453 / 1,508
第九部・贖罪 編
蘇る食欲
しおりを挟む
エステやマッサージ、スパはリラックスに最適だろうが、施設が整っている現場に向かうのに疲れてしまうかもしれない。
佑が契約している専属鍼灸師がいるし家には設備も整っているので、香澄が起きたら毎日通ってもらおうと決めた。
『……色々、ありがとう。あとは俺に任せてほしい。母さんに頼る時があるなら、ちゃんと連絡する。澪も心配してくれてありがとう』
佑の礼に、アンネと澪は頷いた。
『律と翔も家族だから、最低限の事は伝えてもいい。けど陽菜さんは大事な時だから、彼女の耳には絶対に入れないようにしてくれ』
『分かっているわ』
二人はそれで御劔邸を去っていった。
アンネがときおり香澄を試すような事を言うのも、素直ではない彼女の不器用な愛情表現だったのだろう。
そもそも、アンネも澪も性格がハッキリしていて、嫌いな相手はまず相手にせず話しもしない。
母も妹も、香澄とのファーストコンタクトはあまり良い印象ではなかったが、今では心の底から彼女を受け入れ、心配してくれている。
(ありがとう)
心の中で家族に礼を言う。
その傍ら、癖のある二人をすっかり味方につけるぐらい、香澄は人を和ませる魅力があるのだと思っていた。
**
「香澄」
頭を撫でられ、トントンと肩を叩かれて香澄は目を覚ます。
「ん…………ぁ。寝てた……」
涎を垂らしていないか思わず口元に手をやり、香澄はゆっくり起き上がった。
「お粥、できたよ。少し冷めた頃合いだ」
「うん……。ありがとう。男の料理」
「ごま油は入っていないよ」
中華料理が得意なイケメンタレントが、よくごま油を使うのを示唆され、香澄はクスクスと笑う。
立ち上がると少しふらついたが、すぐ佑が支えてくれた。
「ん……、大丈夫。ありがとう」
そのままダイニングチェアに座り、小鉢を前にして笑顔になる。
「わぁ、美味しそう」
お粥は出汁と玉子の匂いがほんのりと漂って、とてもいい香りだ。
とろりとした米に玉子が絡んでいて、まるで金色に見える。
白ごまと三つ葉も載っていて、見栄えもバッチリだ。
「いただきます」
食事に付き合ってくれるのか、向かいには佑の分も置いてあった。
香澄が食べ始めるのを見てから、佑もレンゲを手に取る。
ふぅ、ふぅ、とレンゲにすくったお粥を冷まし、一口くちに入れた。
「んぅ……。ん、……んんぅ。……おいふぃ……」
随分と空腹だったようで、急にとんでもない食欲が湧いてきた。
佑と会話をするのもそこそこに、香澄は何度もお粥にふぅふぅと息を吹きかけ、あっという間に平らげてしまう。
「おかわりいるか?」
「うん。何か凄くお腹空いてるみたい」
立ち上がろうとすると、佑が「座っていて」と香澄の小鉢を持ってキッチンへ向かった。
香澄は佑の前でおかわりをするのは初めてなので、どこか気恥ずかしい。
「……大食いでごめんね?」
「ん?」
キッチン台でお粥をよそい直した佑が目を丸くする。
その直後、彼は意味を理解して破顔した。
「なんで謝るんだ? 健康的でいいじゃないか。食べないよりずっといい」
「わ……私けっこう食いしん坊なの。大学生の時とかも、勢いで大きいハンバーガー二個食べた事もあるし。ドーナツ四個喰いとか……。三段アイスだって食べたよ。350gのハンバーグ頼んだ事もあるし……」
香澄が一人でペラペラと白状するうちに、佑の笑いも大きくなってゆく。
「はい、どうぞ」と目の前に小鉢が置かれ、また佑が向かいに座った。
「香澄が食いしん坊なのは知ってるよ。でも程度が可愛い。悪いけど、俺の全盛期はもっと食べたからな? 大食いとか言いたいなら、俺の肉メーターを超してから言ってくれ」
「あーっ、『ひょっこりステーキ』! 私もチャレンジしてた!」
話しているうちに意識も少ししっかりし、香澄はますます勢いづいてパクパクとお粥を口に運ぶ。
佑が契約している専属鍼灸師がいるし家には設備も整っているので、香澄が起きたら毎日通ってもらおうと決めた。
『……色々、ありがとう。あとは俺に任せてほしい。母さんに頼る時があるなら、ちゃんと連絡する。澪も心配してくれてありがとう』
佑の礼に、アンネと澪は頷いた。
『律と翔も家族だから、最低限の事は伝えてもいい。けど陽菜さんは大事な時だから、彼女の耳には絶対に入れないようにしてくれ』
『分かっているわ』
二人はそれで御劔邸を去っていった。
アンネがときおり香澄を試すような事を言うのも、素直ではない彼女の不器用な愛情表現だったのだろう。
そもそも、アンネも澪も性格がハッキリしていて、嫌いな相手はまず相手にせず話しもしない。
母も妹も、香澄とのファーストコンタクトはあまり良い印象ではなかったが、今では心の底から彼女を受け入れ、心配してくれている。
(ありがとう)
心の中で家族に礼を言う。
その傍ら、癖のある二人をすっかり味方につけるぐらい、香澄は人を和ませる魅力があるのだと思っていた。
**
「香澄」
頭を撫でられ、トントンと肩を叩かれて香澄は目を覚ます。
「ん…………ぁ。寝てた……」
涎を垂らしていないか思わず口元に手をやり、香澄はゆっくり起き上がった。
「お粥、できたよ。少し冷めた頃合いだ」
「うん……。ありがとう。男の料理」
「ごま油は入っていないよ」
中華料理が得意なイケメンタレントが、よくごま油を使うのを示唆され、香澄はクスクスと笑う。
立ち上がると少しふらついたが、すぐ佑が支えてくれた。
「ん……、大丈夫。ありがとう」
そのままダイニングチェアに座り、小鉢を前にして笑顔になる。
「わぁ、美味しそう」
お粥は出汁と玉子の匂いがほんのりと漂って、とてもいい香りだ。
とろりとした米に玉子が絡んでいて、まるで金色に見える。
白ごまと三つ葉も載っていて、見栄えもバッチリだ。
「いただきます」
食事に付き合ってくれるのか、向かいには佑の分も置いてあった。
香澄が食べ始めるのを見てから、佑もレンゲを手に取る。
ふぅ、ふぅ、とレンゲにすくったお粥を冷まし、一口くちに入れた。
「んぅ……。ん、……んんぅ。……おいふぃ……」
随分と空腹だったようで、急にとんでもない食欲が湧いてきた。
佑と会話をするのもそこそこに、香澄は何度もお粥にふぅふぅと息を吹きかけ、あっという間に平らげてしまう。
「おかわりいるか?」
「うん。何か凄くお腹空いてるみたい」
立ち上がろうとすると、佑が「座っていて」と香澄の小鉢を持ってキッチンへ向かった。
香澄は佑の前でおかわりをするのは初めてなので、どこか気恥ずかしい。
「……大食いでごめんね?」
「ん?」
キッチン台でお粥をよそい直した佑が目を丸くする。
その直後、彼は意味を理解して破顔した。
「なんで謝るんだ? 健康的でいいじゃないか。食べないよりずっといい」
「わ……私けっこう食いしん坊なの。大学生の時とかも、勢いで大きいハンバーガー二個食べた事もあるし。ドーナツ四個喰いとか……。三段アイスだって食べたよ。350gのハンバーグ頼んだ事もあるし……」
香澄が一人でペラペラと白状するうちに、佑の笑いも大きくなってゆく。
「はい、どうぞ」と目の前に小鉢が置かれ、また佑が向かいに座った。
「香澄が食いしん坊なのは知ってるよ。でも程度が可愛い。悪いけど、俺の全盛期はもっと食べたからな? 大食いとか言いたいなら、俺の肉メーターを超してから言ってくれ」
「あーっ、『ひょっこりステーキ』! 私もチャレンジしてた!」
話しているうちに意識も少ししっかりし、香澄はますます勢いづいてパクパクとお粥を口に運ぶ。
応援ありがとうございます!
20
お気に入りに追加
2,461
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる