【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

文字の大きさ
上 下
471 / 1,559
第九部・贖罪 編

この優しい人を困らせちゃいけない

しおりを挟む
 しばらくそうやって抱き合っていたが、佑が香澄の顎に手を掛け、顔を上向かせた。
 ヘーゼルの目が愛しそうに細められたかと思うと、香澄の額にキスをしてきた。

「香澄、不安な時はなんでも言ってみてごらん。何が不安なのか、今どんな感情なのか、一人でグルグル悩んでいるより、口に出した方がスッキリするから」

「……でも、メソメソしてる所を見せたくない」

 佑にこれ以上幻滅されたくない。

 そう思って俯くが、その顔をまた仰向けられた。
 しっかりと視線を合わせ、佑が告げる。

「俺は香澄の何を見ても失望しない。それは約束する。香澄だって人間だし、まだ俺が知らない顔があるのかもしれない。だが俺は香澄を選んで妻にすると決めた。俺たちは家族になるんだ。香澄のまるごとを受け入れてみせるよ」

 ――この人は、なんて綺麗な人なんだろう。

 善なる感情しか持っていないように見える佑が、とても尊く思える。

 ――それに引き換え……。

 と香澄は自分の内なる泥を見つめ、密かに溜め息をついた。

 感情はもうグチャグチャだ。

 冷静を装っているが、心の中はいつものように綺麗な〝面〟を見せてくれない。

 いつもなら香澄の心は凪いでいて、感情が揺さぶられた時だけ水面が乱れる程度だ。
 だが今は大時化が来た沖合の海のようで、絶えずうねって動き、高波が上がったかと思うと海底が見えそうなぐらい水面が沈む。

 こうやって佑に抱きついていないと、自分の心が怖くて叫んでしまいそうになる。
 心が動きすぎて、感情が追いついてこないのだ。

 喜んだ時、または酷く驚いた時に涙が出るように、理由となる感情の分からない涙が出てきてしまう。

 こういう事があったから、悲しくて泣いている。
 そういう明確な原因と結果が分からず、香澄は混乱していた。

 第三者から見れば、レイプされかけ、慕っていたエミリアから敵視され、双子やアドラーからも裏切られた形になり、「それはショックだね」と言うべき状況だろう。

 だが香澄は「大丈夫、平気」という感情をピンと貼り付かせ、動揺してうねっている心を綺麗な形にコーティングしていた。
 他の人からは、落ち着いていて状況を理解し納得したように見えるかもしれない。

 しかし〝いい子でいなければ〟というきまじめさがある香澄だからこそ、誰にも見えない心の底は荒れに荒れていた。

「……困らせちゃうよ。……私、どうなるか分からないの」

「いいよ。たくさん困らせてごらん? 俺は全部受け止めて、逆に香澄に『何でそこまでするの?』って言われるぐらい尽くすから」

 目の前で佑が優しく微笑む。
 その顔を見て、香澄の目から涙が零れた。

 ――ああ、駄目だ。
 ――この優しい人を困らせちゃいけない。
 ――早く落ち着いて、大丈夫にならないと。
 ――元の〝佑の秘書であり、望まれた婚約者の香澄〟にならなくては。

 だから、感情を解放したいという気持ちに重たい石の蓋をする。

 目を閉じて、イメージする。

 荒れ狂った黒い海の上に、とても大きくて重たい石の蓋を落とす。
 平らな蓋の下で感情の海は均され、蓋と共にゆっくりと暗い暗い深海へ沈んでゆく。

(大丈夫……。大丈夫。ちゃんとできるから)

 呼吸を整えて自分に言い聞かせ、香澄は佑の体から手を離す。

 ――この体に抱きついていると安心するけれど、いつまでも頼ったら駄目だ。
 ――彼の体は一つしかない。
 ――自分の個人的な欲のために、引き留めたら駄目。

 ――自分の事は自分で。
 ――大丈夫。きっと一人ででも何とかなる。

 ゆっくり心を落ち着かせていくと、香澄はぎこちなく微笑んだ。

「大丈夫だよ。もう落ち着いたから。明日は日曜日だけど、お風呂から出て寝よう? 佑さんの体調が一番大事」

〝いつものように〟佑を気遣うと、彼の表情が一瞬強張った。
 何か言いたそうに瞳が揺れ――、――しばらく黙ったあとに諦めたように息をつく。

「ん……。トリートメント、流そうか」

 そのあとまた佑の美容室が始まり、トリートメントが流される。

 けれどどこか二人の心は上の空だった。





「何か……勿体ないなぁ」

 佑の手が香澄の体に化粧水を押しつける。

 彼はありとあらゆるブランドの基礎化粧品を買い、香澄に与えた。

 だがその中にはどれだけ高価でも、香澄の肌に合わない物があった。顔につける物であればなおさらだ。
しおりを挟む
感想 560

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜

青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」 三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。 一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。 「忘れたとは言わせねぇぞ?」 偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。 「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」 その溺愛からは、もう逃れられない。 *第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...