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第八部・イギリス捜索 編
地獄絵図 ★
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立っている力がなくなって床の上に座り込んだが、目の前にいるマティアスをとにかく拒絶したくて、手と足を動かして必死に後ずさった。
バスルームから出た香澄の背に、廊下の背中がトンッと当たる。
それでも香澄は手と足を動かし続けた。
「だめっ! だめえええぇええぇっっ!!」
自分が全裸である事も、羞恥も、何もかも頭から抜けていた。
不意に、初めて処女を失ってしまった時の事を思いだしたのは、どうしてだろう。
健二に海に連れて行かれ、逃げられなくなった車の中で、抵抗する事を諦めた香澄は人形のように犯された。
晩秋の冷たい月明かりが差し込むなか、香澄はずっと車の天井を見上げていた。
ギシッギシッと車が軋み、窓が曇っていく。
一人で熱くなった健二の声が聞こえるなか、香澄の心はどこまでも冷えていった、――あの時の事を、思い出した。
あの時は誰も香澄を助けられなかった。
分かっていたからこそ、されるがままになって一刻も早く家に帰りたいと望んでいた。
けれど今は、香澄の側には佑がいる。
いつも守ってくれて、無償の愛をくれて、香澄が少しでも悲しめばその原因となるものを怒ってくれる人だ。
――彼を失望させたらいけない。
――彼が求める、綺麗で完璧な〝香澄〟でいなきゃいけないのに。
――また、自分を損なってしまった。
ざり、と香澄の心の中で、何かが大きく擦れる。
それは、香澄の尊厳が傷付いた音だ。
健二によって大きく損なわれた尊厳は、時間を掛けて自力で少しずつ癒やし、佑に愛されて育てられた。
せっかく、「私は幸せだ」と思えるようになったのに――。
――どうしよう。
――佑さんに嫌われる。
――こんな、汚れきった私……。
香澄はただ、自分が犯してしまった過ちの恐ろしさに、悲鳴を上げ続けるしかできなかった。
どれほど、そうやって声を上げていただろうか。
『マティアス!』
いきなり、ドアが激しくノックする音がし、佑の声がした。
けれど香澄はその声が佑だと認識する事ができない。
両手で顔を覆い、柔らかな顔の皮膚に爪を立て、声の限り叫んでいた。
マティアスは恐慌状態になった香澄を無視して、腰にタオルを巻いたままドアに向かう。
素直に開ければ怒り狂った獣がなだれこんでくると分かっていたからか、彼は少ししかドアを開かなかった。
初めに、ドアの隙間から顔を覗かせたのはエミリアだ。
『マティアス、女性の悲鳴が聞こえたけど、あなた――』
しかし彼女の言葉は最後まで紡がれない。
『エミ、どけ!!』
佑の怒号が聞こえ、ドアが思いきり蹴られた。
「香澄!」
部屋に入った佑は、一瞬にして事態を理解した。
己を失い絶叫する香澄の腹部や内腿は、白濁で濡れていた。
それが何であるか、彼が分からないはずがない。
「………………っ、――――――っっ!!!!」
ブワッと膨れ上がった感情を抑えるため、彼は歯を食いしばる。
マティアスに叩きつけたい怒りを必死に堪え、まず香澄の安全を優先しようとした。
「香澄」
膝をつき抱き締めようとしたが、凄まじい拒絶に合った。
「いやああぁああぁっっ!! 触らないで!!」
「かす、…………み……っ」
自分を認識しない香澄にショックを受けた佑は、それでも彼女を抱き締めようとした。
しかし香澄はやたらめったらに手を振り回す。
その手が佑の頭や顔、体を打つが、彼はどうしても香澄を抱き締めて、〝いつものように〟なだめすかそうとしていた。
「Dieser Narr!(このバカ!)」
エミリアはマティアスを罵り、思いきり平手を食らわせる。
そしてすぐにバスルームに駆け込み、香澄の体にバスタオルを巻き付けた。
バスルームから出た香澄の背に、廊下の背中がトンッと当たる。
それでも香澄は手と足を動かし続けた。
「だめっ! だめえええぇええぇっっ!!」
自分が全裸である事も、羞恥も、何もかも頭から抜けていた。
不意に、初めて処女を失ってしまった時の事を思いだしたのは、どうしてだろう。
健二に海に連れて行かれ、逃げられなくなった車の中で、抵抗する事を諦めた香澄は人形のように犯された。
晩秋の冷たい月明かりが差し込むなか、香澄はずっと車の天井を見上げていた。
ギシッギシッと車が軋み、窓が曇っていく。
一人で熱くなった健二の声が聞こえるなか、香澄の心はどこまでも冷えていった、――あの時の事を、思い出した。
あの時は誰も香澄を助けられなかった。
分かっていたからこそ、されるがままになって一刻も早く家に帰りたいと望んでいた。
けれど今は、香澄の側には佑がいる。
いつも守ってくれて、無償の愛をくれて、香澄が少しでも悲しめばその原因となるものを怒ってくれる人だ。
――彼を失望させたらいけない。
――彼が求める、綺麗で完璧な〝香澄〟でいなきゃいけないのに。
――また、自分を損なってしまった。
ざり、と香澄の心の中で、何かが大きく擦れる。
それは、香澄の尊厳が傷付いた音だ。
健二によって大きく損なわれた尊厳は、時間を掛けて自力で少しずつ癒やし、佑に愛されて育てられた。
せっかく、「私は幸せだ」と思えるようになったのに――。
――どうしよう。
――佑さんに嫌われる。
――こんな、汚れきった私……。
香澄はただ、自分が犯してしまった過ちの恐ろしさに、悲鳴を上げ続けるしかできなかった。
どれほど、そうやって声を上げていただろうか。
『マティアス!』
いきなり、ドアが激しくノックする音がし、佑の声がした。
けれど香澄はその声が佑だと認識する事ができない。
両手で顔を覆い、柔らかな顔の皮膚に爪を立て、声の限り叫んでいた。
マティアスは恐慌状態になった香澄を無視して、腰にタオルを巻いたままドアに向かう。
素直に開ければ怒り狂った獣がなだれこんでくると分かっていたからか、彼は少ししかドアを開かなかった。
初めに、ドアの隙間から顔を覗かせたのはエミリアだ。
『マティアス、女性の悲鳴が聞こえたけど、あなた――』
しかし彼女の言葉は最後まで紡がれない。
『エミ、どけ!!』
佑の怒号が聞こえ、ドアが思いきり蹴られた。
「香澄!」
部屋に入った佑は、一瞬にして事態を理解した。
己を失い絶叫する香澄の腹部や内腿は、白濁で濡れていた。
それが何であるか、彼が分からないはずがない。
「………………っ、――――――っっ!!!!」
ブワッと膨れ上がった感情を抑えるため、彼は歯を食いしばる。
マティアスに叩きつけたい怒りを必死に堪え、まず香澄の安全を優先しようとした。
「香澄」
膝をつき抱き締めようとしたが、凄まじい拒絶に合った。
「いやああぁああぁっっ!! 触らないで!!」
「かす、…………み……っ」
自分を認識しない香澄にショックを受けた佑は、それでも彼女を抱き締めようとした。
しかし香澄はやたらめったらに手を振り回す。
その手が佑の頭や顔、体を打つが、彼はどうしても香澄を抱き締めて、〝いつものように〟なだめすかそうとしていた。
「Dieser Narr!(このバカ!)」
エミリアはマティアスを罵り、思いきり平手を食らわせる。
そしてすぐにバスルームに駆け込み、香澄の体にバスタオルを巻き付けた。
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