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第九部・贖罪 編
富豪たち
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『あ、こいつね。いつだったか死のうかと思った時に、宝くじを一枚買って、一等当たって四十億円ぐらいゲットしたんだよ。おっかしーでしょ。それで死ぬのやめたんだって。〝まだツキは持ってる〟って! あはは!』
『その金でさらに投資してるから、金の事は心配しなくていいよ!』
桁の違う金額が出て香澄が目をまん丸にしていると、剣崎が口を開いた。
『では示談書を作成致しますね』
彼は持って来たノートパソコンで書類を制作し始める。
『頼みます。お前達は領収証の準備をしておいてくれ』
きっちりと手続きをこなす佑の様子を見て、香澄は軽い諦めを覚えた。
『いつ送金にする? それ用の口座はすでに作らせてあるが』
『あ!』
佑の言葉を聞き、香澄はある事を思いだし声を上げる。
今まで香澄が持っていたのは、郵便貯金の口座と、北海道の地方銀行の口座のみだった。
それが東京に来てから、給料の振り込み手続きの関係で東京に本社を置く銀行を一つ、加えて「とりあえず作っておいて」と言われて日本の銀行口座をさらに二つ、インターネットの海外口座も作らされた。
基本的に香澄は給料が振り込まれる口座しか見ておらず、もう一つの東京の日本口座は貯金する金を置く場所として使っていた。
残る一つは使い道が考えられないので放置している。
……ところを佑につけこまれ、じわじわと金を入れられているのを彼女は気付いていない。
海外口座については、出張やら旅行やらで頻繁に海外に行くので、その時にドルに換金せずに済むように……という説明を受けた。
それについては納得したのだが、使う事はないのでは……と思っていた矢先にこれだ。
まさか見越していたとは思わないが、用意周到さが実を結んで呆れを通り越してお見事としか言い様がない。
『タスクー、カスミの口座番号教えて』
『この口座に入れてくれ。香澄は日本円の方が使いやすいだろうから、レート換算をした上で所定の額を下回らないように頼む』
佑はいつのまに覚えたのか、香澄の口座の番号をメモに書き、四人の前に出す。
『え……っ? ちょ……』
うろたえている香澄の前で、ポンポンポン、と実に手軽なステップで巨額の金が振り込まれてしまった。
『松井さん、送金額が三千万を越えてしまうので、あとで報告書の準備をお願いします』
『畏まりました』
『え、ああ、うう!』
そういう決まりがあるのも知らず、松井の手を煩わせてしまう事に香澄はうなる。
『香澄、お金はあとから銀行がレート換算をして日本円にする。その分タイムラグと多少の金額の誤差が生まれるけど、口座にしっかり七億以上入ったら確認として教えて』
『は……、はい……』
眩暈を覚えた香澄は、ソファの背もたれに体を預けてうめく。
そんな彼女がとても参っているように見えたのか、佑は少しだけ申し訳なさそうな顔で言う。
『言っておくが、この金額でもこいつらには大して痛い額じゃないからな?』
それにクラウスが頷いた。
『そうそう! 総資産の何分の一でもないからだいじょーぶ』
『お前、そういうこと言うなら、もっとむしり取るぞ』
佑に睨まれた、クラウスは『やべぇ』と舌を出す。
『香澄さん、こんなはした金でいいの? あなたはもっと請求する権利があるのよ?』
節子が香澄の手を握り、七億円を「はした金」ととんでもない事を言ってくる。
『あ……、あの……、ちょっと休憩させてください……。お金の額が大きすぎて、頭おかしくなりそうで……』
胸に手を当て、香澄はすっはすっはとせわしなく呼吸を繰り返す。
いつだったかショーウィンドウで見た綺麗なトパーズの指輪、ネックレス、ピアスのセットがあり、誕生石な事もあっていつか欲しいなと思っていた。
ただダイヤモンドも一緒にあしらわれていた事もあって、全部揃えるとなると十万円以上かかる。
佑に言えばポンと買われてしまうので、香澄は「いつかのご褒美」として胸の奥に大事にしまっておいた。
あれが一体、幾つ買えるのだろう? と頭の中で疑問符がいくつも浮かび上がる。
(でもそうじゃない。このお金は、そういうものと並べて考えたらいけないんだ)
あまりの大金は人をおかしくする。
そう思った香澄は、まず七億円という数字から意識を切り離す事にした。
「……佑さん、この書類、もう必要ないよね?」
テーブルの上に並べられた訴状を見て、香澄はまず書類の破棄を望む。
「……これで終わりにしていいと香澄が望むなら……、必要ないだろうな」
「うん、いらない。……剣崎さん、せっかく作ってくださったのにすみません」
香澄は四セットの書類をかき集め、トントンと揃えてから二つ折りにし、半分に切ってしまう。
『その金でさらに投資してるから、金の事は心配しなくていいよ!』
桁の違う金額が出て香澄が目をまん丸にしていると、剣崎が口を開いた。
『では示談書を作成致しますね』
彼は持って来たノートパソコンで書類を制作し始める。
『頼みます。お前達は領収証の準備をしておいてくれ』
きっちりと手続きをこなす佑の様子を見て、香澄は軽い諦めを覚えた。
『いつ送金にする? それ用の口座はすでに作らせてあるが』
『あ!』
佑の言葉を聞き、香澄はある事を思いだし声を上げる。
今まで香澄が持っていたのは、郵便貯金の口座と、北海道の地方銀行の口座のみだった。
それが東京に来てから、給料の振り込み手続きの関係で東京に本社を置く銀行を一つ、加えて「とりあえず作っておいて」と言われて日本の銀行口座をさらに二つ、インターネットの海外口座も作らされた。
基本的に香澄は給料が振り込まれる口座しか見ておらず、もう一つの東京の日本口座は貯金する金を置く場所として使っていた。
残る一つは使い道が考えられないので放置している。
……ところを佑につけこまれ、じわじわと金を入れられているのを彼女は気付いていない。
海外口座については、出張やら旅行やらで頻繁に海外に行くので、その時にドルに換金せずに済むように……という説明を受けた。
それについては納得したのだが、使う事はないのでは……と思っていた矢先にこれだ。
まさか見越していたとは思わないが、用意周到さが実を結んで呆れを通り越してお見事としか言い様がない。
『タスクー、カスミの口座番号教えて』
『この口座に入れてくれ。香澄は日本円の方が使いやすいだろうから、レート換算をした上で所定の額を下回らないように頼む』
佑はいつのまに覚えたのか、香澄の口座の番号をメモに書き、四人の前に出す。
『え……っ? ちょ……』
うろたえている香澄の前で、ポンポンポン、と実に手軽なステップで巨額の金が振り込まれてしまった。
『松井さん、送金額が三千万を越えてしまうので、あとで報告書の準備をお願いします』
『畏まりました』
『え、ああ、うう!』
そういう決まりがあるのも知らず、松井の手を煩わせてしまう事に香澄はうなる。
『香澄、お金はあとから銀行がレート換算をして日本円にする。その分タイムラグと多少の金額の誤差が生まれるけど、口座にしっかり七億以上入ったら確認として教えて』
『は……、はい……』
眩暈を覚えた香澄は、ソファの背もたれに体を預けてうめく。
そんな彼女がとても参っているように見えたのか、佑は少しだけ申し訳なさそうな顔で言う。
『言っておくが、この金額でもこいつらには大して痛い額じゃないからな?』
それにクラウスが頷いた。
『そうそう! 総資産の何分の一でもないからだいじょーぶ』
『お前、そういうこと言うなら、もっとむしり取るぞ』
佑に睨まれた、クラウスは『やべぇ』と舌を出す。
『香澄さん、こんなはした金でいいの? あなたはもっと請求する権利があるのよ?』
節子が香澄の手を握り、七億円を「はした金」ととんでもない事を言ってくる。
『あ……、あの……、ちょっと休憩させてください……。お金の額が大きすぎて、頭おかしくなりそうで……』
胸に手を当て、香澄はすっはすっはとせわしなく呼吸を繰り返す。
いつだったかショーウィンドウで見た綺麗なトパーズの指輪、ネックレス、ピアスのセットがあり、誕生石な事もあっていつか欲しいなと思っていた。
ただダイヤモンドも一緒にあしらわれていた事もあって、全部揃えるとなると十万円以上かかる。
佑に言えばポンと買われてしまうので、香澄は「いつかのご褒美」として胸の奥に大事にしまっておいた。
あれが一体、幾つ買えるのだろう? と頭の中で疑問符がいくつも浮かび上がる。
(でもそうじゃない。このお金は、そういうものと並べて考えたらいけないんだ)
あまりの大金は人をおかしくする。
そう思った香澄は、まず七億円という数字から意識を切り離す事にした。
「……佑さん、この書類、もう必要ないよね?」
テーブルの上に並べられた訴状を見て、香澄はまず書類の破棄を望む。
「……これで終わりにしていいと香澄が望むなら……、必要ないだろうな」
「うん、いらない。……剣崎さん、せっかく作ってくださったのにすみません」
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