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第八部・イギリス捜索 編
生け贄になるべき運命
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佑も息をつき、温くなったコーヒーを一口飲む。
それから向かいに座っている双子を見た。
「お前らは、こうなる前にエミリアを引き留めようと思わなかったのか? マティアスの腹の内を知っていたとして、どこまで今回の事を知っていて、どこまで聞いていなかった?」
アロイスとクラウスは顔を見合わせ、軽く目だけで天井を仰ぐ。
「僕らがエミにカスミの事を言ったっていうよりも、エミがタスクを気にして調べているうちに、婚約の話を拾ったんだよ。それを僕らに確かめてきた。どれぐらいタスクに執着してるかは分からなかったから、その時にどれぐらい被害が出るかは分からなかった。ただ、雲行きが怪しくなって『まずいな』とは思った」
そう言われて思いだしたのは、二回目にマティアスを殴った時の彼の言葉だ。
『そんなに大事なら、誰にも知られないように隠しておいたら良かっただろう』
マティアスは「自分に手を出されたくなかったら香澄を隠しておけ」という意味で言ったのではなかった。
こうなる事を見越し、エミリアに見つからないようにしておけと言いたかったのだろう。
「まぁ、タスクなら相手ができたらメディアに取り上げられるよね。まだ婚約発表はしていなくても、二人でプライベートに出かけていれば、どんだけ注意していても誰かに写真を撮られる可能性はある。俺らもそこまで責任取れとは言わないよ。幸せにやってたんだろうし、『これから不幸が訪れるかもしれない』とも言えなかった。それに、こうならなかったら、タスクもエミが魔女だなんて思わないだろ?」
尋ねられ、自分が今まで彼女をまったく疑っていなかった事を自覚し、反省する。
「…………確かに。俺はエミリアの本性を知らなかった。急にエミリアが悪女だと言われても、いつものお前らの冗談だと思っただろう」
それほど、エミリアの表向きの演技は完璧だったのだ。
「カスミが帰国してから、僕らはバカンスになったらすぐ日本に行こうって思ってた。何も知らないタスクからしたら鬱陶しいかもしれないけど、一応僕らなりに二人を近くで守ろうとしてたんだ」
「――確かに、邪魔しに来たようにしか思えなかった」
真顔で突っ込む佑に、双子が苦笑いをする。
「……俺らが日本に行くのを、エミは面白くなく思っただろう。でも俺らがいない状態でエミが日本に行ったら、タスクたちの味方はカスミには初対面のマティアスしかいなくなるだろ? だから、来日がエミへの煽りになるのを覚悟した上で、先にカスミの周りを固めた。困ったディーとダムでも、アリスを守りたかったんだよ」
『不思議の国のアリス』の双子を例えに出され、不覚にも笑いかけた。
一方で、クラウスが溜め息混じりに言う。
「マティアスの気持ちはもう随分前から知ってた。あいつ、ずっとエミと一緒に育ってたけど、エミを憎み続けていたから」
二人は理想の主従だと思っていた佑は、意外な言葉を耳にして軽く瞠目する。
「そこは本人から聞きなよ。俺らが話す事じゃない」
タスクの反応を見て、アロイスは軽く首を横に振る。
そしてクラウスが続ける。
「僕らはマティアスから、エミが日本に行って二人の邪魔をする予定だと聞いた。あいつは秘書だから、エミのスケジュールを完全に把握してる。仕事もプライベートもいつでも一緒だから、あいつの情報は信頼できる。それでエミがエグい事をするかもしれないって予想してた。……カスミをレイプしろってマティアスが命令されたのは、日本に来る飛行機の中でらしい。日本に着いたらすぐ連絡くれたよ」
佑は深く溜め息をつく。
香澄がこうなると、双子は前もって知っていた。
だというのに未然に防ぐ事ができず、ただただ悔しい。
しかし双子はエミリアを完膚なきまで叩き潰すのが目的なので、計画が駄目になる可能性があるなら、悲劇が起こると分かっていても決して言わなかっただろう。
エミリアが日本で何も問題を起こさなければ、制裁を与える理由もなくなる。
恐らく法的に罰せられるのとは別に、双子、アドラーまでもが彼女と祖父ごと復讐できる、個人的な罪を作らなければいけなかった。
香澄を生贄にした問題については、後でアドラーを含め、全員に贖罪させるつもりだ。
肝心の香澄を取り戻していないのに、順番を間違えて感情論でゴタゴタしたくない。
「ただ、マティアスが本当にヤるのか、ヤらないかまでは知らなかった。だから俺たちもあの時は本当に焦ってたんだ。奴の事だからヤらないだろうとは思っていたけど、カスミの動揺っぷりと中に出したっぽい雰囲気に、完全に騙された」
はぁ……と溜息をつき、佑はアロイスに尋ねる。
「全部エミリアを騙して、香澄に手を出させるためか?」
「そうだよ。ごめん。もしマティアスがエミの命令に背いたなら、エミはまだこのホテルに留まって次の手を考えただろう。俺たちはエミが犯罪を犯すのを見届けて、追い詰めて証拠を掴まないとならないんだ」
「だからと言って……っ」
怒鳴りかけ、佑は大きく息を吸い込み、溜め息と共に深く長く吐き出した。
それから向かいに座っている双子を見た。
「お前らは、こうなる前にエミリアを引き留めようと思わなかったのか? マティアスの腹の内を知っていたとして、どこまで今回の事を知っていて、どこまで聞いていなかった?」
アロイスとクラウスは顔を見合わせ、軽く目だけで天井を仰ぐ。
「僕らがエミにカスミの事を言ったっていうよりも、エミがタスクを気にして調べているうちに、婚約の話を拾ったんだよ。それを僕らに確かめてきた。どれぐらいタスクに執着してるかは分からなかったから、その時にどれぐらい被害が出るかは分からなかった。ただ、雲行きが怪しくなって『まずいな』とは思った」
そう言われて思いだしたのは、二回目にマティアスを殴った時の彼の言葉だ。
『そんなに大事なら、誰にも知られないように隠しておいたら良かっただろう』
マティアスは「自分に手を出されたくなかったら香澄を隠しておけ」という意味で言ったのではなかった。
こうなる事を見越し、エミリアに見つからないようにしておけと言いたかったのだろう。
「まぁ、タスクなら相手ができたらメディアに取り上げられるよね。まだ婚約発表はしていなくても、二人でプライベートに出かけていれば、どんだけ注意していても誰かに写真を撮られる可能性はある。俺らもそこまで責任取れとは言わないよ。幸せにやってたんだろうし、『これから不幸が訪れるかもしれない』とも言えなかった。それに、こうならなかったら、タスクもエミが魔女だなんて思わないだろ?」
尋ねられ、自分が今まで彼女をまったく疑っていなかった事を自覚し、反省する。
「…………確かに。俺はエミリアの本性を知らなかった。急にエミリアが悪女だと言われても、いつものお前らの冗談だと思っただろう」
それほど、エミリアの表向きの演技は完璧だったのだ。
「カスミが帰国してから、僕らはバカンスになったらすぐ日本に行こうって思ってた。何も知らないタスクからしたら鬱陶しいかもしれないけど、一応僕らなりに二人を近くで守ろうとしてたんだ」
「――確かに、邪魔しに来たようにしか思えなかった」
真顔で突っ込む佑に、双子が苦笑いをする。
「……俺らが日本に行くのを、エミは面白くなく思っただろう。でも俺らがいない状態でエミが日本に行ったら、タスクたちの味方はカスミには初対面のマティアスしかいなくなるだろ? だから、来日がエミへの煽りになるのを覚悟した上で、先にカスミの周りを固めた。困ったディーとダムでも、アリスを守りたかったんだよ」
『不思議の国のアリス』の双子を例えに出され、不覚にも笑いかけた。
一方で、クラウスが溜め息混じりに言う。
「マティアスの気持ちはもう随分前から知ってた。あいつ、ずっとエミと一緒に育ってたけど、エミを憎み続けていたから」
二人は理想の主従だと思っていた佑は、意外な言葉を耳にして軽く瞠目する。
「そこは本人から聞きなよ。俺らが話す事じゃない」
タスクの反応を見て、アロイスは軽く首を横に振る。
そしてクラウスが続ける。
「僕らはマティアスから、エミが日本に行って二人の邪魔をする予定だと聞いた。あいつは秘書だから、エミのスケジュールを完全に把握してる。仕事もプライベートもいつでも一緒だから、あいつの情報は信頼できる。それでエミがエグい事をするかもしれないって予想してた。……カスミをレイプしろってマティアスが命令されたのは、日本に来る飛行機の中でらしい。日本に着いたらすぐ連絡くれたよ」
佑は深く溜め息をつく。
香澄がこうなると、双子は前もって知っていた。
だというのに未然に防ぐ事ができず、ただただ悔しい。
しかし双子はエミリアを完膚なきまで叩き潰すのが目的なので、計画が駄目になる可能性があるなら、悲劇が起こると分かっていても決して言わなかっただろう。
エミリアが日本で何も問題を起こさなければ、制裁を与える理由もなくなる。
恐らく法的に罰せられるのとは別に、双子、アドラーまでもが彼女と祖父ごと復讐できる、個人的な罪を作らなければいけなかった。
香澄を生贄にした問題については、後でアドラーを含め、全員に贖罪させるつもりだ。
肝心の香澄を取り戻していないのに、順番を間違えて感情論でゴタゴタしたくない。
「ただ、マティアスが本当にヤるのか、ヤらないかまでは知らなかった。だから俺たちもあの時は本当に焦ってたんだ。奴の事だからヤらないだろうとは思っていたけど、カスミの動揺っぷりと中に出したっぽい雰囲気に、完全に騙された」
はぁ……と溜息をつき、佑はアロイスに尋ねる。
「全部エミリアを騙して、香澄に手を出させるためか?」
「そうだよ。ごめん。もしマティアスがエミの命令に背いたなら、エミはまだこのホテルに留まって次の手を考えただろう。俺たちはエミが犯罪を犯すのを見届けて、追い詰めて証拠を掴まないとならないんだ」
「だからと言って……っ」
怒鳴りかけ、佑は大きく息を吸い込み、溜め息と共に深く長く吐き出した。
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