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第九部・贖罪 編
ネガティブな気持ちを抱えていたくない
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「ネガティブな気持ちをずっと抱えていたくない。佑さんっていう素敵な人の側に居るのに、誰かを憎んだまま生きていたくない。私は〝綺麗な香澄〟でいたいの」
彼女の言葉を聞き、佑はクシャリと表情を歪める。
「私はマティアスさんに抱かれなかった。それは、もう終わった事実。でも、裸を見てデリケートな部分に触った彼には、ちょっと怒ってる。恥ずかしいし『人様の恋人にそんな事をしたらいけません』ってしっかり言いたい。エミリアさんにも、『関わっている男性全員と結婚する訳じゃないし、嫉妬が過ぎます』って言いたい。女性をレイプさせるなんて、同じ女性として絶対にやってはいけない事だよ」
「ん……、そうだな」
香澄の甘すぎる表現に、佑は切なげに笑う。
「……でもね。あの二人とはこれからの日常で毎日顔を合わせる訳じゃない。いつもは遠い場所で離ればなれに暮らしていて、本来なら連絡先も知らない人。せっかく知り合えたけど、このまま縁が切れてもいいやって思ってる。もし佑さんやアロイスさんとクラウスさん繋がりでまた日本に来ても、私が会わなければいいだけ」
言い切ったあと、香澄は自嘲気味に笑う。
「……それにね、ちょっとだけ優越感にも浸っているの。佑さんはエミリアさんを選ばず、私を選んだ。彼女がどれだけ立派な家柄のお嬢様で美人で、経営者でも、彼女は佑さんに選ばれない。……それでちょっと、性格悪いけど『ザマーミロ』って思っちゃってるから、それでいいの」
自分の心の中にある汚い感情をチラリと見せ、香澄は苦笑いする。
「……それで本当にいいのか?」
佑は切なげな目で香澄を見て、背中を撫でる。
それに香澄はしっかり頷いた。
「争いたくない。醜い感情を抱きたくないの。私は聖人じゃないから、怒って誰かを憎む事だってある。一つ間違えたら、それだけに支配されてドロドロになってしまうかもしれない。……けど、それは私の望んでいる理想の自分じゃない。嫌なものから離れて感情をコントロールするために、憎しみを手放すのも選択肢の一つだと思っているの」
佑は苦しそうな表情で、小さく首を横に振った。
「香澄は優しすぎる。それじゃあエミリアもマティアスも断罪されない。アロクラや爺さんだって、もっとつけ上がるだろう」
「……え? アロイスさんとクラウスさんに……。アドラーさん?」
なぜか味方のはずの人たちの名前まで出てきて、香澄は目を瞬かせる。
それに佑は、感情を押し殺した震える声で答えた。
「あいつらは……。双子は、マティアスの行動を事前に知っていた。エミリアがマティアスに香澄を襲わせる事も知っていた。知っていて、止めなかった。それも許すのか?」
「……どういう、事?」
不穏な空気に、香澄は眉を寄せる。
「……あいつらはエミリアに酷く束縛されていた。今までろくな恋愛をしてこなかったのも、エミリアがいたから決まった相手を作れなかったらしい。その呪縛から逃げるため、エミリアを陥れて法的な罰を受けさせるために、香澄がされる事を分かっていながら、見て見ぬ振りをした。それに、――――爺さんも一枚噛んでる」
「…………」
双子の事にも動揺したが、アドラーも関わっていると聞いて、香澄の胸の奥にズキンと鈍い痛みが走った。
「……アドラーさん、私と佑さんが結婚するの、認めてくださったんじゃないの?」
「……認めた、と俺も思いたい。だが今回爺さんがどんな事を思って香澄を囮にしたのか、俺もまだ直接説明されていないんだ」
ぎゅ……と佑に抱きつき、香澄は溜め息をつく。
「アドラーさんも、アロイスさんとクラウスさんも、エミリアさんを陥れるために、私を利用した……?」
「ああ、そうだ」
香澄は順番に状況を整理してゆく。
「いま、エミリアさんはどうなってるの?」
それを尋ねると、佑は大きい溜め息をついた。
「……世間では騒ぎになってるよ。脱税もして、…………プライベートで法に触れる事もした。エミリアの祖父のフランクという爺さんも含め、メイヤー家は炎上してる。大手保険会社メイヤーズの株もがた落ちだ」
本当はまだ頭がぼんやりしているが、香澄は必死に考えた。
仮にアロイスとクラウスが今回の事を知っていたとしても、彼らを悪者にして嫌えない。
香澄はもう、双子に深く関わりすぎてしまった。
彼らは確かにトラブルメーカーではある。だが悪い人でもない。
それが分かっているからこそ、香澄はいつも「仕方ないな」と笑って許せている。
双子の〝本気の恋〟だって応援したい。
それにエミリアのせいで本気の恋ができなかったのなら、同情すべきと思っている。
双子と話していても、本心が分からなかった。
だがふざけた言葉の端々に、彼らの本音が滲み出ている気がしていた。
『本当は身を焦がすような恋がしたいんだよね』と言ったあの言葉は、嘘ではないと思っている。
彼女の言葉を聞き、佑はクシャリと表情を歪める。
「私はマティアスさんに抱かれなかった。それは、もう終わった事実。でも、裸を見てデリケートな部分に触った彼には、ちょっと怒ってる。恥ずかしいし『人様の恋人にそんな事をしたらいけません』ってしっかり言いたい。エミリアさんにも、『関わっている男性全員と結婚する訳じゃないし、嫉妬が過ぎます』って言いたい。女性をレイプさせるなんて、同じ女性として絶対にやってはいけない事だよ」
「ん……、そうだな」
香澄の甘すぎる表現に、佑は切なげに笑う。
「……でもね。あの二人とはこれからの日常で毎日顔を合わせる訳じゃない。いつもは遠い場所で離ればなれに暮らしていて、本来なら連絡先も知らない人。せっかく知り合えたけど、このまま縁が切れてもいいやって思ってる。もし佑さんやアロイスさんとクラウスさん繋がりでまた日本に来ても、私が会わなければいいだけ」
言い切ったあと、香澄は自嘲気味に笑う。
「……それにね、ちょっとだけ優越感にも浸っているの。佑さんはエミリアさんを選ばず、私を選んだ。彼女がどれだけ立派な家柄のお嬢様で美人で、経営者でも、彼女は佑さんに選ばれない。……それでちょっと、性格悪いけど『ザマーミロ』って思っちゃってるから、それでいいの」
自分の心の中にある汚い感情をチラリと見せ、香澄は苦笑いする。
「……それで本当にいいのか?」
佑は切なげな目で香澄を見て、背中を撫でる。
それに香澄はしっかり頷いた。
「争いたくない。醜い感情を抱きたくないの。私は聖人じゃないから、怒って誰かを憎む事だってある。一つ間違えたら、それだけに支配されてドロドロになってしまうかもしれない。……けど、それは私の望んでいる理想の自分じゃない。嫌なものから離れて感情をコントロールするために、憎しみを手放すのも選択肢の一つだと思っているの」
佑は苦しそうな表情で、小さく首を横に振った。
「香澄は優しすぎる。それじゃあエミリアもマティアスも断罪されない。アロクラや爺さんだって、もっとつけ上がるだろう」
「……え? アロイスさんとクラウスさんに……。アドラーさん?」
なぜか味方のはずの人たちの名前まで出てきて、香澄は目を瞬かせる。
それに佑は、感情を押し殺した震える声で答えた。
「あいつらは……。双子は、マティアスの行動を事前に知っていた。エミリアがマティアスに香澄を襲わせる事も知っていた。知っていて、止めなかった。それも許すのか?」
「……どういう、事?」
不穏な空気に、香澄は眉を寄せる。
「……あいつらはエミリアに酷く束縛されていた。今までろくな恋愛をしてこなかったのも、エミリアがいたから決まった相手を作れなかったらしい。その呪縛から逃げるため、エミリアを陥れて法的な罰を受けさせるために、香澄がされる事を分かっていながら、見て見ぬ振りをした。それに、――――爺さんも一枚噛んでる」
「…………」
双子の事にも動揺したが、アドラーも関わっていると聞いて、香澄の胸の奥にズキンと鈍い痛みが走った。
「……アドラーさん、私と佑さんが結婚するの、認めてくださったんじゃないの?」
「……認めた、と俺も思いたい。だが今回爺さんがどんな事を思って香澄を囮にしたのか、俺もまだ直接説明されていないんだ」
ぎゅ……と佑に抱きつき、香澄は溜め息をつく。
「アドラーさんも、アロイスさんとクラウスさんも、エミリアさんを陥れるために、私を利用した……?」
「ああ、そうだ」
香澄は順番に状況を整理してゆく。
「いま、エミリアさんはどうなってるの?」
それを尋ねると、佑は大きい溜め息をついた。
「……世間では騒ぎになってるよ。脱税もして、…………プライベートで法に触れる事もした。エミリアの祖父のフランクという爺さんも含め、メイヤー家は炎上してる。大手保険会社メイヤーズの株もがた落ちだ」
本当はまだ頭がぼんやりしているが、香澄は必死に考えた。
仮にアロイスとクラウスが今回の事を知っていたとしても、彼らを悪者にして嫌えない。
香澄はもう、双子に深く関わりすぎてしまった。
彼らは確かにトラブルメーカーではある。だが悪い人でもない。
それが分かっているからこそ、香澄はいつも「仕方ないな」と笑って許せている。
双子の〝本気の恋〟だって応援したい。
それにエミリアのせいで本気の恋ができなかったのなら、同情すべきと思っている。
双子と話していても、本心が分からなかった。
だがふざけた言葉の端々に、彼らの本音が滲み出ている気がしていた。
『本当は身を焦がすような恋がしたいんだよね』と言ったあの言葉は、嘘ではないと思っている。
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