418 / 1,549
第八部・イギリス捜索 編
青いドレスとアンクレット
しおりを挟む
『マッサージ師もいるから、お腹が苦しくなければリラックスしていらっしゃい』
『はい』
部屋に控えていたアジア系の女性は、マッサージ師だ。
目が合うとにっこり笑い、『いつでもベッドへ』と挨拶をされた。
そのあとは神の手かと思うマッサージを受け、香澄はいつのまにかぐっすりと寝落ちていた。
疲労が溜まっていた足や腰、肩へのマッサージもそうなのだが、頭を揉まれると何より気持ちいい。
佑の事を考える間もなく、香澄は深い深い眠りの淵に落ちていった。
眠っているあいだ、エミリアは少し出掛けたようだ。
『カスミさん』と揺さぶられて起こされると、時刻は十九時過ぎになっている。
『あなたに似合いそうな服を買ってきたの。これを着て一緒にレストランに行きましょう? 食欲がないかもしれないけど、食べないと薬も飲めないわ』
『はい』
渡されたのは青いドレスだ。ふんわりとしたAラインが可愛らしい。
エミリアはすでにワインレッドのドレスを着ていて、香澄にストッキングや『合えばいいんだけれど』とパンプスまで用意してくれた。
『アクセサリーは私のを貸してあげるわね。着替えたら教えて』
そう言って、彼女は寝室を出て行く。
「……はぁ。美人で優しくて、本当に何ていい人なんだろう」
着ていた服をモソモソと脱ぎ、ストッキングを穿く。
それから持ち合わせていた青系のブラジャーをつけてドレスを被った。
ドレスはV字のネックラインから谷間が少し見え、可憐なシルエットなのにどこか色っぽい。
パンプスは少しヒールが高めだったが、そう長距離を歩くでもないので許容範囲だ。
こういう身支度をしていると、つい服を着る前にネクタリンをワンプッシュしたくなる。
だが今は手元にコロンを持っていないので、我が儘も言っていられない。
「本店があるっていうから、買えたらいいな」
そう思うものの思い入れの強い香りを嗅げば、佑を恋しく思うに決まっている。
「なに考えているんだろう。……別れを告げてきたのに、未練がましい」
自分に呆れて苦笑してから、気持ちを取り直しエミリアが待つリビングに向かった。
『お待たせしました』
『まぁ、似合っているわ。アクセサリーをつけてあげる。あとメイクも軽く施してあげるわ。そこに座って』
エミリアは香澄の後ろにまわり、先端に青い宝石がついたペンダントをつけてくれた。
『最近はアンクレットも流行なのよね』
微笑みながら、エミリアは香澄の右足首にピンクの石がついたアンクレットをつける。
『わぁ、可愛い』
『ふふ、そうでしょう。そのアンクレットあげるわ。きっとカスミさんのお守りになってくれるはずよ』
香澄は――知らない。
英語圏において青という色は、性的な意味を持つもあるという事を。
日本でピンクが性的なものを連想する色だとして、英語圏ではそれが青なのだ。
日本で性的な映画を『ピンク映画』と言うように、英語圏では成人向けの映画を『ブルーフィルム』と言い、青と言えばそのイメージが強い。
加えてアンクレットというアクセサリーも、普段佑がプレゼントしないため知識がほとんどない。
香澄が認識しているのは、足首につけるアクセサリーというだけだ。
しかし右足首につけるアンクレットには、「恋人募集中」や既婚者であれば浮気を望むサインが潜んでいる。
おまけにピンクの石に恋愛を連想させるのはたやすい。
青いドレスを纏う人は大勢いるし、一概に青だから性的とも言えない。
ドレスだけなら、悪意があったとは言えないだろう。
しかしアンクレットをプレゼントして「そんな意味があるとは知らなかったわ」と言い逃れするにはきついものがある。
エミリアは意図的に香澄を貶めるためにそれらを用意した。
しかし香澄はまったくその意味を知らず、無邪気に喜んでいた。
『カスミさんの髪は真っ黒で綺麗ね。アロクラも昔からアジア系の女の子が好きだったわ』
エミリアは香澄の髪をねじってピンを挿し、まとめ髪にしていく。
『そうなんですね。お二人はやっぱり、節子さんが日本人だから、日本人が好みなんでしょうか』
『かもしれないわね』
エミリアは機嫌良さそうに答える。
『はい』
部屋に控えていたアジア系の女性は、マッサージ師だ。
目が合うとにっこり笑い、『いつでもベッドへ』と挨拶をされた。
そのあとは神の手かと思うマッサージを受け、香澄はいつのまにかぐっすりと寝落ちていた。
疲労が溜まっていた足や腰、肩へのマッサージもそうなのだが、頭を揉まれると何より気持ちいい。
佑の事を考える間もなく、香澄は深い深い眠りの淵に落ちていった。
眠っているあいだ、エミリアは少し出掛けたようだ。
『カスミさん』と揺さぶられて起こされると、時刻は十九時過ぎになっている。
『あなたに似合いそうな服を買ってきたの。これを着て一緒にレストランに行きましょう? 食欲がないかもしれないけど、食べないと薬も飲めないわ』
『はい』
渡されたのは青いドレスだ。ふんわりとしたAラインが可愛らしい。
エミリアはすでにワインレッドのドレスを着ていて、香澄にストッキングや『合えばいいんだけれど』とパンプスまで用意してくれた。
『アクセサリーは私のを貸してあげるわね。着替えたら教えて』
そう言って、彼女は寝室を出て行く。
「……はぁ。美人で優しくて、本当に何ていい人なんだろう」
着ていた服をモソモソと脱ぎ、ストッキングを穿く。
それから持ち合わせていた青系のブラジャーをつけてドレスを被った。
ドレスはV字のネックラインから谷間が少し見え、可憐なシルエットなのにどこか色っぽい。
パンプスは少しヒールが高めだったが、そう長距離を歩くでもないので許容範囲だ。
こういう身支度をしていると、つい服を着る前にネクタリンをワンプッシュしたくなる。
だが今は手元にコロンを持っていないので、我が儘も言っていられない。
「本店があるっていうから、買えたらいいな」
そう思うものの思い入れの強い香りを嗅げば、佑を恋しく思うに決まっている。
「なに考えているんだろう。……別れを告げてきたのに、未練がましい」
自分に呆れて苦笑してから、気持ちを取り直しエミリアが待つリビングに向かった。
『お待たせしました』
『まぁ、似合っているわ。アクセサリーをつけてあげる。あとメイクも軽く施してあげるわ。そこに座って』
エミリアは香澄の後ろにまわり、先端に青い宝石がついたペンダントをつけてくれた。
『最近はアンクレットも流行なのよね』
微笑みながら、エミリアは香澄の右足首にピンクの石がついたアンクレットをつける。
『わぁ、可愛い』
『ふふ、そうでしょう。そのアンクレットあげるわ。きっとカスミさんのお守りになってくれるはずよ』
香澄は――知らない。
英語圏において青という色は、性的な意味を持つもあるという事を。
日本でピンクが性的なものを連想する色だとして、英語圏ではそれが青なのだ。
日本で性的な映画を『ピンク映画』と言うように、英語圏では成人向けの映画を『ブルーフィルム』と言い、青と言えばそのイメージが強い。
加えてアンクレットというアクセサリーも、普段佑がプレゼントしないため知識がほとんどない。
香澄が認識しているのは、足首につけるアクセサリーというだけだ。
しかし右足首につけるアンクレットには、「恋人募集中」や既婚者であれば浮気を望むサインが潜んでいる。
おまけにピンクの石に恋愛を連想させるのはたやすい。
青いドレスを纏う人は大勢いるし、一概に青だから性的とも言えない。
ドレスだけなら、悪意があったとは言えないだろう。
しかしアンクレットをプレゼントして「そんな意味があるとは知らなかったわ」と言い逃れするにはきついものがある。
エミリアは意図的に香澄を貶めるためにそれらを用意した。
しかし香澄はまったくその意味を知らず、無邪気に喜んでいた。
『カスミさんの髪は真っ黒で綺麗ね。アロクラも昔からアジア系の女の子が好きだったわ』
エミリアは香澄の髪をねじってピンを挿し、まとめ髪にしていく。
『そうなんですね。お二人はやっぱり、節子さんが日本人だから、日本人が好みなんでしょうか』
『かもしれないわね』
エミリアは機嫌良さそうに答える。
32
お気に入りに追加
2,546
あなたにおすすめの小説
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる