468 / 1,549
第九部・贖罪 編
痒い所はございませんか?
しおりを挟む
佑は内心安堵の溜め息をついていた。
香澄に嘘をつかない。
確かにそう言った。
だが、「すぐにバレるような、やすい嘘はつかない」という意味でだ。
彼女を守るためなら、たやすく嘘をつける。
香澄以外の者からどれだけ「嘘つき」「卑怯者」と言われ誹られようが、佑は何も傷つかない。
むしろ「好きな女を守って何が悪い?」と思っている。
たった一人、香澄だけ守れればいいのだ。
大人になり、自立した。
会社も大きくなり、御劔佑という存在を世界中で認められている。
そんな佑がたった一つ取り乱すのは、香澄の事のみだ。
いつのまにか、香澄は佑にとってなくてならない存在となった。
香澄のいない生活など考えられない。
彼女を失う人生もあり得ない。
みっともない、必死と言われようが、必ず守り抜いてみせる。
たとえ、彼女を欺いたとしても――。
**
「痒い所はございませんか?」
シャクシャクとシャンプーが泡立つ音がする。
「んふふ……。美容師さんがとっても上手なので、ありません」
バスチェアに座った香澄は、佑に髪を洗われていた。
「んー……、いい匂い。このシャンプー大好きなの」
「陣内さんもイチオシのシャンプーだもんな」
代官山にある二人が通っている美容室からも、随分足が遠のいている気がする。
「また行かないと、陣内さんに叱られちゃう」
「香澄と付き合う前は、ロングヘアってただ伸ばしていればいいのかと思ってたよ。でも綺麗なロングヘアをキープするのに、毛先をこまめに切ったり、マメにトリートメントしたり大変だな。それでこのサラサラで天使の輪がある髪が維持できるんだよな」
随分と髪を褒めてくれるので、思わずおかしくなる。
「佑さんも頻繁に通ってるじゃない」
「俺の場合、イメチェンは面倒だからいつもの髪型をキープしているだけだよ。美容室でフットケアとハンドケアもしてもらっているし、一石二鳥かな」
爪切りで爪を切ると、力の掛かり具合で爪によくない場合もあるので、佑はネイリストに爪磨きも含めすべて管理してもらっているらしい。
「目、閉じて」
彼に言われて、香澄は俯いて目を閉じる。
ザァァ……とマイクロバブルのシャワーが優しく降り注ぎ、佑の指が優しく髪を洗ってゆく。
「俺、体が二つあるなら香澄専属のヘアメイクとかマッサージ師になりたかったな」
トリートメントを髪に揉み込みながら、佑は実に惜しそうに言う。
「ふふ、それ前にも聞いた事があるかも」
「香澄の体に触るのはやっぱり俺だけじゃないと嫌だな」
「もう……」
苦笑するけれど、嬉しくて堪らない。
「私も佑さん専属になりたいな。肩たたきとかしかできないけど」
「ふふっ……。香澄がいきなり作ってきた肩たたき券は笑ったな」
佑は思い出し笑いをしながら、香澄の髪をクリップで留める。
「あれ、実家のお父さんには好評だったんだけど」
子供が思いつきそうな事だが、香澄はいつも疲れている佑を思い、肩たたき券を作った。
ルーズリーフに十枚つづりで『肩たたき券』と書いた物に飾りなども描き込み、切り取り線を裁縫の針でプスプスと刺して本物のようにした。
それとなく佑の書斎のデスクに置いておいたら、ある晩それを見つけた彼の笑い声が聞こえてガッツポーズを取ったものだ。
以来、香澄はチケットを出されると、佑のマッサージを引き受けている。
だが彼も香澄の疲労を気遣っているのか、じゃんじゃん使ってはくれない。
香澄としては、毎日使ってくれてもいいと思っているし、彼に触れられる理由ができて嬉しい。
「あとは……デリヘルサービスKASUMIとか」
冗談で言うと、佑が一瞬息を止めたのが分かった。
香澄に嘘をつかない。
確かにそう言った。
だが、「すぐにバレるような、やすい嘘はつかない」という意味でだ。
彼女を守るためなら、たやすく嘘をつける。
香澄以外の者からどれだけ「嘘つき」「卑怯者」と言われ誹られようが、佑は何も傷つかない。
むしろ「好きな女を守って何が悪い?」と思っている。
たった一人、香澄だけ守れればいいのだ。
大人になり、自立した。
会社も大きくなり、御劔佑という存在を世界中で認められている。
そんな佑がたった一つ取り乱すのは、香澄の事のみだ。
いつのまにか、香澄は佑にとってなくてならない存在となった。
香澄のいない生活など考えられない。
彼女を失う人生もあり得ない。
みっともない、必死と言われようが、必ず守り抜いてみせる。
たとえ、彼女を欺いたとしても――。
**
「痒い所はございませんか?」
シャクシャクとシャンプーが泡立つ音がする。
「んふふ……。美容師さんがとっても上手なので、ありません」
バスチェアに座った香澄は、佑に髪を洗われていた。
「んー……、いい匂い。このシャンプー大好きなの」
「陣内さんもイチオシのシャンプーだもんな」
代官山にある二人が通っている美容室からも、随分足が遠のいている気がする。
「また行かないと、陣内さんに叱られちゃう」
「香澄と付き合う前は、ロングヘアってただ伸ばしていればいいのかと思ってたよ。でも綺麗なロングヘアをキープするのに、毛先をこまめに切ったり、マメにトリートメントしたり大変だな。それでこのサラサラで天使の輪がある髪が維持できるんだよな」
随分と髪を褒めてくれるので、思わずおかしくなる。
「佑さんも頻繁に通ってるじゃない」
「俺の場合、イメチェンは面倒だからいつもの髪型をキープしているだけだよ。美容室でフットケアとハンドケアもしてもらっているし、一石二鳥かな」
爪切りで爪を切ると、力の掛かり具合で爪によくない場合もあるので、佑はネイリストに爪磨きも含めすべて管理してもらっているらしい。
「目、閉じて」
彼に言われて、香澄は俯いて目を閉じる。
ザァァ……とマイクロバブルのシャワーが優しく降り注ぎ、佑の指が優しく髪を洗ってゆく。
「俺、体が二つあるなら香澄専属のヘアメイクとかマッサージ師になりたかったな」
トリートメントを髪に揉み込みながら、佑は実に惜しそうに言う。
「ふふ、それ前にも聞いた事があるかも」
「香澄の体に触るのはやっぱり俺だけじゃないと嫌だな」
「もう……」
苦笑するけれど、嬉しくて堪らない。
「私も佑さん専属になりたいな。肩たたきとかしかできないけど」
「ふふっ……。香澄がいきなり作ってきた肩たたき券は笑ったな」
佑は思い出し笑いをしながら、香澄の髪をクリップで留める。
「あれ、実家のお父さんには好評だったんだけど」
子供が思いつきそうな事だが、香澄はいつも疲れている佑を思い、肩たたき券を作った。
ルーズリーフに十枚つづりで『肩たたき券』と書いた物に飾りなども描き込み、切り取り線を裁縫の針でプスプスと刺して本物のようにした。
それとなく佑の書斎のデスクに置いておいたら、ある晩それを見つけた彼の笑い声が聞こえてガッツポーズを取ったものだ。
以来、香澄はチケットを出されると、佑のマッサージを引き受けている。
だが彼も香澄の疲労を気遣っているのか、じゃんじゃん使ってはくれない。
香澄としては、毎日使ってくれてもいいと思っているし、彼に触れられる理由ができて嬉しい。
「あとは……デリヘルサービスKASUMIとか」
冗談で言うと、佑が一瞬息を止めたのが分かった。
32
お気に入りに追加
2,546
あなたにおすすめの小説
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる