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第八部・イギリス捜索 編
酔っ払いの目覚め
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席についてから気がついたが、マティアスが不在だ。
「マティアスは?」
「さあ? トイレじゃない?」
「男の行き先なんて知らないよ」
双子らしい答えに「それもそうだ」と思い、佑は新しくウィスキーを頼んだ。
『カスミさん大丈夫だった?』
『ああ、ちゃんと寝かせてきたから問題ない』
『カイは知らないうちに、恋人に甘い男性になっていたのね』
エミリアに悪戯っぽく言われ、佑は苦笑いする。
『今までそれほど本気になれる相手がいなかったからだ。エミも知っているように、俺もアロクラもオーパの血を引いている。オーパの愛妻家具合はエミも知ってるだろう?』
アドラーとエミリアの祖父は仲が悪い。
佑は生まれてからずっと日本だったので、大きくなってから母や双子たちに教えられるまで気付かなかった。
アドラー本人は誰かを表立って悪く言わないし、節子も論外だ。
結局周囲から何となく話を聞き、アドラーとエミリアの祖父は、ドイツ国内の富裕層で派閥ができるほどの関係だと知った。
しかしそれは大人たちの話で、孫世代の自分たちには関係ない。
アドラーも孫までは嫌わないと思っていたようで、佑や双子がエミリアと遊んでいても特に何も言わなかった。
エミリアがクラウザー家の城に遊びに来た事も何度かあるが、祖父母は普通に接していたように思える。
だから彼女も、クラウザー家の家族、そしてアドラーがとても妻想いなのを知っているはず……と思って話題を振った。
『そうね。……というか、カスミさんがいなくなって、やっと私を愛称で呼んでくれたわね? 理由が分かっていても、ちょっと寂しかったわ』
悪戯っぽく言われ、佑は『すまない』と笑う。
言われた通り、香澄を気にさせたくなかったので、佑はあえて幼馴染みを相性で呼ばなかった。
『タスクは少しでもカスミを心配させたくないんだよねー』
『心配性な所も、ちょっと母親気質なんじゃないの? っていうかお父さん?』
香澄からもちょくちょく「お父さん」と言われているため、タスクが閉口する。
『いいだろ、好きな子は大事にしたいんだ』
そんなたわいのない話を延々と続け、気がつくと二十二時半になっていた。
『そう言えば、マティアス遅いな?』
『ちょっと連絡してみるわね』
エミリアがスマホを取り出し、マティアスに電話をかける。
やや少ししてマティアスが電話に出たようで、二、三会話をすると切ってしまった。
『フライトで疲れたんですって。部屋で休んでるみたい』
『割とヤワだな』
アロイスがクク、と忍び笑いをする。
『マティアスだって三十歳だろ? エミだってあと三年経ったら無事に三十路入りだ』
『ちょっと、もう……。やめてよね』
年齢の話になり、エミリアが天井を仰ぐ。
そのあとも四人で楽しく酒を開け、主にドイツでの話を進めていった。
**
「ん……あれ……」
目を開けると、暗い室内の天井が映った。
とても楽な格好で横になっていて、自分がどこにいるのかすら分からない。
モソリと起き上がると、ホテルの部屋に寝かされ、パジャマに着替えさせられていた。
「あ」
首を巡らせると、ベッドサイドに水のペットボトルと佑のメモがある。
『疲れて酔ってしまったようなので、部屋に運んで寝かせました。もし目が覚めたら、本格的に寝てしまう前に歯磨きをする事。何かあったら、俺に電話をするかフロントへ。俺はバーの閉店時間まで飲んでいると思う。深夜一時頃には戻る。』
いつも通り綺麗な字で佑のメモがあり、思わず笑顔になる。
「お水、ありがたく頂こう」
まだ頭はボーッとしていて、体温も高いので佑の配慮がありがたい。
喉を鳴らして水を飲むと、ひとまず手洗いに向かった。
用を足して洗面所の鏡を見ると、真っ赤になった自分が映っている。
「やだ……。顔真っ赤。しかも佑さんメイク落としてくれたんだ」
顔はきちんとスキンケアされていて、佑の細やかな配慮に感謝する。
「ん……? あれ、荷物……?」
ベッドルームもリビングも探したが、香澄のハンドバッグがない。
佑がいるし、一緒にいるのは双子たちなので、大丈夫とは思うが貴重品が手元にないのは少し心許ない。
スマホもバッグの中だ。
「マティアスは?」
「さあ? トイレじゃない?」
「男の行き先なんて知らないよ」
双子らしい答えに「それもそうだ」と思い、佑は新しくウィスキーを頼んだ。
『カスミさん大丈夫だった?』
『ああ、ちゃんと寝かせてきたから問題ない』
『カイは知らないうちに、恋人に甘い男性になっていたのね』
エミリアに悪戯っぽく言われ、佑は苦笑いする。
『今までそれほど本気になれる相手がいなかったからだ。エミも知っているように、俺もアロクラもオーパの血を引いている。オーパの愛妻家具合はエミも知ってるだろう?』
アドラーとエミリアの祖父は仲が悪い。
佑は生まれてからずっと日本だったので、大きくなってから母や双子たちに教えられるまで気付かなかった。
アドラー本人は誰かを表立って悪く言わないし、節子も論外だ。
結局周囲から何となく話を聞き、アドラーとエミリアの祖父は、ドイツ国内の富裕層で派閥ができるほどの関係だと知った。
しかしそれは大人たちの話で、孫世代の自分たちには関係ない。
アドラーも孫までは嫌わないと思っていたようで、佑や双子がエミリアと遊んでいても特に何も言わなかった。
エミリアがクラウザー家の城に遊びに来た事も何度かあるが、祖父母は普通に接していたように思える。
だから彼女も、クラウザー家の家族、そしてアドラーがとても妻想いなのを知っているはず……と思って話題を振った。
『そうね。……というか、カスミさんがいなくなって、やっと私を愛称で呼んでくれたわね? 理由が分かっていても、ちょっと寂しかったわ』
悪戯っぽく言われ、佑は『すまない』と笑う。
言われた通り、香澄を気にさせたくなかったので、佑はあえて幼馴染みを相性で呼ばなかった。
『タスクは少しでもカスミを心配させたくないんだよねー』
『心配性な所も、ちょっと母親気質なんじゃないの? っていうかお父さん?』
香澄からもちょくちょく「お父さん」と言われているため、タスクが閉口する。
『いいだろ、好きな子は大事にしたいんだ』
そんなたわいのない話を延々と続け、気がつくと二十二時半になっていた。
『そう言えば、マティアス遅いな?』
『ちょっと連絡してみるわね』
エミリアがスマホを取り出し、マティアスに電話をかける。
やや少ししてマティアスが電話に出たようで、二、三会話をすると切ってしまった。
『フライトで疲れたんですって。部屋で休んでるみたい』
『割とヤワだな』
アロイスがクク、と忍び笑いをする。
『マティアスだって三十歳だろ? エミだってあと三年経ったら無事に三十路入りだ』
『ちょっと、もう……。やめてよね』
年齢の話になり、エミリアが天井を仰ぐ。
そのあとも四人で楽しく酒を開け、主にドイツでの話を進めていった。
**
「ん……あれ……」
目を開けると、暗い室内の天井が映った。
とても楽な格好で横になっていて、自分がどこにいるのかすら分からない。
モソリと起き上がると、ホテルの部屋に寝かされ、パジャマに着替えさせられていた。
「あ」
首を巡らせると、ベッドサイドに水のペットボトルと佑のメモがある。
『疲れて酔ってしまったようなので、部屋に運んで寝かせました。もし目が覚めたら、本格的に寝てしまう前に歯磨きをする事。何かあったら、俺に電話をするかフロントへ。俺はバーの閉店時間まで飲んでいると思う。深夜一時頃には戻る。』
いつも通り綺麗な字で佑のメモがあり、思わず笑顔になる。
「お水、ありがたく頂こう」
まだ頭はボーッとしていて、体温も高いので佑の配慮がありがたい。
喉を鳴らして水を飲むと、ひとまず手洗いに向かった。
用を足して洗面所の鏡を見ると、真っ赤になった自分が映っている。
「やだ……。顔真っ赤。しかも佑さんメイク落としてくれたんだ」
顔はきちんとスキンケアされていて、佑の細やかな配慮に感謝する。
「ん……? あれ、荷物……?」
ベッドルームもリビングも探したが、香澄のハンドバッグがない。
佑がいるし、一緒にいるのは双子たちなので、大丈夫とは思うが貴重品が手元にないのは少し心許ない。
スマホもバッグの中だ。
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