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第九部・贖罪 編

責任を感じる母と妹

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 今では欧米を中心に、名門メイヤー家の令嬢エミリアが乱交パーティーを開き、ドラッグも扱っていたと報道されている。
 同時に彼女が脱税していた事も放送され、名門メイヤー家の名は地に落ちた。

 海外のニュースサイトを見ると、エミリアの顔写真つきで煽り立てるような記事タイトルがついている。

 彼女の護衛たちもこれで身を転じたようで、自分たちもエミリアに脅され仕方なく従っていたと証言しだしたようだ。

 香澄や佑の名前が出ないのは、アドラーが手を回したのだろう。
 もしかしたらマルコも口添えしてくれたかもしれない。

 双子も、テオの名前も出なかった。

 マティアスのみ、『秘書のマティアス・シュナイダー氏の話では……』という書き方をされていたが、彼が共犯であるという事にはされていない。

 これ以上エミリアの名前を見たくないが、投資をしている以上世界中のニュースに目を通さなくてはいけない。
 エミリアの記事だけ見たくないので、主に使うワールドガーデン社の検索エンジンでのみ、拡張機能で彼女の名前や関連する単語を登録して、目にしないで済むようにした。

 双子やアドラーたちからは、一切連絡がない。

 ただ帰国してから、すぐにアンネと澪が訪れた。
 母は張り詰めた暗い顔をし、澪は泣いていた。

『香澄さんが酷い目に遭ったという話を聞いたけど、本当なの?』

 アンネはアドラーの娘だが、佑の母だ。
 クラウザー家と自分たち、どちらの味方をするかと言えば、間違いなく自分たちにつく。

 母の問いに即答できずにいると、澪が佑の服を掴み泣きついてきた。

『私……っ、香澄さんにエミリアに気をつけろって忠告したのに……っ。まさか直後にこんな事になるなんて……っ! あの時帰らないで一緒にいればよかった!』

 いつもの強気な彼女らしくなく、泣きじゃくる澪を佑は抱き締める。

『泣かなくていい。澪のせいじゃない』
『でも……っ』

 妹が責任を感じるのは分かるが、澪のせいではない。
 シンプルにそれだけだ。

『気をつけろって言ったって、どういう事なんだ?』

 ひとまずリビングに移動して座ってもらってから、佑は妹に尋ねる。
 そのあと澪が話したのは、律が言っていた事そのままだった。

 独り身の翔は何も被害がないらしいが、律を奪われたと嫉妬したらしいエミリアが、陽菜にそれとなく嫌がらせをしていたらしい。

 あの日、ホテルで食事をした時に、澪が香澄にエミリアの事を話していたと自分が知っていたら、もっと何かが変わっていただろうか。

 結局、佑は自分を責める。

 ――俺が、香澄を守れなかった。

 佑は痛々しく微笑み、何回目になるか分からない『澪のせいじゃない』を繰り返した。

『私……っ、これからどうしたら……っ』

『香澄は別に、不治の病になった訳じゃない。今は意識が混濁して寝込んでいるけれど、そのうち必ず元気になる。しばらくは自宅療養になると思うから、相手をしてあげてくれ』

『……分かった……』

 澪は手で涙を拭い、頷く。

『佑、香澄さんに何があったのか教えて。私は彼女の義母になる。彼女を守る者として、知る権利はあるわ』

 アンネに言われ、佑は溜め息をつき、できるだけ淡々と香澄の身に起こった残酷な出来事を話した。

 母は――泣いた。

 甥の双子や、知り合いの子であるエミリア、マティアス、何より自分の父の情けなさを嘆いた。
 澪もまた、女性としてあり得ない仕打ちにショックを受け、泣いていた。

 あの強い母と妹が泣く姿を目の当たりにし、佑は何も言えず俯く。

 やがて落ち着いたアンネが尋ねてきた。

『香澄さんは無事なの?』
『……寝ているから話せないけど、顔なら見せられる』

 それから佑は二人を連れて二階に上がり、自室で寝ている香澄のもとへ連れて行った。

 そこでまた、香澄の青白い顔を見て二人は泣き始める。

 佑は香澄を起こさないように、二人ををリビングに連れていった。
 コーヒーを出し、それを飲んで母も妹も少しは落ち着いたようだ。

 アンネは眉間に深い皺を刻み、神妙な面持ちで言う。
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