【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第九部・贖罪 編

アドラーと節子の過去

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『……私はフランクが憎い。……フランクというのはエミリアの祖父だ。メイヤーズという有名な保険屋をやっていて、ドイツ国内では私とフランクで派閥ができている。……そんな存在だ』

『佑さんから、何となくは聞いています』

 アドラーはゆっくりと頷き、またしばらく沈黙する。

 何度も口を開きかけ、何かを言おうとする。
 しかしどうやら決意がつかないようで、アドラーの口から続きが語られる事はない。

 ふと、それまで口を閉ざしていた節子が「もう」と溜め息をついた。

『あなたはいつまで経っても駄目ね? いいわ、私から話します』

 それまで無関係だと思っていた節子が会話に参加し、香澄だけでなく佑も、双子もマティアスも節子を注視する。
 節子はその美貌に底知れない微笑みをたたえ、アロイスとクラウスをまっすぐ見据える。

『エルマーはこの人の子じゃないの』

 エルマーとは、双子の父でアドラーと節子の次男だ。
 一瞬、全員が節子の言葉を理解できず、心に疑問符を浮かべる。

『私は、フランクさんに言い寄られていたわ。そして一度、誘拐された挙げ句、関係を迫られた事があったの』

「…………っ」

 香澄はとっさに節子の手を握った。

 ――それ以上言ってはいけない。

 首を左右に振るが、節子は泰然自若として微笑んだままだ。

『迫られたと言っても、私に拒否権はなかったわね。ただ蹂躙されたわ。……そしてエルマーを身ごもった』

 双子は顔面蒼白になっていた。

 まさか自分の父親がクラウザー一族の人間ではないと、思った事すらなかっただろう。
 そして自分たちは、大好きな祖母が強姦された果てに産んだ子供の息子だった。

 彼らはいつもの陽気さからは想像できない、絶望した表情を浮かべている。

『でもこの人は、エルマーを生んでクラウザー家の子供として育てる事を許してくれた。途中でフランクさんがエルマーを奪おうとした事もあったけれど、この人はエルマーを守ってくれたわ。……それから、この人は〝家族〟というものにこだわり始めたの』

「……あぁ……」

 アドラーの一族意識の根底を知り、香澄はうめく。

 ドイツ人は家族、一族を大切にすると聞いていた。
 アドラーもいつも、家族や一族を愛し一番に扱う言葉を口にしていた。

 けれど、それだけじゃない。

 彼が自分の〝家族〟を平等に愛し、大切にする裏には、とても悲しい事件があったのだ。

『アロイシー、クラウシー、そんな顔をしないの。私はエルマーを生んで良かったと思っているわ。あの子を心から愛している。あなた達の事も大好きよ。だからそんな、天に見放されたような顔をしないで』

 節子に優しく言われ、双子は涙ぐんでいた目元を手で拭う。
 それから、双子はアドラーを見る。

『オーパ、僕らの事を憎んでないの?』

 クラウスの問いに、アドラーは緩く首を横に振る。

『お前たちは私の家族だ。何があっても守り抜くと妻に誓った。……だが私はこの歳になっても、フランクに一矢報いたいと望んでいた。……そしてマティアスからエミリアの悪事を聞き、これが最後のチャンスだと思ってしまった』

 アドラーは青い目に涙を浮かべ、香澄に謝罪する。

『節子にされた事を知って、女性を守るNPO法人まで立ち上げておいて……、私は香澄さんに酷い仕打ちをしてしまった。……っ本当に、申し訳ない……っ。どうしても私は……、妻の敵を討ちたかった……っ』

〝クラウザーの獅子〟と呼ばれた世界経済界の重鎮が、ただ一人、愛する妻を想って泣き崩れる。

 双子は自分たちの出生を知り、互いに肩を組んで寄り添っていた。
 佑もマティアスも口を噤み、何も言えない。

 アドラーは先ほどのマティアスと同じように、床に座り込んで頭を下げた。

『妻のためなら、私は何だってできる。……たとえ新しい家族になる香澄さんであろうとも、手駒として使う事を選択してしまった……。……だから、本当に私に対しては、どんな裁きを与えてもいい。……ただ、これは私怨だ。他は妻も誰も、関係ない』

 夫の告白を聞き、節子は微笑んで「馬鹿な人ね」と呟く。

 強すぎる節子への愛を思い知らされ、香澄は打ちのめされていた。

 世の中に、こんなに強い愛情があると知らなかった。

 愛する妻を強姦され、その子供を育てた彼はどんな気分だっただろう。

 アドラーはエルマーと自分の子と区別しないために、〝家族〟〝一族〟を重視してきた。
 クラウザー一族の中で、その本当の意味を知る者は一体どれだけいるのだろう。

 こんな状況にならなければ、アドラーと節子は思い出したくない過去を振り返らずに済んだのではないだろうか。

『……エルマーさんは……、ご存知なんですか?』

 香澄の質問に、アドラーは頷く。
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