいいんだ)
示談金を返すなどあり得ないのだが、香澄は現実味のない金額をいまだ信じていない。
「香澄、せっかくだからこの後、どこかデートするか?」
「ん?」
隣に座っていた佑に話しかけられ、香澄は意識を現実に引き戻す。
「疲れてるか? 随分気を張らせてしまったし、なんなら帰ってゆっくりしてもいいし」
「うーん……」
調子はいい。
むしろ、このところの頭に霧がかかっていた状態が解消されて絶好調だ。
不意に黙々と食事をしているマティアスを見て、彼の日本好きにお節介を焼きたくなった。
『マティアスさん、もしご迷惑でなければ一緒に東京観光しませんか? 一緒にタヌキの置物のある居酒屋行ってもいいですし』
佑は自分がデートに誘ったというのに、香澄がいきなりマティアスを誘いだしたので目を剥いている。
煮物を食べていたマティアスは、口の中の物を呑み込むまで香澄を見つめ、嚥下してから淡々と答える。
『その誘いは素直に嬉しい。だが隣でカイがすごい顔をしているが、いいのか?』
言われて「えっ?」となり、香澄は佑の顔を覗き込む。
が、彼はいつものイケメンのままだ。
しかしその目は随分何か言いたげでもある。
『佑さんとは……ほら、いつでもデートできますし。マティアスさんたちはすぐドイツに戻ってしまうでしょう? その前に思い出を作ってもいいんじゃないかな? って』
いつでもデートできるの言葉に、佑が項垂れた。
「あっ……、た、佑さん、ごめんなさい。軽んじてる訳じゃなくて……」
「別にいいよ。俺はいつでも家にいるお父さんみたいな存在だし?」
「あああ……」
すっかりいじけてしまった佑に香澄は頭を抱え、彼の耳元に顔を寄せると、コソッと囁いた。
「明日、アロイスさんとクラウスさんとのデートが終わったら、夜にたっぷりイチャイチャしよ?」
佑だけに聞こえるように囁いてジッと見つめると、佑はすぐに機嫌を直した。
「……仕方ないな」
快く受け入れてくれ、胸を撫で下ろした時、双子にはやしたてられた。
「タスクやーらしぃ。今すっげぇオヤジ顔してた。なにエッチなこと囁かれたの?」
「黙れ」
「カスミ、僕にもエッチなこと言って?」
「やめろ」
いつもの応酬をしていると、それまで沈黙していた節子がにっこりと微笑んだ。
「アロイシー、クラウシー? 香澄さんにセクハラしたら、許しませんよ?」
ある意味クラウザー家で一番の権力を持つ節子に怒られ、スンッと双子が大人しくなる。
そんな双子を見て香澄は久しぶりに心から笑ったのだった。
**
妻を見つめてニコニコと食事をしていたアドラーに、香澄が質問をする。
すると、先ほどまでと比べてぐっと雰囲気を柔らかくした彼が微笑んだ。
『節子としばらく日本を満喫しようと思う。日本列島を縦断して温泉に入ってもいいな』
『随分と心を入れ替えたようね』
節子のやんわりとした嫌みにも、アドラーはニコニコしたままだ。
その様子から、本当に彼が節子にベタ惚れなのが分かる。
『楽しんでくださいね』
老夫婦に向かってそう言いつつ、香澄はすべての事に無事決着がついて安堵していた。
(良かった……)
佑が訴えると言い出した時は、どうなる事かと思った。
結局ものすごい大金を受け取ってしまったが、佑が彼らと絶縁せずに済んで良かった。
(お金もどうするか、考えないとなぁ)
はぷ、と茶碗蒸しをすくって口に入れ、出汁のきいた優しい味をゆっくり味わう。
(私的に使うには戸惑っちゃうお金だし、将来のために貯蓄って言っても、きっとあんな金額使い切れない。佑さんたちみたいな、不動産とか乗り物とかの買い物も考えられないし。ちょっとだけ残して、どこかに寄付とかもいいよね)
そこまで考えて、すぐ金を使う事を考えてしまう自分にフルフルと首を振った。
(いや、もしかしたら無かった事になって、お金を返さないといけないかもしれないし、数年は手つかずでそのままにしておこう。本当に本当だって分かったら、そのとき改めて考えればいいんだ)
示談金を返すなどあり得ないのだが、香澄は現実味のない金額をいまだ信じていない。
「香澄、せっかくだからこの後、どこかデートするか?」
「ん?」
隣に座っていた佑に話しかけられ、香澄は意識を現実に引き戻す。
「疲れてるか? 随分気を張らせてしまったし、なんなら帰ってゆっくりしてもいいし」
「うーん……」
調子はいい。
むしろ、このところの頭に霧がかかっていた状態が解消されて絶好調だ。
不意に黙々と食事をしているマティアスを見て、彼の日本好きにお節介を焼きたくなった。
『マティアスさん、もしご迷惑でなければ一緒に東京観光しませんか? 一緒にタヌキの置物のある居酒屋行ってもいいですし』
佑は自分がデートに誘ったというのに、香澄がいきなりマティアスを誘いだしたので目を剥いている。
煮物を食べていたマティアスは、口の中の物を呑み込むまで香澄を見つめ、嚥下してから淡々と答える。
『その誘いは素直に嬉しい。だが隣でカイがすごい顔をしているが、いいのか?』
言われて「えっ?」となり、香澄は佑の顔を覗き込む。
が、彼はいつものイケメンのままだ。
しかしその目は随分何か言いたげでもある。
『佑さんとは……ほら、いつでもデートできますし。マティアスさんたちはすぐドイツに戻ってしまうでしょう? その前に思い出を作ってもいいんじゃないかな? って』
いつでもデートできるの言葉に、佑が項垂れた。
「あっ……、た、佑さん、ごめんなさい。軽んじてる訳じゃなくて……」
「別にいいよ。俺はいつでも家にいるお父さんみたいな存在だし?」
「あああ……」
すっかりいじけてしまった佑に香澄は頭を抱え、彼の耳元に顔を寄せると、コソッと囁いた。
「明日、アロイスさんとクラウスさんとのデートが終わったら、夜にたっぷりイチャイチャしよ?」
佑だけに聞こえるように囁いてジッと見つめると、佑はすぐに機嫌を直した。
「……仕方ないな」
快く受け入れてくれ、胸を撫で下ろした時、双子にはやしたてられた。
「タスクやーらしぃ。今すっげぇオヤジ顔してた。なにエッチなこと囁かれたの?」
「黙れ」
「カスミ、僕にもエッチなこと言って?」
「やめろ」
いつもの応酬をしていると、それまで沈黙していた節子がにっこりと微笑んだ。
「アロイシー、クラウシー? 香澄さんにセクハラしたら、許しませんよ?」
ある意味クラウザー家で一番の権力を持つ節子に怒られ、スンッと双子が大人しくなる。
そんな双子を見て香澄は久しぶりに心から笑ったのだった。
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