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第九部・贖罪 編
久しぶりの笑顔
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「それを抑止するためにも、『これだけの金を払ってください。払ってくれたらこれ以上求めませんし、そちらも何もしないでください』と線引きする事は大切なんだ」
「う……うん……。分かった……気がする」
香澄の理解を得て、佑も一応安堵したようだ。
「これは母さんにも言われた事だ」
「えっ……? アンネさんにも? っていうか、知ってたの……?」
ドキンッと胸が嫌な音を立てて鳴った。
レイプされかけたと知って、義母となるアンネは何と思っただろう。
真っ青になった香澄の二の腕を、佑は撫でる。
「心配しなくていい。母さんは味方だ。香澄に対して『申し訳ない』と言って、泣いてたよ」
そう聞いて、香澄は安堵の息をつく。
一瞬心配したのは、「レイプされた傷物の女なんて佑に相応しくない」と言われる事だった。
なので一旦安心したが、彼女が罪悪感で泣いたと知り、少しでも疑ってしまった自分が恥ずかしい。
「その母さんが訴えろと言った。俺もその案に賛成だ。金で解決すると言えば聞こえは悪いかもしれない。香澄みたいに優しい人なら、もっと人情的に解決したいと思うだろう」
優しい声で諭されると、つい「そうだね」と頷きたくなる。
「それでも、案件によってはきちんと弁護士を立てて金で解決した方がいい時もある」
「……うん……」
「母さんには、香澄の口座にとにかく金を入れろって言われてるから。何かほしい物でも考えておいたらどうだ?」
少し冗談めかして言われるが、曖昧にしか笑えない。
「……これ以上欲しい物なんてないよ。私は佑さんさえいれば……」
遠慮がちに言うと、ぎゅっと抱き締められた。
「それでも俺は香澄の口座に金を入れる。……ごめんな」
耳元で囁く声は、愛情に満ちている。
彼が香澄のためを思わない事などなかった。
怒るのも喜ぶのも、悲しむのも笑うのも、少なくともプライベートでは、佑は香澄を中心に感情を表してくれている。
(仕方ない……か)
これは自分一人の問題ではない。
婚約者を汚された佑の誇りもかかっている。
(これから結婚したら、何か問題が起こったとしても、自分一人で解決しようとしたら駄目なんだ)
ここは自分が引くべきところ、と理解し、香澄は努めて明るく笑った。
「じゃあ……。何十万か使って、長期旅行を楽しみたいな。南の島とか、ヨーロッパのまだ行った事のない国とか。東南アジアも魅力的だし……、あ。本場のフォーとか、点心も食べたいな。オーロラも見たいし、アメリカやカナダの大自然にも触れてみたい。ニュージーランドのテカポ湖で星空とか」
目覚めてから初めて笑ったからか、佑も微笑んでくれた。
「全部行こう。香澄の行きたい所は全部行こう」
耳元で優しい声がし、背中が撫でられる。
香澄は大好きな彼の香りを嗅ぎ、幸せいっぱいに笑う。
「全部なんて、そんな贅沢しなくていいの。佑さんと一緒なら、近くの温泉でもいいよ」
「……ふふ、また温泉行き直そうか?」
「行きたい。……全部落ち着いたら、ゆっくりイチャイチャしたい」
囁いて、香澄は目を閉じ佑に身を預けた。
「……佑さん、あったかい」
「香澄も温かいよ。柔らかくて、いい匂いがする」
「っあ……やだ。私、目を覚ましてから佑さんとえっちして……。私、いつお風呂に入った?」
急に不安になり、香澄はスンスンと自分の匂いを嗅いでみた。
当たり前だが眠っていた間、自分ではお風呂には入れない。
肌に触れてみると、いつも満足していた肌質に到底及ばない。
(やだ……! いつからお風呂に入ってなかったんだろう!)
カーッと赤面し、香澄はわたわたしだす。
「あっ……あ、やだ……あの、……は、恥ずかしい……。臭くない?」
「臭くないよ。香澄が臭いなんてあり得ない」
「わっ、私だって人間だもん。お風呂入らなかったら臭くなるし、お、おならだってするよ」
「香澄のおならなら、嗅ぎたいな」
「変態!」
ポカッと佑の背中を拳で叩き、香澄はとうとう笑い出した。
――あぁ。
――好きだな。
――こうやって何があっても、何もかもこの人の優しさで押し流されてしまう。
ギュウッと佑を抱き締めて頬ずりし、香澄は幸せな息をついた。
「佑さん、大好き。……どこまでもついていくね」
「ああ」
それに彼はしっかりと頷き、トントンと背中を叩いてくれた。
「う……うん……。分かった……気がする」
香澄の理解を得て、佑も一応安堵したようだ。
「これは母さんにも言われた事だ」
「えっ……? アンネさんにも? っていうか、知ってたの……?」
ドキンッと胸が嫌な音を立てて鳴った。
レイプされかけたと知って、義母となるアンネは何と思っただろう。
真っ青になった香澄の二の腕を、佑は撫でる。
「心配しなくていい。母さんは味方だ。香澄に対して『申し訳ない』と言って、泣いてたよ」
そう聞いて、香澄は安堵の息をつく。
一瞬心配したのは、「レイプされた傷物の女なんて佑に相応しくない」と言われる事だった。
なので一旦安心したが、彼女が罪悪感で泣いたと知り、少しでも疑ってしまった自分が恥ずかしい。
「その母さんが訴えろと言った。俺もその案に賛成だ。金で解決すると言えば聞こえは悪いかもしれない。香澄みたいに優しい人なら、もっと人情的に解決したいと思うだろう」
優しい声で諭されると、つい「そうだね」と頷きたくなる。
「それでも、案件によってはきちんと弁護士を立てて金で解決した方がいい時もある」
「……うん……」
「母さんには、香澄の口座にとにかく金を入れろって言われてるから。何かほしい物でも考えておいたらどうだ?」
少し冗談めかして言われるが、曖昧にしか笑えない。
「……これ以上欲しい物なんてないよ。私は佑さんさえいれば……」
遠慮がちに言うと、ぎゅっと抱き締められた。
「それでも俺は香澄の口座に金を入れる。……ごめんな」
耳元で囁く声は、愛情に満ちている。
彼が香澄のためを思わない事などなかった。
怒るのも喜ぶのも、悲しむのも笑うのも、少なくともプライベートでは、佑は香澄を中心に感情を表してくれている。
(仕方ない……か)
これは自分一人の問題ではない。
婚約者を汚された佑の誇りもかかっている。
(これから結婚したら、何か問題が起こったとしても、自分一人で解決しようとしたら駄目なんだ)
ここは自分が引くべきところ、と理解し、香澄は努めて明るく笑った。
「じゃあ……。何十万か使って、長期旅行を楽しみたいな。南の島とか、ヨーロッパのまだ行った事のない国とか。東南アジアも魅力的だし……、あ。本場のフォーとか、点心も食べたいな。オーロラも見たいし、アメリカやカナダの大自然にも触れてみたい。ニュージーランドのテカポ湖で星空とか」
目覚めてから初めて笑ったからか、佑も微笑んでくれた。
「全部行こう。香澄の行きたい所は全部行こう」
耳元で優しい声がし、背中が撫でられる。
香澄は大好きな彼の香りを嗅ぎ、幸せいっぱいに笑う。
「全部なんて、そんな贅沢しなくていいの。佑さんと一緒なら、近くの温泉でもいいよ」
「……ふふ、また温泉行き直そうか?」
「行きたい。……全部落ち着いたら、ゆっくりイチャイチャしたい」
囁いて、香澄は目を閉じ佑に身を預けた。
「……佑さん、あったかい」
「香澄も温かいよ。柔らかくて、いい匂いがする」
「っあ……やだ。私、目を覚ましてから佑さんとえっちして……。私、いつお風呂に入った?」
急に不安になり、香澄はスンスンと自分の匂いを嗅いでみた。
当たり前だが眠っていた間、自分ではお風呂には入れない。
肌に触れてみると、いつも満足していた肌質に到底及ばない。
(やだ……! いつからお風呂に入ってなかったんだろう!)
カーッと赤面し、香澄はわたわたしだす。
「あっ……あ、やだ……あの、……は、恥ずかしい……。臭くない?」
「臭くないよ。香澄が臭いなんてあり得ない」
「わっ、私だって人間だもん。お風呂入らなかったら臭くなるし、お、おならだってするよ」
「香澄のおならなら、嗅ぎたいな」
「変態!」
ポカッと佑の背中を拳で叩き、香澄はとうとう笑い出した。
――あぁ。
――好きだな。
――こうやって何があっても、何もかもこの人の優しさで押し流されてしまう。
ギュウッと佑を抱き締めて頬ずりし、香澄は幸せな息をついた。
「佑さん、大好き。……どこまでもついていくね」
「ああ」
それに彼はしっかりと頷き、トントンと背中を叩いてくれた。
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