【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第九部・贖罪 編

名もなき野の花

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「あ……、じゃあアドラーさんも来ているの?」

 セットで思い出した人物について尋ねたが、佑はゆっくりと首を振る。

「今はオーマのみだ。……香澄は爺さんに会うのは嫌だろう?」

 窺うように尋ねられ、香澄は髪を揺らして首を横に振る。

「どうして嫌だと思うの? 色々あったけど、私はアドラーさん自身に加害された訳じゃないもの。佑さんと結婚したら義理のお祖父さんになるんだし、仲良くしたいと思ってるよ」

 頭はぼんやりしていても、香澄は覚えていた。
 彼女の返事を聞いて、佑は細く長く息を吐いてゆく。

「……香澄。その〝色々あった〟で、君はとても傷ついたはずだ。それでもか?」

 ふ……とマティアスに犯されたと思った時の恐怖を思い出し、全身に悪寒が走る。
 香澄はバッと立ち上がると、テーブルを回り込んで佑の膝の上に乗った。

「……っと」

 ギュウッと抱きつくと、すぐに佑も抱き締め返してくれる。

 あれから佑は宣言通り、毎日暇さえあれば香澄を抱いてくれるようになった。
 朝も起きてすぐ僅かな時間で一回してから出社する。
 可能なら昼間に家に顔を出し、夜は夜で腰が立たなくなるほど求められる。

 だからか、香澄も〝佑に愛されている〟という自信がついて、気持ちもしっかりしてきた。

「――佑さんがいてくれるなら、怖くない」

 不安になれば、佑を呼べばいい。彼に触ってもらえばいい。
 学習した香澄は、彼女なりに現実に立ち向かおうとしていた。

 強がった声が少し震えていたからか、佑が口元で小さく「ごめん」と呟く。
 きつく抱き締められ、香澄は佑の胸板に顔を押しつけられる。

 自分からも佑を思いきり抱き締めて、伝えられる気持ちを口にした。

「……私、今までずっと、あまりに情けなかった」
「そう思わなくていい」

「まだ、本調子じゃないから、もうちょっと迷惑をかけちゃうかもしれない」
「迷惑なんて思ってない。甘えてくれ」

「でも、いつまでも立ち止まっている訳にはいかない。少しずつちゃんと前を向いて、歩く訓練をしないといけないの。佑さんっていう補助輪があるから、私はきっとできる」

 佑は微かに息をつき、香澄の頭に頬をつけポンポンと背中を撫でてきた。

「……そんな君を誇りに思うよ」
「全部、佑さんがいてくれるからだよ」

 大好きな彼の香りを吸い込み、香澄は静かに決意する。

「……アドラーさんに会っても、全然大丈夫。アロイスさんとクラウスさんともちゃんと会って話をしたい。マティアスさんがきちんと謝ってくれるなら、聞き入れたい」

 エミリアは……と思ったが、恐らく彼女は自分と会話できる環境にないのだろう。

「佑さん、私のスマホが修理中っていうの、嘘でしょ? きっと、アロイスさんとクラウスさんとかから連絡が来るのを嫌がってる?」

 一度覚悟し、きちんと考え始めると、香澄の思考はどんどん明朗になっていく。
 正面から佑を見ると、彼は少しばつが悪そうな顔をし、唇を曲げる。

「……すまない」

「ううん、謝らなくていいよ。でも、もう大丈夫。私は落ち着いてきたし、佑さんが側にいてくれるなら立ち向かえる」

 踏まれて萎れていた花は、囲いの中でゆっくりと立ち上がり、自分の力でまっすぐ咲こうとしている。

 香澄は自分を名前のない野の花だと思っていた。
 咲くのに手をかけないといけない園芸種ではなく、一人でも咲ける野の花でありたい。

 時に雑草と思われる事もあるが、雑草というものは踏まれても強く生え続けるものだ。

 ――強くなりたい。
 ――好きな人の側にいるために、ただ、強くありたい。

 ひび割れた荒野であろうが、香澄という花はほんのりと香り、強く咲こうとしていた。

「分かった。近いうちに顔を合わせる場をセッティングしよう」
「うん」

 ――もう迷わない。

 決意した香澄は佑の手に指を絡め、もう一度彼によりかかって目を閉じた。



**



 九月二十一日の土曜日、香澄は佑とともに帝都ホテルへ向かった。

 ホテルには松井と河野も同行した。佑の顧問弁護士の剣崎もいる。

 佑はダークグレーのスーツを着ている。

 香澄も高級ホテルに行くとの事なので、黒のトップスにグレンチェックのロングタイトスカートを穿いた。
 靴も黒のTストラップシューズなので、バッグは差し色に赤を入れる。

 佑は話し合いのためにスイートルームをとったようで、河野がチェックインの手続きを取ったあと、まっすぐに部屋へ向かった。
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