【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第八部・イギリス捜索 編

日本をあとに

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 翌日は少し忙しく、早めに起きるとルームサービスで朝食を済ませ、すぐに羽田空港に向かった。

 マティアスはエミリアの秘書だが、彼女の周囲で世話を焼く人物は彼一人だけではない。
 運転手もいるし、護衛もいる。

 それらを駆使して、二人アはスムーズにファーストクラスのラウンジから、イギリスの航空会社の機体に移動していた。

 ファーストクラスに乗る事ができて、いつもなら嬉しくてワクワクしていただろう。
 だが疲れ切った香澄は、シートにもたれて目を閉じるしかできない。

『大丈夫?』
『はい、ありがとうございます』

 話しかけられて微笑むも、その顔には濃い疲労が浮かび上がっていた。

 いつもなら血色がよく透明感がありながらツヤツヤしている頬も、どこか青白い。
 目の下にもうっすらとクマがあった。

 おまけにガンガンと頭痛がして、思わず手で額を押さえる。

『頭痛がするの?』
『はい、でも大丈夫です』
『これをあげる』

 エミリアがバッグの中からポーチを出し、差し出してきたのは白い錠剤だ。

『頭痛薬ですか? ありがとうございます』

 チラッと薬剤名を見ると、英語表記だったが世界共通の鎮痛剤の名前が書いてある。
 ありがたく水で薬を飲みくだし、ふぅ……と息をつく。

『フライトは十二時間近くあるから、映画を見るなり眠るなり、好きに過ごして。私は少し仕事をするわね。今回はバカンスで日本に来たけれど、ファッション誌のコラムとか、ちょこちょこ合間にやる事があるのよ』

 そう言ってエミリアは薄型のノートパソコンを出す。

『お忙しいのにすみません』

『いいのよ。幼馴染みに会えて良かったし、カスミさんと残りのバカンスを過ごせるのも楽しみだわ。私、あまり女友達がいないから』

 最後の一言はとても意外で、香澄は「えっ?」と思わず日本語で声を漏らす。
 その反応に、エミリアは苦笑いしてみせた。

『貴族の生まれって、やっぱり色々気を遣われるのよ。周りも似たような生まれなら問題ないんだけれどね。いざ会社を立ち上げて女社長としてやっていくと、周りは部下ばかりだし同業者はライバルだわ。学生時代の友人はこの歳になると疎遠になっている子も多くて……』

『そうなんですね。でも分かる気がします。私も学生時代の友人でまだ繋がっているのって、一握りです。私はちょっと前まで生まれ育った札幌に住んでいたのですが、友達は進学や就職、結婚とかで全国に散っていきました。まだ地元にいる私の方が、逆に珍しいのかもしれません』

『大人になると同時に、色んなものを少しずつ失うわ。けれど失うだけじゃなく、どんどん成長して得ていくから丁度いいのよ』

『その通りです』

 彼女と微笑み合い、離陸が近づいてきたのでそれぞれシートベルトなどを確認する。

 心なしか、頭痛が楽になってきた気がする。

 飛行機は予定通り八時五十分に離陸できるようで、エンジンがかかり滑走路に向かって進み始めていた。

 勢いでここまで来てしまったが、もうなるようにしかならない。
 あまりに衝動のまま行動してしまった自覚はあるが、他にどんな選択肢があったのか改めて考えてもよく分からない。

 レイプされ、香澄は激しいショックを受け、今でも冷静になりきれていない。
 見た目、エミリアと普通に会話をできているように見えても、心の奥底では荒波が立っている。

 普段なら経験と価値観とで「こんな事をするのは愚かな事」と判断できたとしても、今はそうはいかない。

 佑に対する罪悪観があるからこそ、心の中で言い訳をしてしまう。

(汚された私を、浮気した私を、佑さんが許すはずがない。あんなに深い愛を注いでくれていたのに、私は簡単に裏切ってしまった。今まで受けた恩も愛情も、後ろ足で砂を蹴るような真似で返してしまった。……もう、戻れない)

 ポーン……と、離陸サインの音がする。

 飛行機のエンジン音にこの独特な音。
 ドイツから帰国したのはつい先日なのに、また飛行機に乗って海を渡ろうとしている。

 佑のプライベートジェットに乗って、帰省したのはいい思い出だ。
 地元での楽しい時間を思い出し、思わず口元が緩む。

 そのあと、知らずと溜め息が漏れた。

(私はやっぱり、佑さんに似合わないんだろうな。脚を怪我した事故も、今回の事も、きっと身の丈に合わないって、罰が当たったんだ)

 大凶を引いたのを思い出して卑屈になると、どんどん気持ちが沈んでくる。

(急に逃げて……怒ってるかな。それとも……、呆れてもう追いかけない……かな)

 昨晩も深夜に眠って熟睡しきれずの起床だったので、頭がまだぼんやりしている。

 正常ではない頭ではろくな事は考えられない。

 結果的に、香澄は考える事を放棄した。
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