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第八部・イギリス捜索 編

三人寄れば

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「それもあり得るね。大都市はマークから外そう」

 羽田空港と成田空港に連絡をし、婚約者が誘拐されたので監視カメラをチェックしてほしいと、言うには言った。

 だが警察の協力なしにそういう事はできないと言われた。
 乗客の個人情報が大事と言われれば、何も言えなくなる。

 航空会社関係の知り合いにも連絡をしたが皆忙しく、秘書が電話に出て「折り返します」と言われたが、まだ連絡はない。

 コンシェルジュに伝えて、世界地図をプリントアウトしてもらい、テーブルの上に広げている。

 それを見ながら、アロイスが言った。

「アジアは紛れやすいけど、近場に逃げるとは考えにくい。俺がもしエミなら、ヨーロッパかアメリカかな」

 そう言って、彼はアメリカとヨーロッパの上に、コーヒーフレッシュを置いた。
 佑はじっとそれを見つめ、呟く。

「……ヨーロッパの気がする。何かあった時、味方に連絡をつけやすい。加えてイメージだが、エミリアは何かあった時にアメリカ……というよりもヨーロッパだ」

 馬鹿な事に香澄のスマホはバックごと佑が持っていて、GPSの追いようがない。

 エミリアに何度連絡をしても、返事はない。
 恐らく今はフライト中なので連絡がないのは当たり前だろうが、彼女なら航空会社の会員として飛行機のWi―Fiを使えるはずだ。

 それでも連絡がないのは、あえて無視していると言っていい。

「さて……、どこかな」

 こちらもコンシェルジュに頼んで持ってきてもらったチョコレートを、クラウスが一粒摘まんで口に放り込んだ。
 頭を使うので、糖分が必要との事だ。

「エミの性格や趣味から言って、東欧や北欧はない気がする。地中海側か、オーストリア、スイス、オランダ、イギリス。行ってスペイン、ポルトガル。……さすがにドイツに戻るマヌケじゃないだろ」

 クラウスの言葉を聞いたあと、佑は彼らに尋ねる。

「俺はちょっと冷静に考えられないが、お前らがエミリアだとして、彼女の気持ちになったらどこへ連れていくと思う? 香澄に信じられ、頼りにされている状況でだ。傷付いた彼女を癒やす名目で、エミリアなら……」

 双子は「うーん……」とうなる。

「女って買い物好きだよな。エミは特に服や靴、バッグ、ジュエリーが好きだ。ハイブランドが並んでいる大都市の近くじゃないか? それでいて、少し行けば静かな別荘地に向かえる場所」

 アロイスが脚を組み、自分の脚をトントンと指で打ちながら言う。
 それにクラウスが応えた。

「エミって海とかプールとか、水着になる所も好きだろ? あのご自慢の美ボディを色んな男に見せつけるんだよ。だから島やビーチとか水場があるトコもアリ」

 彼の意見を聞き、佑はタブレットに書き上げた国名リストに横線を引いた。

「じゃあ、内陸だからオーストリア、スイスは外そう」

 その時、アロイスが首を傾げた。

「どーしてもさ、フランス、イタリア、イギリスが臭いワケ。エミの好きそうな国だろ? ファッションの流行が盛んなフランス、イタリアとかさ。カスミも好きそうっていう理由なら、城のあるフランス、イギリスだ。フランスかなぁ……。ハイブランド沢山あるし、こないだ香水の新作が出たって言って、パリまで行ってたっけ」

「香水……」

 ふ……と佑の鼻先に、ジョン・アルクールの香りが漂った気がした。

 香澄がいつもつけている、ほのかに甘いネクタリンの香りだ。
 ベッドで二人の匂いが交じり合ったのを思い出すと、ギュッと胸が締め付けられる。

「ジョン・アルクール ロンドン」

 呟いた佑の言葉に、双子はハッと彼を見る。

「ソレ、エサになるかも」
「カスミってロンドン行った事あるか?」
「いや、ない」

 アロイスの質問に、佑が短く否定する。

「ハイブランドの本店ってさ、かなりなステータスなワケ。限定の商品も置いてるからね。僕らの店の前でも、記念撮影する子たちが大勢いるよ。おまけにロンドンには紅茶ブランドがあるし、アフターヌーンティーとか女の子って好きだろ。一等地のメイフェア地区には何でもある。それこそ、ジョン・アルクールの本店もね」

 クラウスがボールペンの頭で地図上にあるロンドンと書かれた場所を叩く。

「じゃあ、湖水地方の別荘を使ってる……っていう方向か。あそこならのんびりできるし、その気になったらロンドンまで六時間以内には移動できるだろ。泊まりがけで移動するにも、途中で観光できる場所は沢山ある」

 アロイスが前髪を掻き上げ、脚を組み替えた。

 マティアスが出て行ってから、三人とも気分を変えるためにシャワーを浴びた。

 現在双子は二人とも前髪が下りているのだが、もちろん佑は分け目などなくても見分けがつく。
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