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第八部・イギリス捜索 編
フィオーレCEO、そして協力者たち
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『おまわりさん、こいつを連れて行ってください。ちゃんと法で裁き、今まで似たような乱痴気パーティーを開催していないか調べ、ドラッグの使用も含めきちんと罪を償わせてください』
テオに捨てられたと理解した途端、エミリアは泣きわめいた。
『いやあああぁああーっ!! エミはお兄様といるのぉ!!』
癇癪を起こした子供のようにエミリアが声を上げ、兄の脚にしがみつく。
『ねぇ、お兄様お願い! もう一度エミにお兄様を愛させて? エミがお兄様そっくりの可愛い子を産むから!』
その言葉を聞いた瞬間、エミリアのテオへの感情をうっすら理解していた者たちがゾッと鳥肌を立てた。
テオは言葉もなくもう一度エミリアを打ち、警官に向かって突き飛ばした。
『連れて行け!!』
髪を乱したテオの怒号が響き、兄の名を呼ぶエミリアが警官によってズルズルと引きずられてゆく。
別荘は静けさを取り戻し、その場にいた全員が気まずく黙り込む。
やがて出入り口の方からゆっくりとした足音がする。
姿を現したのは、佑とホテルで話をしていたマルコだった。
『……片付いたかね?』
彼の登場に佑は一つ深呼吸をし、香澄をしっかり抱いて立ち上がる。
『お陰様で香澄を見つけられました。恩に着ます』
『はは、何て事はないさ。君がタスク・ミツルギなら、今度うちの車でも一台買ってくれ』
『うちの車?』
きょとんとした佑に、マルコはウィンクをしてみせた。
『いまはCEOの座に引っ込ませてもらったが、私は以前フィオーレ社で社長をしていたんだ。君の祖父であるアドラー氏とも友人だよ』
フィオーレと言えば、泣く子も黙るイタリアの高級車だ。
『わぁお、タスクすんげぇ大物引っ張ったな』
アロイスが佑の肩をポンと叩く。
それから香澄を覗き込み、気の毒そうに呟いた。
『……俺が言える事じゃないけど、カスミは可哀想な目に遭ったね。薬も飲まされてるし、ひとまず医者だ』
『……ああ』
「社長、医師に連絡をし、ホテルに来るよう手配しておきました」
もう一人姿を現したのは、佑の第三秘書の河野だ。
いつもと変わりないクールな彼は、スーツを着た姿で佑の側に控える。
「……ああ、ありがとう。とりあえずホテルに向かおう」
イギリスでは救急車の台数が少ないため、いざという時に連絡をしてもなかなか来ない。
それならば自分でベッドのある場所まで移動し、往診してくれる家庭医を呼んだ方がいいと判断したのだ。
「奥に香澄の服があると思うから、着替えさせてくる」
佑が奥に向かおうとすると、河野が先を行く。
「赤松さんの荷物を探します。社長は彼女をベッドに寝かせてください。社長もお疲れでしょうから、負担は少ないほうがいいです」
「分かった。ありがとう」
アロイスたちにはリビングで待っていてもらい、佑は香澄を抱いたまま河野が見つけた部屋のベッドに香澄を横たえた。
今はジャケットに隠されているものの、先ほどまで彼女がどんな格好をさせられていたかは分かっている。
自分だけが見ていい肌を、大勢の前で晒された。
薬漬けにされ、衆目を浴びた状態で乳汁を搾られる辱めを受けた。
「…………かすみ……っ」
彼女が可哀想で可哀想で、佑は声を震わせる。
艶やかな髪を撫で、少し輪郭が細くなったように思える頬を辿り、そっと唇を撫でてキスをした。
「……お帰り、香澄。……もう大丈夫だ」
洟を啜り、佑は何度も香澄の頭を撫でて、泣きそうな顔で微笑みかけた。
彼女は何も反応をしない。
それでも、今は生きてこの手に抱けただけで、普段は信じていない神に感謝をした。。
**
この結末に至るまで、様々な人間関係があった。
まず土曜日の夕方、佑のもとに河野が現れた。
突然ではなく、金曜日の朝に松井から連絡があった。
『河野さんをロンドンに向かわせました。私より体力がありますし、何かあった時のために護身術も身につけています。どうぞ存分に彼の能力を使い、赤松さんを取り戻してください。社長秘書の仕事はすべて私にお任せください』
河野が来ると思っていた佑は、その日の捜索を早めに打ち切ってホテルに戻った。
テオに捨てられたと理解した途端、エミリアは泣きわめいた。
『いやあああぁああーっ!! エミはお兄様といるのぉ!!』
癇癪を起こした子供のようにエミリアが声を上げ、兄の脚にしがみつく。
『ねぇ、お兄様お願い! もう一度エミにお兄様を愛させて? エミがお兄様そっくりの可愛い子を産むから!』
その言葉を聞いた瞬間、エミリアのテオへの感情をうっすら理解していた者たちがゾッと鳥肌を立てた。
テオは言葉もなくもう一度エミリアを打ち、警官に向かって突き飛ばした。
『連れて行け!!』
髪を乱したテオの怒号が響き、兄の名を呼ぶエミリアが警官によってズルズルと引きずられてゆく。
別荘は静けさを取り戻し、その場にいた全員が気まずく黙り込む。
やがて出入り口の方からゆっくりとした足音がする。
姿を現したのは、佑とホテルで話をしていたマルコだった。
『……片付いたかね?』
彼の登場に佑は一つ深呼吸をし、香澄をしっかり抱いて立ち上がる。
『お陰様で香澄を見つけられました。恩に着ます』
『はは、何て事はないさ。君がタスク・ミツルギなら、今度うちの車でも一台買ってくれ』
『うちの車?』
きょとんとした佑に、マルコはウィンクをしてみせた。
『いまはCEOの座に引っ込ませてもらったが、私は以前フィオーレ社で社長をしていたんだ。君の祖父であるアドラー氏とも友人だよ』
フィオーレと言えば、泣く子も黙るイタリアの高級車だ。
『わぁお、タスクすんげぇ大物引っ張ったな』
アロイスが佑の肩をポンと叩く。
それから香澄を覗き込み、気の毒そうに呟いた。
『……俺が言える事じゃないけど、カスミは可哀想な目に遭ったね。薬も飲まされてるし、ひとまず医者だ』
『……ああ』
「社長、医師に連絡をし、ホテルに来るよう手配しておきました」
もう一人姿を現したのは、佑の第三秘書の河野だ。
いつもと変わりないクールな彼は、スーツを着た姿で佑の側に控える。
「……ああ、ありがとう。とりあえずホテルに向かおう」
イギリスでは救急車の台数が少ないため、いざという時に連絡をしてもなかなか来ない。
それならば自分でベッドのある場所まで移動し、往診してくれる家庭医を呼んだ方がいいと判断したのだ。
「奥に香澄の服があると思うから、着替えさせてくる」
佑が奥に向かおうとすると、河野が先を行く。
「赤松さんの荷物を探します。社長は彼女をベッドに寝かせてください。社長もお疲れでしょうから、負担は少ないほうがいいです」
「分かった。ありがとう」
アロイスたちにはリビングで待っていてもらい、佑は香澄を抱いたまま河野が見つけた部屋のベッドに香澄を横たえた。
今はジャケットに隠されているものの、先ほどまで彼女がどんな格好をさせられていたかは分かっている。
自分だけが見ていい肌を、大勢の前で晒された。
薬漬けにされ、衆目を浴びた状態で乳汁を搾られる辱めを受けた。
「…………かすみ……っ」
彼女が可哀想で可哀想で、佑は声を震わせる。
艶やかな髪を撫で、少し輪郭が細くなったように思える頬を辿り、そっと唇を撫でてキスをした。
「……お帰り、香澄。……もう大丈夫だ」
洟を啜り、佑は何度も香澄の頭を撫でて、泣きそうな顔で微笑みかけた。
彼女は何も反応をしない。
それでも、今は生きてこの手に抱けただけで、普段は信じていない神に感謝をした。。
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この結末に至るまで、様々な人間関係があった。
まず土曜日の夕方、佑のもとに河野が現れた。
突然ではなく、金曜日の朝に松井から連絡があった。
『河野さんをロンドンに向かわせました。私より体力がありますし、何かあった時のために護身術も身につけています。どうぞ存分に彼の能力を使い、赤松さんを取り戻してください。社長秘書の仕事はすべて私にお任せください』
河野が来ると思っていた佑は、その日の捜索を早めに打ち切ってホテルに戻った。
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