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第九部・贖罪 編
ここだけは譲れない
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まだ体験していない〝本気の恋〟だからこそ、彼らはああやって無邪気な少年のように目を輝かせて期待できたのだろう。
だから、迷わなかった。
「お二人の事は憎めない。アドラーさんだって、義理のお祖父さんになるなら憎みたくない。その前にちゃんと理由を聞きたい。それから判断してもいいと思うの」
香澄の言葉に、佑は溜め息をついた。
「……俺は許したくないし、絶縁してもいいと思った。……でも香澄はそういう風に言うと、心のどこかで分かっていた」
彼は最後に苦しそうに笑い、「それが香澄だもんな」と言う。
佑が自分のために怒ってくれているのを感じ、申し訳なさを覚える。
それでも香澄は、一度心を許した人を憎みたくなかった。
「甘い事を言っているのは分かる。でも私は本来なら助け合う身内で、ギスギスするなんて嫌なの。御劔家の人とも、クラウザー家の人とも、考え方や育った環境が違っているのは分かってる。一般家庭の育ちだけど、私は家族に愛されて育った自負がある。だから、甘っちょろくておめでたい事を言っているのは分かる。本当なら、弁護士さんにお願いする案件なのかもしれない。……でも、せっかく家族になれると思ったのに、絶縁なんてしたくないよ」
何度も小さく首を振り、香澄は自分の意志を伝える。
やがて佑は何度目になるか分からない溜め息をつき、結論を口にした。
「エミリアには法の裁きが下る。そして俺も、エミリアに対して訴訟を起こす」
「そんな……」
何か言いかけた香澄に、佑は強い口調で言う。
「香澄。ここだけは譲れない」
目を見つめられ、思わず香澄は口をつぐむ。
「世の中には白黒ハッキリつけないといけない事がある。身内だから、知っている人だからという理由で、被害を受けても何もできないのは馬鹿げてる。香澄が強く言えないからこそ、婚約者である俺が表に出る。だから、この件については黙って見ていてほしい」
「…………はい」
いつも自分にだだ甘な佑が、ここまでハッキリと言うのなら、もう決意してしまっているのだろう。
なら、自分がグダグダ甘い事を言っても、彼の考えは変わらない。
「言っておくが俺はマティアス、アロクラや爺さんとも線引きをしたい。香澄が絶縁を望まないなら、相応の金を出してもらい謝罪させる」
「っそんな……。身内に対してお金を求めるなんて……」
香澄は首を横に振る。
だが佑も意見を変えない。
「いいか? 一番の被害者は香澄だ。そして次の被害者は俺だ。第三に、香澄の家族や俺の家族が被害者となる。婚約者を傷物にされかけた……いや、半分された。心にも強い傷を負った。その責任をきちんと取ってもらわないと、俺は納得できない」
自分以外の人の気持ちを出され、香澄はグッと詰まる。
確かに今回の事を家族が知れば、とても悲しむだろう。
そしてただ耐え忍んで泣き寝入りするのではなく、何かしら決着をつける事を望むかもしれない。
「……マティアスさんは加害者になるかもしれないけど、お二人とアドラーさんは……」
自信なさげに言った香澄の言葉を、佑はキッパリと否定する。
「双子も爺さんも、分かっていて香澄を危険な目に遭わせた。訴えないとしても、弁護士を立てて、誓約書を書き小切手を切るぐらいはしてもらう」
胸の奥に暗くて重たい澱が溜まる。
せっかく仲良くなれると思っていたクラウザー家の人々と、結婚前にこんな風に揉めたくなかった。
「……どうしても?」
「どうしてもだ」
佑は断言する。
やはり先ほど同様、引く気はないようだ。
「はい」とも「いいえ」とも言えず、香澄はただ黙る。
やがて佑は溜め息をつき、言葉をつけ加えた。
「仮にこの件で『身内だからなあなあにしましょう』と言ったとする。だがあいつらは罪の意識がある分、今後必要以上に関わってこようとするだろう。アロクラなら頻繁に東京に来て、香澄に物を買い与えたり、新しいブランドを立ち上げて香澄の名前をつけ、その収益金をすべて充てるぐらいするかもしれない」
「うう」
「爺さんはもっと金持ちだからタチが悪い。海外の土地に別荘や物件、クルーザーや飛行機を買い与えるかもしれない。王族が持つような大きさの宝石を贈ってきたり、鉱山の採掘権だって与えかねない。知らないうちに名前が使われて、莫大な金が入るようになるかもしれない。罪悪感を覚えたからって、大人しく引っ込んでるような奴らじゃないんだ」
「そ、それは……」
ブンブンと頭を振ると、「だろう?」と言われる。
だから、迷わなかった。
「お二人の事は憎めない。アドラーさんだって、義理のお祖父さんになるなら憎みたくない。その前にちゃんと理由を聞きたい。それから判断してもいいと思うの」
香澄の言葉に、佑は溜め息をついた。
「……俺は許したくないし、絶縁してもいいと思った。……でも香澄はそういう風に言うと、心のどこかで分かっていた」
彼は最後に苦しそうに笑い、「それが香澄だもんな」と言う。
佑が自分のために怒ってくれているのを感じ、申し訳なさを覚える。
それでも香澄は、一度心を許した人を憎みたくなかった。
「甘い事を言っているのは分かる。でも私は本来なら助け合う身内で、ギスギスするなんて嫌なの。御劔家の人とも、クラウザー家の人とも、考え方や育った環境が違っているのは分かってる。一般家庭の育ちだけど、私は家族に愛されて育った自負がある。だから、甘っちょろくておめでたい事を言っているのは分かる。本当なら、弁護士さんにお願いする案件なのかもしれない。……でも、せっかく家族になれると思ったのに、絶縁なんてしたくないよ」
何度も小さく首を振り、香澄は自分の意志を伝える。
やがて佑は何度目になるか分からない溜め息をつき、結論を口にした。
「エミリアには法の裁きが下る。そして俺も、エミリアに対して訴訟を起こす」
「そんな……」
何か言いかけた香澄に、佑は強い口調で言う。
「香澄。ここだけは譲れない」
目を見つめられ、思わず香澄は口をつぐむ。
「世の中には白黒ハッキリつけないといけない事がある。身内だから、知っている人だからという理由で、被害を受けても何もできないのは馬鹿げてる。香澄が強く言えないからこそ、婚約者である俺が表に出る。だから、この件については黙って見ていてほしい」
「…………はい」
いつも自分にだだ甘な佑が、ここまでハッキリと言うのなら、もう決意してしまっているのだろう。
なら、自分がグダグダ甘い事を言っても、彼の考えは変わらない。
「言っておくが俺はマティアス、アロクラや爺さんとも線引きをしたい。香澄が絶縁を望まないなら、相応の金を出してもらい謝罪させる」
「っそんな……。身内に対してお金を求めるなんて……」
香澄は首を横に振る。
だが佑も意見を変えない。
「いいか? 一番の被害者は香澄だ。そして次の被害者は俺だ。第三に、香澄の家族や俺の家族が被害者となる。婚約者を傷物にされかけた……いや、半分された。心にも強い傷を負った。その責任をきちんと取ってもらわないと、俺は納得できない」
自分以外の人の気持ちを出され、香澄はグッと詰まる。
確かに今回の事を家族が知れば、とても悲しむだろう。
そしてただ耐え忍んで泣き寝入りするのではなく、何かしら決着をつける事を望むかもしれない。
「……マティアスさんは加害者になるかもしれないけど、お二人とアドラーさんは……」
自信なさげに言った香澄の言葉を、佑はキッパリと否定する。
「双子も爺さんも、分かっていて香澄を危険な目に遭わせた。訴えないとしても、弁護士を立てて、誓約書を書き小切手を切るぐらいはしてもらう」
胸の奥に暗くて重たい澱が溜まる。
せっかく仲良くなれると思っていたクラウザー家の人々と、結婚前にこんな風に揉めたくなかった。
「……どうしても?」
「どうしてもだ」
佑は断言する。
やはり先ほど同様、引く気はないようだ。
「はい」とも「いいえ」とも言えず、香澄はただ黙る。
やがて佑は溜め息をつき、言葉をつけ加えた。
「仮にこの件で『身内だからなあなあにしましょう』と言ったとする。だがあいつらは罪の意識がある分、今後必要以上に関わってこようとするだろう。アロクラなら頻繁に東京に来て、香澄に物を買い与えたり、新しいブランドを立ち上げて香澄の名前をつけ、その収益金をすべて充てるぐらいするかもしれない」
「うう」
「爺さんはもっと金持ちだからタチが悪い。海外の土地に別荘や物件、クルーザーや飛行機を買い与えるかもしれない。王族が持つような大きさの宝石を贈ってきたり、鉱山の採掘権だって与えかねない。知らないうちに名前が使われて、莫大な金が入るようになるかもしれない。罪悪感を覚えたからって、大人しく引っ込んでるような奴らじゃないんだ」
「そ、それは……」
ブンブンと頭を振ると、「だろう?」と言われる。
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