433 / 1,544
第八部・イギリス捜索 編
フィオーレCEO、そして協力者たち
しおりを挟む
『おまわりさん、こいつを連れて行ってください。ちゃんと法で裁き、今まで似たような乱痴気パーティーを開催していないか調べ、ドラッグの使用も含めきちんと罪を償わせてください』
テオに捨てられたと理解した途端、エミリアは泣きわめいた。
『いやあああぁああーっ!! エミはお兄様といるのぉ!!』
癇癪を起こした子供のようにエミリアが声を上げ、兄の脚にしがみつく。
『ねぇ、お兄様お願い! もう一度エミにお兄様を愛させて? エミがお兄様そっくりの可愛い子を産むから!』
その言葉を聞いた瞬間、エミリアのテオへの感情をうっすら理解していた者たちがゾッと鳥肌を立てた。
テオは言葉もなくもう一度エミリアを打ち、警官に向かって突き飛ばした。
『連れて行け!!』
髪を乱したテオの怒号が響き、兄の名を呼ぶエミリアが警官によってズルズルと引きずられてゆく。
別荘は静けさを取り戻し、その場にいた全員が気まずく黙り込む。
やがて出入り口の方からゆっくりとした足音がする。
姿を現したのは、佑とホテルで話をしていたマルコだった。
『……片付いたかね?』
彼の登場に佑は一つ深呼吸をし、香澄をしっかり抱いて立ち上がる。
『お陰様で香澄を見つけられました。恩に着ます』
『はは、何て事はないさ。君がタスク・ミツルギなら、今度うちの車でも一台買ってくれ』
『うちの車?』
きょとんとした佑に、マルコはウィンクをしてみせた。
『いまはCEOの座に引っ込ませてもらったが、私は以前フィオーレ社で社長をしていたんだ。君の祖父であるアドラー氏とも友人だよ』
フィオーレと言えば、泣く子も黙るイタリアの高級車だ。
『わぁお、タスクすんげぇ大物引っ張ったな』
アロイスが佑の肩をポンと叩く。
それから香澄を覗き込み、気の毒そうに呟いた。
『……俺が言える事じゃないけど、カスミは可哀想な目に遭ったね。薬も飲まされてるし、ひとまず医者だ』
『……ああ』
「社長、医師に連絡をし、ホテルに来るよう手配しておきました」
もう一人姿を現したのは、佑の第三秘書の河野だ。
いつもと変わりないクールな彼は、スーツを着た姿で佑の側に控える。
「……ああ、ありがとう。とりあえずホテルに向かおう」
イギリスでは救急車の台数が少ないため、いざという時に連絡をしてもなかなか来ない。
それならば自分でベッドのある場所まで移動し、往診してくれる家庭医を呼んだ方がいいと判断したのだ。
「奥に香澄の服があると思うから、着替えさせてくる」
佑が奥に向かおうとすると、河野が先を行く。
「赤松さんの荷物を探します。社長は彼女をベッドに寝かせてください。社長もお疲れでしょうから、負担は少ないほうがいいです」
「分かった。ありがとう」
アロイスたちにはリビングで待っていてもらい、佑は香澄を抱いたまま河野が見つけた部屋のベッドに香澄を横たえた。
今はジャケットに隠されているものの、先ほどまで彼女がどんな格好をさせられていたかは分かっている。
自分だけが見ていい肌を、大勢の前で晒された。
薬漬けにされ、衆目を浴びた状態で乳汁を搾られる辱めを受けた。
「…………かすみ……っ」
彼女が可哀想で可哀想で、佑は声を震わせる。
艶やかな髪を撫で、少し輪郭が細くなったように思える頬を辿り、そっと唇を撫でてキスをした。
「……お帰り、香澄。……もう大丈夫だ」
洟を啜り、佑は何度も香澄の頭を撫でて、泣きそうな顔で微笑みかけた。
彼女は何も反応をしない。
それでも、今は生きてこの手に抱けただけで、普段は信じていない神に感謝をした。。
**
この結末に至るまで、様々な人間関係があった。
まず土曜日の夕方、佑のもとに河野が現れた。
突然ではなく、金曜日の朝に松井から連絡があった。
『河野さんをロンドンに向かわせました。私より体力がありますし、何かあった時のために護身術も身につけています。どうぞ存分に彼の能力を使い、赤松さんを取り戻してください。社長秘書の仕事はすべて私にお任せください』
河野が来ると思っていた佑は、その日の捜索を早めに打ち切ってホテルに戻った。
テオに捨てられたと理解した途端、エミリアは泣きわめいた。
『いやあああぁああーっ!! エミはお兄様といるのぉ!!』
癇癪を起こした子供のようにエミリアが声を上げ、兄の脚にしがみつく。
『ねぇ、お兄様お願い! もう一度エミにお兄様を愛させて? エミがお兄様そっくりの可愛い子を産むから!』
その言葉を聞いた瞬間、エミリアのテオへの感情をうっすら理解していた者たちがゾッと鳥肌を立てた。
テオは言葉もなくもう一度エミリアを打ち、警官に向かって突き飛ばした。
『連れて行け!!』
髪を乱したテオの怒号が響き、兄の名を呼ぶエミリアが警官によってズルズルと引きずられてゆく。
別荘は静けさを取り戻し、その場にいた全員が気まずく黙り込む。
やがて出入り口の方からゆっくりとした足音がする。
姿を現したのは、佑とホテルで話をしていたマルコだった。
『……片付いたかね?』
彼の登場に佑は一つ深呼吸をし、香澄をしっかり抱いて立ち上がる。
『お陰様で香澄を見つけられました。恩に着ます』
『はは、何て事はないさ。君がタスク・ミツルギなら、今度うちの車でも一台買ってくれ』
『うちの車?』
きょとんとした佑に、マルコはウィンクをしてみせた。
『いまはCEOの座に引っ込ませてもらったが、私は以前フィオーレ社で社長をしていたんだ。君の祖父であるアドラー氏とも友人だよ』
フィオーレと言えば、泣く子も黙るイタリアの高級車だ。
『わぁお、タスクすんげぇ大物引っ張ったな』
アロイスが佑の肩をポンと叩く。
それから香澄を覗き込み、気の毒そうに呟いた。
『……俺が言える事じゃないけど、カスミは可哀想な目に遭ったね。薬も飲まされてるし、ひとまず医者だ』
『……ああ』
「社長、医師に連絡をし、ホテルに来るよう手配しておきました」
もう一人姿を現したのは、佑の第三秘書の河野だ。
いつもと変わりないクールな彼は、スーツを着た姿で佑の側に控える。
「……ああ、ありがとう。とりあえずホテルに向かおう」
イギリスでは救急車の台数が少ないため、いざという時に連絡をしてもなかなか来ない。
それならば自分でベッドのある場所まで移動し、往診してくれる家庭医を呼んだ方がいいと判断したのだ。
「奥に香澄の服があると思うから、着替えさせてくる」
佑が奥に向かおうとすると、河野が先を行く。
「赤松さんの荷物を探します。社長は彼女をベッドに寝かせてください。社長もお疲れでしょうから、負担は少ないほうがいいです」
「分かった。ありがとう」
アロイスたちにはリビングで待っていてもらい、佑は香澄を抱いたまま河野が見つけた部屋のベッドに香澄を横たえた。
今はジャケットに隠されているものの、先ほどまで彼女がどんな格好をさせられていたかは分かっている。
自分だけが見ていい肌を、大勢の前で晒された。
薬漬けにされ、衆目を浴びた状態で乳汁を搾られる辱めを受けた。
「…………かすみ……っ」
彼女が可哀想で可哀想で、佑は声を震わせる。
艶やかな髪を撫で、少し輪郭が細くなったように思える頬を辿り、そっと唇を撫でてキスをした。
「……お帰り、香澄。……もう大丈夫だ」
洟を啜り、佑は何度も香澄の頭を撫でて、泣きそうな顔で微笑みかけた。
彼女は何も反応をしない。
それでも、今は生きてこの手に抱けただけで、普段は信じていない神に感謝をした。。
**
この結末に至るまで、様々な人間関係があった。
まず土曜日の夕方、佑のもとに河野が現れた。
突然ではなく、金曜日の朝に松井から連絡があった。
『河野さんをロンドンに向かわせました。私より体力がありますし、何かあった時のために護身術も身につけています。どうぞ存分に彼の能力を使い、赤松さんを取り戻してください。社長秘書の仕事はすべて私にお任せください』
河野が来ると思っていた佑は、その日の捜索を早めに打ち切ってホテルに戻った。
32
お気に入りに追加
2,511
あなたにおすすめの小説
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
【R-18】犬を拾ったら躾けられて飼われました
臣桜
恋愛
美幸は週末に同僚と飲んだ帰り、ビルの間でうずくまっていた金髪の男性を「拾った」。彼はお礼と称して美幸を抱き、美幸の彼氏に喧嘩を売る。「俺の事はポチとでも呼んで」。美幸とポチの先に待つものは――。
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも転載しています。
※表紙はニジジャーニーで生成しました
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
【本編完結】【R-18】逃れられない淫らな三角関係~美形兄弟に溺愛されています~
臣桜
恋愛
ムシャクシャしてハプニングバーに行った折原優美は、そこで部下の岬慎也に遭遇した。自分の願望を暴かれ、なしくずし的に部下と致してしまう。その後、慎也に付き合ってほしいと言われるが、彼の家でエッチしている真っ最中に、正樹という男性が現れる。正樹は慎也と同居している兄だった。――「俺たちのものになってよ」
※ムーンライトノベルズ、エブリスタにも転載しています
※不定期で番外編を投稿します
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる