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第八部・イギリス捜索 編
たぬきと金
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『日本のバーの前にある、タヌキの金玉ってなんであんなにデカいんだ?』
「ぶふんっ」
構えていたものの、思いも寄らない斜め上からの質問に、思わず香澄は赤ワインを噴きかけ、噎せた。
『だっておかしいだろ? 俺、動物好きで特にタヌキが好きなんだ。あの何も考えてなさそうな、ボーッとした所とか、愛らしいだろ? あんなに愛らしいのに、日本のバーの前にいるタヌキはやたらでかくて二本脚で立ってて、金玉がデカくて……。初めて日本で見た時、カルチャーショックで帰国してもしばらく頭から離れなかった』
『ちょ……っっ、待って……マティアスさんおかしすぎ……っ』
クックック……と肩を震わせ、香澄は本気で笑っていた。
しばらく笑ったあと、目に浮かんだ涙を拭う。
『ひとまず、日本の場合あれはバーではなく、居酒屋と言います』
「イザカヤ」
『お酒や料理を提供する意味では同じなのですが、より大衆的な用途で使われています。日本で言うバーは、さっきまでいたお洒落な空間を指す……事が多いと思います』
『ふーん……。で、サケも色んな種類出してるよな? 興味があるんだが、種類が多すぎて分からない』
『そうですね。私も日本酒についてはそれほど詳しくなくて……。海外ではとても注目されているって言いますよね』
『取引先にもサケ好きがいるから、今回いいサケでも買えたらいいと思ってる。東京なら色々あるんだろう?』
『お酒を作っている蔵元が日本全国にあります。京都伏見のお酒とか、お米で有名な県のお酒とか色々ありますが……。一番美味しいとされるお酒のランキングを見ても、県はバラバラなんですよね。美味しいと思う物は値段や有名さよりも、その人に合うかどうかだと思います』
ちびちびと赤ワインを飲みつつ、こうして日本の事について話せるのは楽しい。
大人数でワイワイ話すのも楽しいが、やはち少数人でじっくり語る方が好きだった。
『……まぁ、ドイツのビールも南はフルーティだが北に行くほど苦くなるとか……、あるしな』
『そうなんですね。確かにブルーメンブラットヴィルは南にありますし、ビールが飲みやすかったです』
『……そういえばあんた、さっきバーで乾杯の時に目が泳いでたけど、カイの目ぐらいちゃんと見ておいた方がいいぞ』
『え?』
意味が分からず目を瞬かせると、マティアスは目だけで天井を仰ぎ、表情を変えずに言う。
『ドイツでは有名な言い伝えだが、乾杯の時に相手の目をしっかり見ないと、七年間いいセックスができないと言われてる』
『ぶふっ』
『本当だ。カイは気を遣ってあんたに教えなかったのかもしれないけど、アロクラは何か言わなかったか?』
『いえ、何も……』
だがそう言われて初めて、双子と知り合ってから、酒の席で彼らがいつもニヤニヤしていたように思えた。
(あれだったのかな……)
佑は佑で、ドイツの言い伝えを日本に持ち込む気持ちはなかったのだろう。
ましてやセックスが……なんて言い伝えを、彼がわざわざ日本で言う必要もない。
雑学として教えるにしても、少しセクシャルだ。
(向こうは性についてオープンだって言うし、そういうところがこういう言い伝えに繋がってるのかな)
考えていると、マティアスが付け加える。
『まぁ、あんたとカイ仲がよさそうだし、関係ないか』
『そう見えるのなら良かったです』
赤ワインをコクリと飲み、香澄はふと最初の質問を思い出した。
『タヌキの信楽焼ですが、あれは……なんでしょうね? 商売繁盛とかの意味もあるのだと思います。あ……、そう言えばスマホを取りに行こうとしてたんだった』
部屋を出ようとした理由を思い出して、「バーに戻らないと」と思ったが、こうしてマティアスと話し始めた以上、多少遅くなっても構わないだろう。
いずれ佑もバーから戻って来るだろうし、その前には会話を終わらせて迎えに行くのもいい。
『多分、〝金〟がつくので金が大きいほど商売繁盛に繋がる……という意味があるんじゃないでしょうか?』
『へぇ。金(ゴールド)繋がりね』
ふぅん……と頷いたあと、マティアスはさらに日本の文化について質問してきた。
特に祭り文化に興味があるようで、香澄よりも日本中の祭りについて知っているようだった。
しかし『これはどういう意味だ?』と尋ねられても分からない場合もあったので、「勉強し直します」としか言えなかった。
さすがに〝かなまら祭り〟を話題に出された時は、赤ワインを噴きかけたが。
「ぶふんっ」
構えていたものの、思いも寄らない斜め上からの質問に、思わず香澄は赤ワインを噴きかけ、噎せた。
『だっておかしいだろ? 俺、動物好きで特にタヌキが好きなんだ。あの何も考えてなさそうな、ボーッとした所とか、愛らしいだろ? あんなに愛らしいのに、日本のバーの前にいるタヌキはやたらでかくて二本脚で立ってて、金玉がデカくて……。初めて日本で見た時、カルチャーショックで帰国してもしばらく頭から離れなかった』
『ちょ……っっ、待って……マティアスさんおかしすぎ……っ』
クックック……と肩を震わせ、香澄は本気で笑っていた。
しばらく笑ったあと、目に浮かんだ涙を拭う。
『ひとまず、日本の場合あれはバーではなく、居酒屋と言います』
「イザカヤ」
『お酒や料理を提供する意味では同じなのですが、より大衆的な用途で使われています。日本で言うバーは、さっきまでいたお洒落な空間を指す……事が多いと思います』
『ふーん……。で、サケも色んな種類出してるよな? 興味があるんだが、種類が多すぎて分からない』
『そうですね。私も日本酒についてはそれほど詳しくなくて……。海外ではとても注目されているって言いますよね』
『取引先にもサケ好きがいるから、今回いいサケでも買えたらいいと思ってる。東京なら色々あるんだろう?』
『お酒を作っている蔵元が日本全国にあります。京都伏見のお酒とか、お米で有名な県のお酒とか色々ありますが……。一番美味しいとされるお酒のランキングを見ても、県はバラバラなんですよね。美味しいと思う物は値段や有名さよりも、その人に合うかどうかだと思います』
ちびちびと赤ワインを飲みつつ、こうして日本の事について話せるのは楽しい。
大人数でワイワイ話すのも楽しいが、やはち少数人でじっくり語る方が好きだった。
『……まぁ、ドイツのビールも南はフルーティだが北に行くほど苦くなるとか……、あるしな』
『そうなんですね。確かにブルーメンブラットヴィルは南にありますし、ビールが飲みやすかったです』
『……そういえばあんた、さっきバーで乾杯の時に目が泳いでたけど、カイの目ぐらいちゃんと見ておいた方がいいぞ』
『え?』
意味が分からず目を瞬かせると、マティアスは目だけで天井を仰ぎ、表情を変えずに言う。
『ドイツでは有名な言い伝えだが、乾杯の時に相手の目をしっかり見ないと、七年間いいセックスができないと言われてる』
『ぶふっ』
『本当だ。カイは気を遣ってあんたに教えなかったのかもしれないけど、アロクラは何か言わなかったか?』
『いえ、何も……』
だがそう言われて初めて、双子と知り合ってから、酒の席で彼らがいつもニヤニヤしていたように思えた。
(あれだったのかな……)
佑は佑で、ドイツの言い伝えを日本に持ち込む気持ちはなかったのだろう。
ましてやセックスが……なんて言い伝えを、彼がわざわざ日本で言う必要もない。
雑学として教えるにしても、少しセクシャルだ。
(向こうは性についてオープンだって言うし、そういうところがこういう言い伝えに繋がってるのかな)
考えていると、マティアスが付け加える。
『まぁ、あんたとカイ仲がよさそうだし、関係ないか』
『そう見えるのなら良かったです』
赤ワインをコクリと飲み、香澄はふと最初の質問を思い出した。
『タヌキの信楽焼ですが、あれは……なんでしょうね? 商売繁盛とかの意味もあるのだと思います。あ……、そう言えばスマホを取りに行こうとしてたんだった』
部屋を出ようとした理由を思い出して、「バーに戻らないと」と思ったが、こうしてマティアスと話し始めた以上、多少遅くなっても構わないだろう。
いずれ佑もバーから戻って来るだろうし、その前には会話を終わらせて迎えに行くのもいい。
『多分、〝金〟がつくので金が大きいほど商売繁盛に繋がる……という意味があるんじゃないでしょうか?』
『へぇ。金(ゴールド)繋がりね』
ふぅん……と頷いたあと、マティアスはさらに日本の文化について質問してきた。
特に祭り文化に興味があるようで、香澄よりも日本中の祭りについて知っているようだった。
しかし『これはどういう意味だ?』と尋ねられても分からない場合もあったので、「勉強し直します」としか言えなかった。
さすがに〝かなまら祭り〟を話題に出された時は、赤ワインを噴きかけたが。
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