上 下
441 / 1,548
第八部・イギリス捜索 編

取り戻した愛しい女性 ★

しおりを挟む
『……何だここは。ソドムとゴモラか』

 テオが呟き、額に手をやる。

 その時、佑の胸元に女性の手が這った。
 とっさに顎を引き脇を見れば、赤いドレスを着たブルネットの女性が、マスクの奥から意味深な目を向けている。

『…………失礼』

 佑は曖昧に微笑んで女性をやりすごし、飲み物を取りに行くふりをして彼女の誘いを断る。

 ――やがて、その時がきた。

『今日、とっておきのゲストがいるのよ。日本から連れて来た私の友達なの』

 エミリアの声がし、佑の胸がドクッと嫌な音をたてた。
 人々を掻き分けエミリアの声がした方へ向かうと、楽しそうな彼女が護衛に『連れてきて』と命じた。

『――――っ!!』

 その時の感情を、なんと言い表したらいいだろう。

 香澄が――、自分の婚約者が、淫らな服を着せられ力なく車椅子で運ばれている。

 いつもならキラキラと輝いている目は光を失っている。
 他者に移動されている様子から、自力で歩く事もできないのだろう。

 強く拳を握りしめすぎ、掌に爪が食い込んだ。

『こちらはカスミさん。とても可愛い子でしょう? アジア人フェチの方ならきっとお気に召すはずよ』

 ――ああ、香澄だ。彼女だ。
 ――なんて姿に。

 目は熱く潤み、鼻の奥がツンとして視界がぼやけた。

『脱毛済みで手入れが行き届いている肌だから、触っただけで勃起(エレクト)しちゃうかも』

 エミリアの言葉に周囲がドッと笑い、中には香澄を見て股間を撫でている者もいる。
 佑はこの場にいる全員を殺してやりたい初動に駆られる。

 だが最後に残った理性でスマホを出し、興奮している者たちの背に隠れて河野に簡単な合図を送った。

『それにオプションとして、今ならこんな事もできるのよ』

 見知らぬ者が大勢いる前でエミリアが香澄の剥き出しの乳房を握る。
 すると、その先端からピュッと白い液体が漏れた。

『っっ――――っっ、…………っ!!』

 耐えきれず佑は前に出ようとするが、興奮した男たちが香澄に押し寄せていてなかなか近寄れない。
 渾身の力で男たちを掻き分けている内に、エミリアの次の言葉が聞こえた。

『でも出産直後じゃないから安心して? 薬の副作用なの。いずれ薬が抜けたらコレもなくなるわ。同時に意識もハッキリしてくるかもしれないけれど……。その時はいい〝ご主人様〟が躾けてくれるといいわね?』

 ――薬、だと!?
 ――よくも、……よくも俺の香澄に薬など!

 マスクの下でとうに涙は流れ、佑は半狂乱になって男たちを押しのける。
 テオも同様に男たちを押し、妹の凶行を止めようとしていた。

『いつもならここでオークションをしてもらうけど、今日は特別よ。じゃんけんで勝った人から、自由に犯していいわ。もちろん中出しOK。最後は誰かが引き取ってくれると助かるわ。私、この子いらないの』

 ――中出しなどさせて堪るか!!
 ――香澄は俺の女だ!!
 ――ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!

 フーッ、フーッと荒々しい呼吸が食いしばった歯の間から漏れる。
 歯を食いしばりすぎて奥歯が痛んだ気がしたが、どうでもいい。

 男たちの間に手を差し込み、必死にかき分ける。

『じゃあ、この子を犯したいっていう人、手を上げて! 全員抱けるから焦らなくて大丈夫よ』

 エミリアの言葉を聞き、男たちが獣のような声を上げ、自分が一番に香澄を犯そうと手を挙げる。
 すでにズボンの間から出たペニスが見え、佑はそれを切り落としてやりたいと思った。

 一番前にいた男の脇からズボッと佑の手が突き出て、そこから渾身の力で顔を出し前に出る。

 ――ああ。

 何か考えるよりも先に腕が伸び、香澄を抱き上げた。

 脱力した彼女に微笑みかけ、男たちの視線から守るために数歩離れる。

『あら、あなた気が早いわね? そんなにがっつかなくても大丈夫よ?』

 エミリアの笑いを含んだ声がしたあと、テオの凄まじい平手が炸裂した音が聞こえたが、あとはもう知らない。

「……香澄」

 自分のジャケットを被せ、愛しい女性に語りかける。
 頭を撫で、頬を撫で、――――反応がないのを確認して彼の顔がクシャッと歪んだ。

「……香澄……っ」

 うずくまったまま彼女を抱き締めた時、警察がなだれ込みすべてに決着がついた。



**
しおりを挟む
感想 555

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

処理中です...