420 / 1,550
第八部・イギリス捜索 編
夢 ★
しおりを挟む
『いま、どうしてる?』
マティアスは平静を装ったまま、三人に向かって静かにするよう唇に指を当てた。
《場所を変えて休んでいるわ。日本はいま早朝じゃないの?》
『怒り狂ったカイに殴り殺されそうだから、ドイツに逃げ帰ってきた』
《そう。お気の毒》
自分が命じた事だろうに、エミリアは電話の向こうで楽しげに笑うだけだ。
殴られたマティアスへの罪悪感など、持ち合わせていないらしい。
『フラウ・カスミは連れ出したのか?』
《それはあなたにも秘密よ。私の目的は私だけが知っていればいいの。すべて終わったら連絡をするから、それまでドイツで大人しく待っていなさい》
『あんたに何かあれば、秘書の俺が困る』
なおも食い下がるマティアスに、エミリアは少し考えるそぶりを見せる。
《じゃあ、一週間後にロンドンにいらっしゃい》
『今はロンドンじゃないのか?』
《イギリスにはいるけど、ロンドンではないわね。そこは教えてあげない。いい? 一週間後よ。その時またこちらからコンタクトを取るわ。連絡手段はすべてオフにしておくから、連絡をしても無駄よ》
そこで電話が切れた。
息を殺していた三人は、はぁー……と溜め息をつく。
それから佑が困惑した声を出した。
『ロンドンじゃないのか? じゃあ、どこにいる?』
『ロンドン近郊じゃないかな。バーミンガム、シェフィールド、マンチェスター。リバプールまで行けば、アイルランドに行く船も出てる』
『地方には雰囲気のある綺麗なホテルもあるしな。……くそっ』
自分の膝を拳で打った佑に、アロイスが解決案を出す。
『タスク、もうなりふり構ってられないよ。オーパに連絡して、知り合いのホテルの支配人全員に確認してもらおう。俺たちもそれなりに顔が広いけど、オーパの顔の広さは比にならない』
言われてその通りだと思うものの、こうなった元凶にさらに頼るのかと佑は唇を噛む。
『意地張ってる場合じゃないだろ。オーパに文句を言いたいなら、まずカスミを取り戻してからだ』
だがクラウスにもっともな事を言われ、すぐに決めた。
『分かった』
『気まずいだろうから、俺が連絡するよ。いつもなら一個貸しだけど、今回ばかりは贖罪だ』
アロイスはまた電話をかけ、佑は何度目になるか分からない溜め息をついた。
**
食事が終わって着替えた香澄は、意識がぼんやりとしてきたのに気づき、疲れを自覚した。
『すみません、エミリアさん。私、もう休ませてもらっていいですか?』
『ええ、時差や移動の疲れもあると思うし、ゆっくり休んで』
歯磨きや洗顔などを終えてから、香澄は自分用のベッドにばったりと倒れ込んだ。
ベッドカバーを外して中に潜り込むのももどかしく、あっという間に眠気が襲ってくる。
気がつくと、深く深く眠っていた。
ゆら、ゆら、と体が揺れて、香澄は自分が夢を見ているのだと感じた。
何せ体は動かないし、舌も動かせず何も言えない。
それでもうっすらと目を開けると、エミリアの美しい裸体が上下していた。
視線だけ横にやると、自分の隣に全裸の男性が仰向けになっている。
体つきや声の感じからして、エミリアの護衛かもしれない。
――いや、それだけではない。
彼に跨がって腰を振っているエミリアを、他の護衛が取り囲み、まるで女王に傅くように愛撫しては彼女の寵愛を乞うていた。
『ああ、レディ・エミリア。あなたは誰よりも美しい』
護衛なので必要最低限しか話しておらず、彼らの声を初めて聞いた気がする。
汗だくになった彼らは、高級なベッドをギシギシと軋ませてエミリアをただ悦ばせる。
エミリアの艶めかしい肢体に汗が伝い、形のいい乳房が跳ねる。
グチュグチュという水音を、香澄はぼんやりと聞いていた。
(エッチな夢、見ちゃってる……。それに、エミリアさんの夢だなんて……)
そう思うものの、恩人の嬌態を夢に見てしまって申し訳ないと思う思考能力はなかった。
何せ、これは夢だ。
体を上下させながら、エミリアは憎々しげに声を張り上げた。
『カイは私よりこの子がいいんですって。アロもクラも、みぃんなこの子がいいと言ったわ』
奔放に腰を振るエミリアは、今まで見せなかった烈しさで香澄を睨み、手に持った何かを浴びせかけた。
マティアスは平静を装ったまま、三人に向かって静かにするよう唇に指を当てた。
《場所を変えて休んでいるわ。日本はいま早朝じゃないの?》
『怒り狂ったカイに殴り殺されそうだから、ドイツに逃げ帰ってきた』
《そう。お気の毒》
自分が命じた事だろうに、エミリアは電話の向こうで楽しげに笑うだけだ。
殴られたマティアスへの罪悪感など、持ち合わせていないらしい。
『フラウ・カスミは連れ出したのか?』
《それはあなたにも秘密よ。私の目的は私だけが知っていればいいの。すべて終わったら連絡をするから、それまでドイツで大人しく待っていなさい》
『あんたに何かあれば、秘書の俺が困る』
なおも食い下がるマティアスに、エミリアは少し考えるそぶりを見せる。
《じゃあ、一週間後にロンドンにいらっしゃい》
『今はロンドンじゃないのか?』
《イギリスにはいるけど、ロンドンではないわね。そこは教えてあげない。いい? 一週間後よ。その時またこちらからコンタクトを取るわ。連絡手段はすべてオフにしておくから、連絡をしても無駄よ》
そこで電話が切れた。
息を殺していた三人は、はぁー……と溜め息をつく。
それから佑が困惑した声を出した。
『ロンドンじゃないのか? じゃあ、どこにいる?』
『ロンドン近郊じゃないかな。バーミンガム、シェフィールド、マンチェスター。リバプールまで行けば、アイルランドに行く船も出てる』
『地方には雰囲気のある綺麗なホテルもあるしな。……くそっ』
自分の膝を拳で打った佑に、アロイスが解決案を出す。
『タスク、もうなりふり構ってられないよ。オーパに連絡して、知り合いのホテルの支配人全員に確認してもらおう。俺たちもそれなりに顔が広いけど、オーパの顔の広さは比にならない』
言われてその通りだと思うものの、こうなった元凶にさらに頼るのかと佑は唇を噛む。
『意地張ってる場合じゃないだろ。オーパに文句を言いたいなら、まずカスミを取り戻してからだ』
だがクラウスにもっともな事を言われ、すぐに決めた。
『分かった』
『気まずいだろうから、俺が連絡するよ。いつもなら一個貸しだけど、今回ばかりは贖罪だ』
アロイスはまた電話をかけ、佑は何度目になるか分からない溜め息をついた。
**
食事が終わって着替えた香澄は、意識がぼんやりとしてきたのに気づき、疲れを自覚した。
『すみません、エミリアさん。私、もう休ませてもらっていいですか?』
『ええ、時差や移動の疲れもあると思うし、ゆっくり休んで』
歯磨きや洗顔などを終えてから、香澄は自分用のベッドにばったりと倒れ込んだ。
ベッドカバーを外して中に潜り込むのももどかしく、あっという間に眠気が襲ってくる。
気がつくと、深く深く眠っていた。
ゆら、ゆら、と体が揺れて、香澄は自分が夢を見ているのだと感じた。
何せ体は動かないし、舌も動かせず何も言えない。
それでもうっすらと目を開けると、エミリアの美しい裸体が上下していた。
視線だけ横にやると、自分の隣に全裸の男性が仰向けになっている。
体つきや声の感じからして、エミリアの護衛かもしれない。
――いや、それだけではない。
彼に跨がって腰を振っているエミリアを、他の護衛が取り囲み、まるで女王に傅くように愛撫しては彼女の寵愛を乞うていた。
『ああ、レディ・エミリア。あなたは誰よりも美しい』
護衛なので必要最低限しか話しておらず、彼らの声を初めて聞いた気がする。
汗だくになった彼らは、高級なベッドをギシギシと軋ませてエミリアをただ悦ばせる。
エミリアの艶めかしい肢体に汗が伝い、形のいい乳房が跳ねる。
グチュグチュという水音を、香澄はぼんやりと聞いていた。
(エッチな夢、見ちゃってる……。それに、エミリアさんの夢だなんて……)
そう思うものの、恩人の嬌態を夢に見てしまって申し訳ないと思う思考能力はなかった。
何せ、これは夢だ。
体を上下させながら、エミリアは憎々しげに声を張り上げた。
『カイは私よりこの子がいいんですって。アロもクラも、みぃんなこの子がいいと言ったわ』
奔放に腰を振るエミリアは、今まで見せなかった烈しさで香澄を睨み、手に持った何かを浴びせかけた。
33
お気に入りに追加
2,552
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
相沢結衣は秘書課に異動となり、冷徹と噂される若き社長・西園寺蓮のもとで働くことになる。彼の完璧主義に振り回されながらも、仕事を通じて互いに信頼を築いていく二人。秘書として彼を支え続ける結衣の前に、次第に明かされる蓮の本当の姿とは――。仕事と恋愛が交錯する中で紡がれる、大人の純愛ストーリー。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる