上 下
468 / 1,544
第九部・贖罪 編

痒い所はございませんか?

しおりを挟む
 佑は内心安堵の溜め息をついていた。

 香澄に嘘をつかない。
 確かにそう言った。

 だが、「すぐにバレるような、やすい嘘はつかない」という意味でだ。

 彼女を守るためなら、たやすく嘘をつける。
 香澄以外の者からどれだけ「嘘つき」「卑怯者」と言われ誹られようが、佑は何も傷つかない。

 むしろ「好きな女を守って何が悪い?」と思っている。

 たった一人、香澄だけ守れればいいのだ。

 大人になり、自立した。
 会社も大きくなり、御劔佑という存在を世界中で認められている。

 そんな佑がたった一つ取り乱すのは、香澄の事のみだ。

 いつのまにか、香澄は佑にとってなくてならない存在となった。
 香澄のいない生活など考えられない。
 彼女を失う人生もあり得ない。

 みっともない、必死と言われようが、必ず守り抜いてみせる。

 たとえ、彼女を欺いたとしても――。



**



「痒い所はございませんか?」

 シャクシャクとシャンプーが泡立つ音がする。

「んふふ……。美容師さんがとっても上手なので、ありません」

 バスチェアに座った香澄は、佑に髪を洗われていた。

「んー……、いい匂い。このシャンプー大好きなの」
「陣内さんもイチオシのシャンプーだもんな」

 代官山にある二人が通っている美容室からも、随分足が遠のいている気がする。

「また行かないと、陣内さんに叱られちゃう」

「香澄と付き合う前は、ロングヘアってただ伸ばしていればいいのかと思ってたよ。でも綺麗なロングヘアをキープするのに、毛先をこまめに切ったり、マメにトリートメントしたり大変だな。それでこのサラサラで天使の輪がある髪が維持できるんだよな」

 随分と髪を褒めてくれるので、思わずおかしくなる。

「佑さんも頻繁に通ってるじゃない」

「俺の場合、イメチェンは面倒だからいつもの髪型をキープしているだけだよ。美容室でフットケアとハンドケアもしてもらっているし、一石二鳥かな」

 爪切りで爪を切ると、力の掛かり具合で爪によくない場合もあるので、佑はネイリストに爪磨きも含めすべて管理してもらっているらしい。

「目、閉じて」

 彼に言われて、香澄は俯いて目を閉じる。
 ザァァ……とマイクロバブルのシャワーが優しく降り注ぎ、佑の指が優しく髪を洗ってゆく。

「俺、体が二つあるなら香澄専属のヘアメイクとかマッサージ師になりたかったな」

 トリートメントを髪に揉み込みながら、佑は実に惜しそうに言う。

「ふふ、それ前にも聞いた事があるかも」
「香澄の体に触るのはやっぱり俺だけじゃないと嫌だな」

「もう……」

 苦笑するけれど、嬉しくて堪らない。

「私も佑さん専属になりたいな。肩たたきとかしかできないけど」
「ふふっ……。香澄がいきなり作ってきた肩たたき券は笑ったな」

 佑は思い出し笑いをしながら、香澄の髪をクリップで留める。

「あれ、実家のお父さんには好評だったんだけど」

 子供が思いつきそうな事だが、香澄はいつも疲れている佑を思い、肩たたき券を作った。

 ルーズリーフに十枚つづりで『肩たたき券』と書いた物に飾りなども描き込み、切り取り線を裁縫の針でプスプスと刺して本物のようにした。

 それとなく佑の書斎のデスクに置いておいたら、ある晩それを見つけた彼の笑い声が聞こえてガッツポーズを取ったものだ。

 以来、香澄はチケットを出されると、佑のマッサージを引き受けている。
 だが彼も香澄の疲労を気遣っているのか、じゃんじゃん使ってはくれない。

 香澄としては、毎日使ってくれてもいいと思っているし、彼に触れられる理由ができて嬉しい。

「あとは……デリヘルサービスKASUMIとか」

 冗談で言うと、佑が一瞬息を止めたのが分かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

処理中です...