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第八部・イギリス捜索 編
異変
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佑はボストンバッグを手に、まっすぐホテルに入った。
宮殿のような華麗さがありながら、品のいいロビーを佑は颯爽と歩く。
彼の姿を見て、女性たちが悩ましい吐息をついた。
どこかから『タスク・ミツルギ』という声が聞こえる。
普段なら話題の的となるのは避けたいところだが、今ばかりは香澄を探すために少しでも自分の知名度を利用できたらと思った。
Tシャツにジャケット、それにテーパードパンツという姿の佑は、自らフロント前に立つ。
『予約していたタスク・ミツルギです』
彼の名前と顔を見て、フロントの男性は感じよく微笑んだ。
『ご予約賜っております。もしミスターさえ問題なければ、スイートもご用意できますがどう致しましょうか? ネットでご予約された部屋よりも環境は静かです』
気を利かせてくれたフロントの男性に、佑は微笑み頷いた。
『では二名でお願いします。連れもいますので、彼らの部屋は予定通りお願いできたらと思います』
『かしこまりました』
ひとまず一週間泊まる予定でいて、そのあとは状況に合わせて対応できたらと彼に伝えた。
一週間後は、他の客との兼ね合いでどんな部屋でも構わないと伝えると、フロントの男性は感じよく微笑んで了承してくれた。
佑がホテルに着いた二十時過ぎ、青いドレスを着た香澄は一階にあるレストランでエミリアと食事をしていた。
だが急いで部屋に荷物を置きに行った佑は、レストランの奥に座っていた香澄に気付けずに射た。
彼が一息ついてロビーで見張りを始めた頃には、二人は部屋に戻ったあとというすれ違いが起こっていた。
一時間ロビーで聞き込みをしても、佑は収穫を得られなかった。
このホテルに泊まる客は多国籍だ。
おまけに北アジアの人は、それ以外の人種から見ると区別がつきにくい。
あの双子ですらも、初対面で言葉を交わさない状態で、日本人、中国人、韓国人を見分けるのは少し難しいと言っていた。
二人を探し、黒髪の女性だと思って追いかければ広東語で『何ですか?』と言われ、エミリアかと思って話しかけたら北欧系の女性が不思議そうな顔で振り向いた。
ロビーで談笑していた人に日本人女性を見なかったかと尋ねても、彼らも『アジア人なら大勢見たが、日本人かは分からない』と首を横に振る。
イタリア人の老紳士に話しかけると、彼は読んでいた新聞から顔を上げて丁寧に対応してくれた。
一緒になって周囲を見回し、彼が『彼女は違うんじゃないかね?』と言ったが、示した先にいたのは香澄ではない、観光客の日本人女性がいた。
佑はアロイスにホテルでの聞き込みを終えて外に出ると連絡をし、近くにある他のホテルまで捜索範囲を広げた。
しかし二十三時まで粘り、疲れてホテルに戻っても、収穫はないままだった――。
**
日差しを感じ、香澄はぼんやりと目を開ける。
(昨晩は何だか凄い夢を見た気がするな……)
詳しくは覚えていないが、エミリアが男性に抱かれている夢だった気がする。
それを、香澄は同じベッドに寝て見物していたという、リアルな夢だ。
しかし目が覚めるときちんと自分のベッドで寝ているし、何も変わった事はない。
「へん、な……ゆめ」
独り言を言おうとして、やけに呂律が回らないのに気付いた。
(何だろう……。変なの。とにかく、起きないと……)
無理矢理起き上がると、凄まじい目眩に襲われてベッドから落ちてしまった。
『カスミさん!?』
その物音を聞き、エミリアが部屋に駆け込んできた。
『大丈夫!? どうしたの!?』
彼女に抱き起こされて尋ねられても、香澄は言うべき言葉をすぐに思い浮かべられない。
『カスミさん? どうしたの?』
『んぁ……わ、からな……れす。からだ……、いうこと、きかな、……くて』
香澄の体はすっかり弛緩してしまっていた。
おまけに脳内に白い霧がかかったようになり、ろくに思考を巡らせられない。
宮殿のような華麗さがありながら、品のいいロビーを佑は颯爽と歩く。
彼の姿を見て、女性たちが悩ましい吐息をついた。
どこかから『タスク・ミツルギ』という声が聞こえる。
普段なら話題の的となるのは避けたいところだが、今ばかりは香澄を探すために少しでも自分の知名度を利用できたらと思った。
Tシャツにジャケット、それにテーパードパンツという姿の佑は、自らフロント前に立つ。
『予約していたタスク・ミツルギです』
彼の名前と顔を見て、フロントの男性は感じよく微笑んだ。
『ご予約賜っております。もしミスターさえ問題なければ、スイートもご用意できますがどう致しましょうか? ネットでご予約された部屋よりも環境は静かです』
気を利かせてくれたフロントの男性に、佑は微笑み頷いた。
『では二名でお願いします。連れもいますので、彼らの部屋は予定通りお願いできたらと思います』
『かしこまりました』
ひとまず一週間泊まる予定でいて、そのあとは状況に合わせて対応できたらと彼に伝えた。
一週間後は、他の客との兼ね合いでどんな部屋でも構わないと伝えると、フロントの男性は感じよく微笑んで了承してくれた。
佑がホテルに着いた二十時過ぎ、青いドレスを着た香澄は一階にあるレストランでエミリアと食事をしていた。
だが急いで部屋に荷物を置きに行った佑は、レストランの奥に座っていた香澄に気付けずに射た。
彼が一息ついてロビーで見張りを始めた頃には、二人は部屋に戻ったあとというすれ違いが起こっていた。
一時間ロビーで聞き込みをしても、佑は収穫を得られなかった。
このホテルに泊まる客は多国籍だ。
おまけに北アジアの人は、それ以外の人種から見ると区別がつきにくい。
あの双子ですらも、初対面で言葉を交わさない状態で、日本人、中国人、韓国人を見分けるのは少し難しいと言っていた。
二人を探し、黒髪の女性だと思って追いかければ広東語で『何ですか?』と言われ、エミリアかと思って話しかけたら北欧系の女性が不思議そうな顔で振り向いた。
ロビーで談笑していた人に日本人女性を見なかったかと尋ねても、彼らも『アジア人なら大勢見たが、日本人かは分からない』と首を横に振る。
イタリア人の老紳士に話しかけると、彼は読んでいた新聞から顔を上げて丁寧に対応してくれた。
一緒になって周囲を見回し、彼が『彼女は違うんじゃないかね?』と言ったが、示した先にいたのは香澄ではない、観光客の日本人女性がいた。
佑はアロイスにホテルでの聞き込みを終えて外に出ると連絡をし、近くにある他のホテルまで捜索範囲を広げた。
しかし二十三時まで粘り、疲れてホテルに戻っても、収穫はないままだった――。
**
日差しを感じ、香澄はぼんやりと目を開ける。
(昨晩は何だか凄い夢を見た気がするな……)
詳しくは覚えていないが、エミリアが男性に抱かれている夢だった気がする。
それを、香澄は同じベッドに寝て見物していたという、リアルな夢だ。
しかし目が覚めるときちんと自分のベッドで寝ているし、何も変わった事はない。
「へん、な……ゆめ」
独り言を言おうとして、やけに呂律が回らないのに気付いた。
(何だろう……。変なの。とにかく、起きないと……)
無理矢理起き上がると、凄まじい目眩に襲われてベッドから落ちてしまった。
『カスミさん!?』
その物音を聞き、エミリアが部屋に駆け込んできた。
『大丈夫!? どうしたの!?』
彼女に抱き起こされて尋ねられても、香澄は言うべき言葉をすぐに思い浮かべられない。
『カスミさん? どうしたの?』
『んぁ……わ、からな……れす。からだ……、いうこと、きかな、……くて』
香澄の体はすっかり弛緩してしまっていた。
おまけに脳内に白い霧がかかったようになり、ろくに思考を巡らせられない。
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